254.
笑顔の燐。不機嫌な佐助。才蔵は感情を表に出す忍とはと溜息を漏らす。
「私にもお土産ありがとうございます」
佐助の部屋に置いてきた寝袋とボアマットを確認した燐は、これで暖かく眠れると奥の部屋へ置きに行った。
「はい。さっき滝さんと作ったの。野菜沢山買ってきてくれてありがとね」
戻った燐は、椀をそれぞれに手渡し、いただきますと手を合わせた。この3人で食べたご飯って随分前だと才蔵と佐助を見る。
「改めてありがとうございます」
燐は2人に頭を下げた。燐の思いが読める2人は表情を和らげる。
「俺も。こんな上手い飯食わせてくれてありがとうございます」
「同じく。有り難く馳走になります」
「おかわりありますから沢山食べてくださいね」
先に食べ終えた燐は、多分難しい話しもあるんだろうと部屋を移動した。
「脱、戦国添い寝システム。ってやっぱり2枚敷けないか」
出来れば心境的に布団を少し離したかったが。少し重なる敷布を見て、燐は狭い方に寝袋を広げる。
「これなら1人で寒くない筈。後で湯たんぽにお湯入れよう」
念のためと自作の掛布で寝袋を覆った燐は完璧。と満足し、ついでに佐助の布団も準備した。
「まだ話し中かな?」
布団を敷き終えた燐が呟くと、ひょこりと佐助が顔を覗かせる。
「込み入った話しは終いだから、燐に酌を頼みてぇんだけど」
「あ、はい」
佐助が自分を「燐」と呼ぶ時は何かに警戒している時だと燐は返事をし、言われた通り才蔵に酌をする。
「急な事で迷惑を掛ける」
湯呑みを持つ才蔵に酒を注ぐと、才蔵は軽く頭を下げた。
「生憎雪で夜道は危険だろうからってな。明日、日が出てから発った方がと俺が引き止めた」
佐助は話しながら湯呑みの酒を少し飲む。
「そうですね。何もなくて申し訳ないですがどうぞお休みください」
燐は滝から貰った漬物を出すと佐助の隣に座る。
「手の具合は?先の文では火傷を負ったと」
「面目ねぇ」
才蔵が話すと佐助はひらひらと手を振り、随分良くなったと伝える。
「山の麓に湯溜まりがあって。そこで浸かったら大分良いんで仕事も今ん所滞りなく」
「なれば良い。此度の城の普請の最中、引き抜きか姿を眩ます者が多くてな」
「そういや、この辺でもありました」
「やはりか。行方知れずは甲斐以外の出が殆どなのだ」
燐は2人の話を聞き流しながら、明日の朝食のことを考えていた。
「燐、先に休むか?」
ぼんやりしていると言いながら、佐助は燐の顔を覗き込む。燐は頷くと才蔵に頭を下げた。
「なれば某も休むとする」
「いえそんな。まだ酒もありますんで」
「いや。不慣れな道を荷運びで少々くたびれたのだ」
才蔵の言葉に佐助は燐に片付けを頼み、自分は才蔵の寝藁を準備する。
「寒さ凌ぎに竈の火はそのままに、朝まで消えねぇんで」
佐助は奥の部屋から掛布を持って来ると、寝藁の上に重ね置く。
「こいつぁうちのが繕った、布ん中に筵に巻いた藁が入ってんですが何も無ぇよりゃあったけぇんで」
そう言いながら才蔵に掛布を渡した佐助は頭を下げ、燐を促し奥の部屋へ移動した。
「少ししたら分身出すからさ。そしたら風呂に行こ?」
布団に入ってきた佐助は燐を寝袋ごと抱えると耳元で囁く。
「無理に行かなくても良いよ?」
「ん。話しもあるし。だからもう少し待ってて」
結局抱えられる形になった燐は、静かに佐助たちが動くのを待った。
「中々面倒臭ぇなぁ」
白雲斎は若い2人の忍の話しにガリガリと頭を掻く。
「そもそも密事が俺等に知られてる時点で殺したって無駄じゃねぇの?」
「ここんとこ武田は穴だらけだなぁ」
杜撰過ぎる。なんだって殿は追従に決めたんだと白雲斎は顔を顰めた。
佐助たちが掘らされていた堀の一部は、城内部の抜け穴の土を搬出しやすくするため。そして城の下まで続いた穴は強度がなく土砂崩れが頻繁に起こり中々進まない。
「訳が分からず掘ったら、そうなんだろぉな」
しかも今まで知らずに抜け穴を掘らされていた1人が城の下に繋がっていることに気付き、消された。
「そんで今度は番匠集めでお前も引っ掛かったってことか」
白雲斎の言葉に佐助は眉を寄せると溜息を漏らす。
「細工職人ってのも使えると思ったみてぇ。けど仕事って装飾だろ?建てるのと関係ねぇと思うんだけど」
「んなことも分からねぇのしか残ってねぇんだろ」
白雲斎の言葉に静かに才蔵が頷く。
「人手が足りねぇのか、仔細が伝わってねぇのかその確認に頭巾が加わるんだろ?」
「俺の潜伏、知らねぇってのもさ」
武田の仕事中の才蔵が、城周辺の監視に抜擢されたと白雲斎が溜息を漏らすと、佐助も同じく眉を下げる。
「忍なれば個を確認せぬのかと」
「無理だろそれ」
本来潜伏は極秘。全員が周知することではないが、指示を出す上役は知るべき事柄だろうにと静かな空間に溜息が響く。
「師匠の言った通りになりそう」
武田は始めは素人や単発の仕事をこなす番匠崩れで掘り進めたがそれも限界と、知識のある他国の職人を集め始め、五郎と佐助も召集された。
「もう潰すか」
白雲斎の物騒な呟きに才蔵は指示を仰ぐよう佐助を見た。




