255.
風呂上がりの燐は、何か空気重いなと3人を横目に見ながら随分前に約束した炊き込みご飯の蒸らしを確認する。
「旨そうな匂いだな。もう食えんのか?」
「え?食べれますけど師匠さっきご飯食べましたよね?」
「まだ食える。随分待ったからな」
白雲斎は、明日食いたいと言ってから随分と日が経ってんぞと燐の側に屈む。
「こっちまだ終わってねぇんだけど?」
白雲斎が提案したのだから責任持って参加しろと佐助はわざと口に出す。
「あ、まだ仕事中だった?ごめんなさい」
黙ってるのに意思疎通出来てるとか凄いなと、土鍋のご飯をかき混ぜる。
「はいどうぞ。残りも握っときますね」
燐は皆の前に2つずつ握り飯を乗せた皿を置くと、土鍋の前に戻った。多めに炊いたから才蔵さんにも持たせようと燐は握り飯をホイルに包む。
「ね、その手に着けてんのって何?」
「ヒッ 手袋?ビニール手袋」
何時まで経っても慣れないのかと苦笑しつつ佐助はビクついた後で両手を差し出す燐を見た。
「手で握らねぇんだ」
「ん?あ、嫌かなって思って」
佐助の問いに、若者って人の握ったものとか無理とか言うし。とビニール手袋を見に来た才蔵と白雲斎にも見せた。
「んなことしてたのか。必要ねぇぞ?」
呆れた声の白雲斎に同意するよう頷く才蔵と佐助。燐は確かにこの時代は手で握ってたのかとビニール手袋を外す。
「話し合いって終わったんですか?」
皆集まってるけどと燐が顔を見回せば、白雲斎が頷く。
「お前さん日中は家に居るんだよな?」
「ちょっと」
白雲斎が燐に話しかけると佐助が遮るように声を荒げる。燐は何事だろうと2人を見た後で才蔵を見た。
「あのなぁ知らねぇで首突っ込まれるよりゃ、状況を知っといた方が良いだろ。お前等が思ってるよりこの姫さんは聡いぞ?」
白雲斎の言葉に才蔵は確かに事前にある程度の情報開示は必須だろうと佐助を見る。
「あの長屋のお前さんの隣に住んでんのとお前さんの夫が狙われてんだ」
白雲斎は口を噤んだ佐助を見ると燐に向かって話し始めた。
「お城の抜け道作りに参加させて…殺す前提で仕事させようとしてるって、こと?」
「殺すってのは、まぁ最終的にそうなるってことだけど」
燐の表情に佐助は溜息を洩らしつつ呟く。
「お前さんの思ってる、秘密を知ったからには。ってやつだな」
「うわぁ。そんなとこは忠実なんだ時代劇…」
燐は白雲斎に言い当てられたことにも気付かないのか不安気に呟いた。
「それ正解な解決方法あるんですか?」
御老公も金さんも新さんも居ない解決法ってなんだろう?と皆の顔を見る。
「さっさと城を落としゃ抜け穴も何も無くなんだろ?」
白雲斎は置いてある握り飯をひょいひょいと摘まみ、皿に盛ると定位置へ座った。
「…ここに滅ぼす宣言した人居るんですけど」
燐は冗談かなんかなの?と佐助と才蔵を見る。
「今回は都合良く、やろうと思えば出来るからってのと、まぁ。…それが一番少ない人手で簡単なんだけど」
佐助はそこまで話すとチラと才蔵を見る。才蔵は武田の内情を考えると眉を寄せる。
「よし滅ぼそうって言って出来ちゃうもんなの?」
燐は3人の顔を見回す。戸惑う2名と当たり前だと頷く1名。燐は多分出来るんだろうなとその様子から悟った。
「お前さん、知り合いが殺されるって分かってて知らぬ振りしてられるか?」
白雲斎は燐が巻き込まれるのを懸念する佐助と、自ら飛び込むのではないかと警戒する才蔵の胸の内を纏めて燐に問い掛けた。
「知り合いが殺されるなら…、滅ぼすに賛成」
「よし、そんじゃあ鎌持ちに繋ぎ取れ」
話は決まったと白雲斎は佐助の方へ顔を向ける。才蔵は忍が勝手なことをして大丈夫なのかと白雲斎を見る。
「どの道武田は終わる。なら余計な死人は出すべきじゃねぇ。って言ったところで忠義だのなんだの面倒臭ぇの出すんなら、俺が動いてるってお前等の君主に言っとけ」
白雲斎は才蔵に顔を向けると才蔵は頷き姿を消した。
「俺も。あ、や…俺は後で」
続こうとした佐助は燐が視界に入ると、その場に座る。
「行ってきなよ。朝まで帰れば良いんでしょ?」
私ここに居るしと言えば佐助はチラと白雲斎を見て姿を消した。
「で、勝手に動いちゃって良いものなんですか?」
上司に確認しないでってことだよね?と燐が問えば白雲斎は2つ目の握り飯をごくりと飲み込む。
「忍はな?君主の手足で目で耳ってのが基本」
白雲斎は若んとこの忍は若の不利益を望まないと付け足す。
「狙われてんのは働ける男共ってなったら早ぇ方が良いんだよ」
単純に労働力が減れば収益が減るのかと燐が言えば白雲斎は頷く。
「ま、何処まで手足の勝手を許すかってのも君主の力量だがな」
この人色々考えて動いてるんだなぁと燐は白雲斎にお茶を出した。
「熟練じゃないと判断難しそうですけどね」
好き勝手やって良いと思って暴走されても困るし、逐一命令を下したことのみ動かれても大変そうと燐は眉を寄せる。
「だから六等が居るんだろ」
「あー、成程」
真田忍の一番上が若いチャラ男でも周りがガッチリ硬いからってことかと燐は深く頷いた。




