三十三話 ニルとヨハンナ【7】
三十三話です。よろしくお願いいたします。
兵装バイク、オディール。テストライダーはニル・鬼。ライダーとの円滑なコミュニケーションに重点を置いた自律型人工知能搭載の大型バイクであり、兵装とは言うが銃火器類は搭載していない。
装甲から細部のパーツに至るまで対戦車ミサイルに耐えうる強度と、あらゆる地形に対応可能な特殊タイヤの装備に加え、光学迷彩も本機の特徴である。また、オディールは集めた情報をライダーと共有するのだが、その際外部に情報が漏れないようオディールの音声は機械音になっている。開発者であるルシファーを除いてニルのみが対話可能である。
尚、このオディールには姉妹機がおり、ニルはそちらのライダーも兼任している。
オデット────オディールとは異なり、昆虫型の小型ロボットである。小型といっても乗用車位の大きさはあり、オディールは闇に溶け込むような漆黒のボディだが、オデットにはそれとは正反対の白銀のボディが施されている。
オディールとオデットはアンヘルことルシファーがAI技術を使った次世代のロボットとして世界に公表しており、そのせいで未知の軍事技術として世界中からスパイがやって来る原因にもなっている。
ちなみに、公表はされていないがオデットにはある程度の装備が施されている。
「なァなァ。こいつ、喰うのか?」
「いや……喰わねぇよ」
蜘蛛の巣のような物でぐるぐる巻きにされて地面に転がされている偽フォルティスを脚で突つきながら、オデットはニルに訊いた。
ニルはオデットの質問に若干引きながらも、何とか間に合ったことに安堵した。もしオデットが間に合っていなかったら、偽フォルティスは死んでいただろう。
オディールとオデットの起動に関しては全てニルに任されており、その判断にルシファーやグウィネヴィアが口を挟むことはない。そのため、オデットを起動させたことがルシファーの耳に入ることはない。
ジャンヌの探知外に外れるためとはいえ、あの高さから落とすにはリスクが高かった。下が木々で覆われてはいるが、絶対に死なないという保証はない。
ニルは密かにオデットに起動要請をかけており、下に待機させていたのだ。
「ン〜。何処に落ちて来るかわからなかったから、適当にあっちこっちに糸張っていたけれど、回収する?」
こいつ、とニルはやや眉間に皺を寄せる。
(人工知能とは思えない程、単純な考えをするんだよな。オディールはちゃんと計算するけれど、オデットはそういうのが一切感じられないんだよ)
オディールは合理的な考え方をするが、オデットはどういう訳か感覚的な考え方をする。ルシファーが敢えてそういう風に設計したのか、偶々そうなったのかはわからない。それ故、ニルはよっぽどのことがない限りオデットを起こすことはない。
「道すがら回収すればいいだろ」
「そッかァ!ニル、あッたま良い!」
こいつ、とニルはワナワナと怒りを抑えて震える。
とはいえ、これから先はオディールだけよりもオデットもいた方がいいだろう。
ニルは背後に控えているオディールを振り返る。
「オディール。お前は偽フォルティスを乗せて後ろからついて来い。オデット!そいつの糸をほどいたらコックピットを開けろ」
はァい、とオデットは返事をすると偽フォルティスの糸を鋭利な爪でバチン、と切った。
ようやく解放された偽フォルティスは、オデットを振り返るとワナワナと震えた。
「こ、こんな高度なAI技術が……」
「そうか?うちではこんなの普通だけれどな。おたくらの国が遅いんじゃねぇの?」
ニルの挑発に偽フォルティスは、カッと目を見開いて振り返った。
「技術の独占だぞ!アンヘル・鬼が企業秘密等とぬかさなければ、我が国や他国もこの程度の物は造れる!」
「あァ!?」
ドンッ、とオデットは前の脚を偽フォルティスの真横の地面に突き立てた。勢いよく脚を振り下ろしたため、土が偽フォルティスにかかった。
「この程度、だとォ?企業秘密を理由に外野からわめき散らしている連中にはわからないだろうよ。文句言う前に頭を動かせ」
オデットはグイグイ、と目玉を偽フォルティスに近付けながら怒りをぶちまけた。
その様子を見ながらニルは養父を思い出した。
(怒り方が開発者に似ている……)
オデットに叱責された偽フォルティスは、あまりの恐ろしさに身体が数ミリ縮んでしまった。あの黒々とした目玉に睨み付けられるのは、相当精神にくるだろう。
「#@&☆*!」
「うん。そだね。移動しよっか」
オディールの機械音にニルは頷くと、偽フォルティスにヘルメットの装着を促し、自分はオデットに乗り込んだ。
