三十二話 ニルとヨハンナ【6】
三十二話目です。よろしくお願いいたします。
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ニルと偽フォルティスは同時に悲鳴を上げた。
それは余りにも劇的な再登場の仕方であると同時に、恐怖を掻き立てる程インパクトのあるものだったからである。
(びっくりした……)
ニルは驚きはしたものの、ハンドルから手を離してしまうことはなかった。
(暴走したカオ◯シみたいだった……)
ギュッとハンドルを握ると、オディールが電子音を鳴らした。
「*#○⬜︎?」
「大丈夫……ちょっと怖かっただけ……」
その音にニルは涙声で答えた。本当に怖かったのだ。
偽フォルティスはというと、本当にスパイなのかという位喚いており、一体どういう人選でこの人物になったのかニルは疑問だった。
擁護するとすれば、彼────或いは彼女────は魔法等の神秘に疎く、馴染みが全くない人物で、今回が初めての遭遇だとすれば納得のいく反応ではある。
今回、この偽フォルティスを追っているジャンヌシリーズは、魔法と科学の融合に成功した例であり、アンドロイドといっても神秘に半身浴をしているような存在である。身体は機械でも、彼女のエネルギーは神秘に頼っている。あの木々を薙ぎ倒す驚異的な膂力も神秘の力なのだ。
詰まる所、ジャンヌは神秘の塊みたいなものだ。未だ国外では彼女程のロボットは完成していないこともあり、それを急に理解しろと言われても土台無理な話である。
ニルが膝でオディールのタンクを数回軽く叩くと、ニセンチ程開いた。そこからニルはベルトのような物を取り出し、偽フォルティスに渡した。
「これで俺とあんたの身体を固定してくれ。万が一振り落とされでもしたら大変だからな」
偽フォルティスは声を掛けられてやや落ち着いたものの、ベルトを受け取る手は震えていた。無言で受け取った所を見ると、まだ上手く話せないのだろう。
「留め具が俺の腹にくるようにしてくれ」
後ろから刻一刻と迫っているジャンヌを意識しながらも、ニルは冷静に淡々と偽フォルティスに指示を出した。
ニルがこんな状況でも落ち着いていられるのは、姉ヨハンナの存在が大きい。
ヨハンナは常にニルの傍らにいて、最愛の弟を守り、時には助言を与えてくれる。ニルにとってはかけがえのない存在であり、最も頼りになる家族だった。
先程のベルトの指示も、ヨハンナがニルに伝えたのだ。何故なら、ニルは相当パニクっているからだ。
(怖い……!索敵型なのに、全然後方支援っぽくない!寧ろ前衛向き!)
「落ち着きなさい。確かに驚異的な力だけれど、戦闘能力はジャンヌシリーズの中でも下位よ」
パニックになっている弟をヨハンナは落ち着かせようと努める。
(下位じゃない!絶対違う!)
ニルは姉の言葉を全否定した。
ヨハンナはふぅ、とため息を吐く。
「いいこと?さっき確かにジャンヌは索敵範囲を広げたけれど、その範囲だって王国全土という訳ではないでしょう?広げたとしても、精々城下から市街地までよ!」
確かに先程、オディールがジャンヌの索敵範囲拡大を感知していた。ヨハンナの言う通り、範囲を広げたとしてもジャンヌにもそれらの情報を処理するために、一度に読み込める情報量には限りがあるだろう。
(そういえば、以前お父様が言っていたな。索敵型ジャンヌは特に開発に時間がかかった、て。索敵範囲がどうのこうの、とか……)
索敵と後方支援を主な役割とする索敵型ジャンヌは他のシリーズにはない特徴があり、その最たるものが大量の情報をたった一機で捌けることだ。ただ、どんなに優れているものでも許容量というものがあり、キャパオーバーしてメモリーの故障を防ぐために、最大索敵範囲が決まっている。
ニルははっとした。
(もしかしたら────)
「@&#*%!」
けたたましい電子音が鳴り響き、オディールがニルに警告を促す。だがニルは逆に笑みを浮かべた。
スピードを落とさずにニルはオディールの車体を滑らせてドリフトさせると、彼はベルトの留め具を外した。刹那、偽フォルティスの身体は遠心力によってバイクから吹っ飛ばされた。
それまで木々に覆われていた視界が急に開け、空が見えたかと思うと偽フォルティスは急速に落下していった。
ニルはベルトを回収すると、追って来たジャンヌと対峙した。
ジャンヌは空っぽの後部座席に視線をやり、眉を顰めた。
「崖下に落としましたね」
「下は森になっているから問題ないよ」
「無茶なことをなさる。流石は陛下のご子息ですね。けれどニル様。どうかこの件から手を引いてください。貴方を傷付けたくはありません」
「同意見。俺もあんたを傷付けたくない」
そう言うとニルはエンジンをふかし、ジャンヌに向かって全速力で突進を仕掛けた。
ジャンヌは小型球体ロボットを取り出すと頭上に投げた。すると、ロボットから蜘蛛の巣のような網がニル目掛けて射出された。
「今だ!オディール!」
ニルがオディールに命じると漆黒のバイクは加速し、ジャンヌまで迫ったかと思うと黒い霧が車体とライダーを包んで衝突寸前で忽然と消えた。
ジャンヌは何が起きたのかわからず、呆然と立ち尽くしていたが、我に返るとすぐに索敵を開始した。
「……見つからない」
まさか、とジャンヌは崖下を覗き込んだ。眼下には広大な森が広がっている。
「私の索敵範囲の外に出たようね。面倒ではあるけれど、また範囲を広げないと」
ジャンヌは本機に繋いだ。
「索敵範囲の拡大を申請します」
三十二話目を読んでくださり、ありがとうございます。さて、前回に引き続きルシファーのことをお話ししていきたいと思います。
ルシファーは作中最強設定なのですが、地上では力を10%未満に抑えて活動をしています。勿論戦う時も抑えているため、相手との相性によっては苦戦もします。
ルシファーが本格的に動くと地球、そして世界の理そのものにも影響が出かねないため、抑制している状態です。それでも一個師団を壊滅させられる力はあるので、野生動物同様、不用意に近付かないてちょっかいを出さないようにしないといけません。
さて、ここまでルシファーの紹介をしてきましたが、未だ本編ではその実力をお見せできていません。近いうちに彼の大立ち回りを書くことができればと考えておりますので、引き続きご縁がありましたらよろしくお願いいたします。




