真相、そして、旅立ち
ドラズさんに案内された建物の中には、私の馴染みがあるモノがたくさんありました。
刀や長槍、忍びが使用する手裏剣やクナイが保存されています。
「この建物はジンブの物を保存しているのさ」
とドラズさんが説明してくれます。
「保存されている文明は西方だけではないんですね」
「千代ちゃんが説明してくれたよ。機巧人は様々な時代で現地人に紛れ込んで文明の収集をしていたらしい。それが千代ちゃんたちの創造主の指示らしいからね。…………で、問題はこれさ」
一つ上の部屋に昇ると嫌な雰囲気が流れます。
その理由はすぐに分かりました。
保存されていたのは腕でした。
「これが何かわかるかい?」
「鬼の腕ですか?」
「正解だよ。もっと言うなら、戦鬼皇の腕だね」
「!?」
「経緯がどうだったの分からんが、保存対象としてこの天空都市に持ってきたんだろうね」
戦鬼皇が生きた時代は千年以上前のはずです。
それなのに目の前の腕は斬られた直後のように生気に満ちていました。
「これに香ちゃんの師匠は引き付けられたんだろうね。本人は気付いていなかったかもしれないけど、ジンブから遥々、西方連合、そして旧魔王領に入ったのは、少しでも天空都市に近づこうとしたのかもしれないね」
ドラズさんは最後に「もう確かめようはないがね」と付け加えました。
でも、ドラズさんの話は辻褄が合っている気がします。
そして、合ったからと言ってどうすることもありません。
もう全ては終わったのです。
「そういえば、師匠の遺体はどうしましたか?」
私が聞くとドラズさんはこの建物の一階へ向かいました。
「勝手だと思ったけど、あたしの方で火葬しておいたよ」
そこには骨壺がありました。
私はそれを抱き抱えます。
「どうするんだい? ジンブに帰すかい?」
「いいえ、師匠はジンブでは大罪人です。墓標は建てられないでしょう」
「じゃあ、散骨するかい?」
私はそれも嫌だと思いました。
師匠はジンブから天空都市まで遥かな旅を終えました。
もうどこか落ち着ける場所を用意してあげたいです。
「ちょっと、千代と話をしてきますね。あの子が許可をくれたら、この天空都市に骨を埋めて簡単な墓石を作ってあげたいです」
「ここにかい?」とドラズさんは驚きます。
「師匠は今まで鬼の力に支配されて、真っ暗闇にいたと思います。だから、これからは明るい場所にいて欲しいんです。ここには人工の太陽があって、沈むことはありません」
「分かったよ。千代ちゃんと話がついて墓を作って良くなったら、言っとくれ。あたしが墓石を作ってやるさ」
「ありがとうございます」
それから五日が経って、私は今、私と師匠が戦った後にいます。
千代や他の機巧人の許可を得て、ここにお墓を作りました。
「師匠、これは返してもらいますね」
師匠が持っていた二本の刀のうちの一本『ナグルミ』。
これは愛洲家の当主に代々受け継がれている名刀です。
申し訳ありませんけど、これはお父様に渡さないといけません。
私は師匠のもう一本の刀『イワビツ』と献花をお墓の前に置きました。
そして、正座し、頭を下げます。
「師匠、ゆっくりお休みください。今までありがとうございました」
それだけ言い、私は立ち上がりました。
今日、私は天空都市から出発します。
最初の目的地はレイドア、そして、その後は蛇人族の首都『タオグナ』です。
「旧魔王勢力と西方連合、どっちにも天空都市のことは伝えるよ。情報や利益の独占で摩擦を起こして、また戦争になったら、堪ったもんじゃないからね。そんなものは貿易の邪魔さ」
とレンリスさん言います。
彼女は新しいロマンを見ているようです。
私はもちろんレイドアへ行くので、船に乗りますが、
「あたしはここに残るよ」
とドラズさんは言いました。
そんな気がしていました。
「ここには見たこともない技術がたくさんあるからね。楽しそうだよ」
それからレンリスさんも一団と共にここへ残るそうです。
「ここの技術で新しい船を作るよ。目標は……そうだね。東の果ての国、ジンブに行けるくらい凄いやつさ!」
そういうレンリスさんにドラズさんが、
「いいね、そいつは面白そうだ。手伝わせとくれ!」
と笑いながら答えます。
二人は子供のように楽しそうでした。
一つ意外だったのはディアスがここに残らないことです。
それは本人の意思というよりはドラズさんの希望でした。
「ディアス、あんたの技術はすでに一人前の鍛冶職人だよ。後は昔のあたしみたいに色んなものを見て、自分なりに考えて吸収しな。お前一人を旅させるのは心配だけど、香ちゃんが一緒ならいいと思ってね。ディアスのこと、頼めるかい?」
ドラズさんは私にそう言いました。
「私は良いですけど、ディアスはそれで良いんですか?」
本人の意思を確かめずに話を進めるとのは嫌です。
「大丈夫です。これは僕の希望でもあるんです」
「それなら、私の方こそ、よろしくお願いします。ディアスが一緒なら頼もしいです」
こうして私とディアスは一緒に旅をすることになりました。
それから……
「行きますよ、千代」
私が呼ぶと千代は嬉しそうに駆け寄ってきます。
この奇妙な親子関係はまだ続きそうです。
私たちが船に向かうと
「出航の準備は整っております」
『ヒューベリア』の船長さんが報告します。
「船長、頼んだよ。きちんと香ちゃんたちを送ってやっとくれ」
「お任せください」と船長さんが言います
「えっと……」
そういえば、私は船長さんの名前を知りませんでした。
「ウエッセと申します」と船長さんは答えました。
「ウエッセさん、よろしくお願いします」
私はウエッセさんと握手をして、船に乗り込みました。
「そういえば、結界はどうするんですか? また強行突破しないといけないんですか?」
私の疑問にウエッセさんが「ご心配なく」と答えました。
船橋に新しい魔導が追加されています。
ウエッセさんがそれを起動させると、黒雲の一部が消滅して、トンネルが出来ました。
「機巧人の方の技術と許可をもらい、この船は天空都市への往来が可能になりました。それでは出航します」
船は動き出しました。
「さてと、香、また二人で苦しみましょうね」
「何のことですか?」
私は言葉の意味が分かりませんでしたが「船酔い」と言われ、全てを理解しました。
「そうですね」と私は苦笑します。
船は天空都市を離れ、トンネルを抜けて、外の世界に出ます。
しばらくすると人工ではない、本物の太陽の光が私たちを照らしてくれました。
空を見上げると、天空都市を隠す雲が遠くに見えます。
「私は本当に遠くに行っていたんですね」
偶然から始まった天空都市の冒険は終わりました。