オデットのコックピットは一人乗りで、割と狭い。ただ、空調はしっかりしているので、夏でも快適に搭乗できるようになっている。
また、視界をオデットと共有するためにライダーはバイザーを装着する必要があり、この時のオデットとの視界共有を幻視と言う。
「よし。オデット、コックピットを閉じろ。幻視を開始する。三、二、一────」
グワッ、とニルの視界が歪むとオデットの視界と繋がった。
「……相変わらず気持ち悪っ」
「仕方ないだろォ。その程度で済んでいるんだぜェ?」
うぅ、と呻きながらニルは操縦桿を握った。
「オデット。オディールと回線を繋げ」
「応」
ガガガ、という雑音の後に愛らしい機械音で返事があった。
ニルは頭を振ると、オディールに尋ねた。
「偽物はヘルメットをつけているな?」
「☆♪#**」
オディールの返答にニルはよし、と頷いた。
「オデット。操縦は任せた。これよりジャックを開始する」
「了解〜。音無しの魔法を使うぜェ」
そう言うとオデットは自分とオディールに魔法をかけた。
音無しの魔法────術者が発する音を消す魔法で、主に暗殺に使われてきたのだが、現代では暗殺以外にも利便性があるため、魔法使いの間では非常に重宝されている。
ニルは魔法使いではないのだが、オデットは魔法が使えるよう設計されている。
オデットが走り出すと、偽フォルティスを乗せたオディールがその後ろを追走する。
しばらくするとオデットが口を開いた。
(相手はあの猪突猛進アンドロイドかァ。負ける気はしないけれど、身内同士はなァ)
(@&#☆*♪)
(うん。まァ、確かに。別にこッから関係が悪化するとか、そういうことはないだろうけれど……)
オデットはオディールと回線を通して会話ができる。AI同士の会話が外部に漏れることはないので、偽フォルティスにこの会話は全く聞こえない。
(ルシファー様は食べた人間の脳から情報を得ることができる、て言うけれど、本当にこの偽物を食べるつもりなんか?あの悪魔、そんなに単純な頭だッたッけ?)
(☆♪○**&#@、%#♪*○&)
オディールの返答にオデットはうゥん、と黙り込む。
ルシファーは先の先まで考えるタイプだ。時々突飛な行動もあるが、殆どは計算した上で動いている。そのことをよく知っているオデットだからこそ、執拗にジャンヌに偽フォルティスを追いかけさせる理由がわからない。
(オディールは何か考えがある、て言うけどさ。ウチは何が何やらさッぱりだよ)
いや、とニルが二機の会話に割って入ってきた。
「わかったぞ。お父様の狙いが」
王城・執務室────
アナーカは耳をすませるような仕草からぱっとルシファーに向き直った。
「平蜘蛛様から伝言です。現在、偽フォルティス長官はオディールに乗って逃走をしています。ニル様はオデットに搭乗しているようです」
ルシファーはアナーカからの報告を聞きながら、窓の外を眺めた。
「そうか」
短い返事にアナーカは静かにため息を吐いた。
(何処まで計画通りなのか知らないが、概ね計画通りという所か。ニル様が人気のない場所を好むことを知った上で、フォルティス長官の偽物にわざとそこを通らせてニル様に違和感を持たせる。更にそこにジャンヌという弾丸をぶち込み、オデットの出撃を余儀なくさせる。おそらく、グウィネヴィア様もジャンヌ様も陛下の思惑を知らないで、言われるがままに出動したのだろう)
アナーカは持っていたタブレットを開くとオデットの設計図を画面に映した。
(オディールとオデット。このニ機が揃うことで相手の脳内をハッキングすることが可能になる。常人だったら膨大な情報量で脳がパンクするだろうが、ニル様はその情報処理のために造られた、バイオロイドだ)
アナーカは静かにタブレットを閉じた。
三十三話を読んでくださり、ありがとうございます。
さて、引き続き登場人物の紹介をしていきたいと思います。今回は主人公のユルバンについてです。
ルシファーを主人公に据えようと考えていた時は、主人公のはちゃめちゃに振り回される準主人公の立場でした。ですが物語を書き進めていくうちに、これは彼を主人公にした方が話が回るのでは、と思いユルバンを主人公にしました。
さて、そのユルバンですが彼は半分人間で半分人ならざる者です。中途半端な存在であるため、人からも人ならざる者からも警戒されています。本人は気にすることなくヘラヘラしているのですが、ルシファーは何気にそんなユルバンの境遇を気にかけています。
さて、ユルバンの紹介はまた次のお話の後書きで書こうと思います。
次回もご縁ありましたら、よろしくお願いいたします。




