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再戦

 私は急いで自分の部屋に戻りました。


 まずは着替えをします。

 普段来ている着物はボロボロに切り刻まれてしまいました。


 風呂敷の中から新しい着物を取り出します。

 師匠の前では防御なんて無意味です。

 だから、普段は身に着けない着物を選びました。

 動きやすい代わりに防御力が低い着物です。


 急いで着替えを済ませ、今度は風呂敷から筆と紙を取り出して、手紙を書き始めました。


 一通はお爺様たちに宛てた手紙。

 もう一通はハヤテたちに宛てた手紙です。


 お爺様たちhへの手紙には私が西方連合で出会った大切な仲間たちのこととこれから私が辿る運命を書きました。


 そして、いざハヤテたちに手紙を書こうとした時、私は迷いました。


『この手紙を読んでいる時、私はもうこの世にいないでしょう…………


 駄目です。

 私は紙を丸めて、捨てました。

 こんな書き出しの手紙をハヤテが見たら、悲しみます。

 私はハヤテの中に傷として残りたくはありません。


『ハヤテ、元気ですか? 私は元気です。私は目的を果たしました。そして、ジンブへ帰ることにしました。別れての挨拶をせずにすいませんでした』


 駄目です。

 ハヤテに嘘をつきたくありません。

 それにハヤテが私を訪ねてジンブに来た時、私が死んだことを知ったら…………



 何を書けばいいか分かりません。


「あれ?」


 紙の上に水滴が落ち始めました。


「おかしいですね。なんで私、泣いているのでしょうか? もう、覚悟を決めたはずなのに……」


 涙は止まりませんでした。

 何を書けばいいかも纏まりません。


 もう時間がないのに…………


 そして、私が選んだのは直線的で、希望を告げる言葉でした。


 手紙をそれぞれ、のし袋に入れます。

 そして、机の上に脇差を置きました。


「この脇差がなんで私を戻したのか分かりません。でも、もう私には不要です」


 私は手紙を持って、部屋を出ます。


「ハヤテと接吻だけでも出来て良かったです。もっと他のこともしてみたかったですけど……」


 私は右手を唇に当てて、呟き、少しだけ笑います。




 甲板にはすでに小型飛行艇が準備してありました。


「香ちゃん、その姿は……?」


 ドラズさんは驚いていました。

 それは私が真っ白な着物を着ていたからでしょう。


「別に死に装束を選んだわけじゃありません。これが私の持っている着物の中で一番、機動性に長けているから選んだんです」


 そう説明するとドラズさんは「そうかい」と返すだけでした。


「ディアス、お願いがあるんですけど……」


「なんですか?」と言ったディアスの眼は赤かったです。


「これを預かってくれませんか? 家族とハヤテたちに宛てた手紙です」


 ディアスは少し戸惑い、そして、手紙を受け取ってくれました。


「絶対に香の家族とハヤテさんたちに届けます」

と言ってくれました。


「それから、僕も随員します」


「……ありがとうございます」


「さぁ、出発するよ!」


 レンリスさんが声を張りました。


 私は小型飛行艇に乗り込みます。


「レンリスさん、大変なことに巻き込んですいません」


「何を言っているんだい。香ちゃんがいなかったら、あたしらはここまで来れなかったよ。短い間だったけど、ありがとね、香ちゃん」


 レンリスさんはわざと明るく言ってくれている気がしました。

 ディアスとドラズさんも飛行艇に乗ります。


「さぁ、行くよ! 振り落とされるんじゃないよ」


 飛行艇が発進します。

 再び天空都市へ、私の最期の戦場へ向かいました。


「場所は分かっているんだ。真上からあんたたちを降ろすよ。落下傘は必要かい?」


 私たち三人は「要らない」と答えました。


 戦場が見え、爆音が聞こえます。

 こんな調子で半日も戦っているのでしょうか。


「千代…………」


「レンリス、無茶をするんじゃないよ。あたしらこの辺で十分だよ!」


 流れ弾が被弾しそうな場所まで来た時、ドラズさんが叫びました。


「私の操作能力を甘く見るんじゃないよ。このくらいなんともないね!」


 レンリスさんは流れ弾を躱して、戦いの中心に突貫していきます。

 凄いですけど、こんなのを十分も体験したら、吐いてしまいそうです。


「さぁ、見えたよ!」


 師匠が見えました。

 私が最後に見た鬼の姿のままです。


「決着をつけましょう」


 私が飛び降り、その後にディアスとドラズさんも続きました。


「なんだ、逃げたのではなかったのか。愚かな弟子に、ドワーフよ」


「逃げようって言ったさ。でもね、香ちゃんがあんたに会いたいって言うから、仕方なく来たのさ。まったく、師匠冥利に尽きるんじゃないのかい?」


 ドラズさんに挑発に師匠は無反応でした。


「!!?」


 私は師匠の足元に倒れている人影を見て、血が熱くなりました。


「千代!」


 手足を失った千代が倒れていました。


「師匠、あなたは……」


「こんなことで怒るな。この機械人形共は手足が壊れたぐらいでは死なない」


 師匠は千代の首根っこを掴むとこちらに投げました。


「なっ!?」


 私は千代を受け止めます。


「大丈夫ですか!?」


「ママ……なんで帰ってきた……? ここに来ちゃ駄目……」


 千代の体にはいくつもの亀裂が入っていました。

 私がいなくなってから半日、千代は戦い続けたのですね。


「……ねぇ、千代、あなたは結局、私のことをママと呼ぶことを止めませんでしたね。だったら、そんな私から一つ、子供が親より先に死ぬのは最大の親不孝なんですよ?」


 私は自分のことを棚に上げて、千代に語りかけました。


「後はお願いします」


 ボロボロの千代をドラズさんに託しました。

 ドラズさんは頷いて、ディアスと一緒に戦場から離脱します。


 ディアスは一旦、足を止めました。


「香、僕はあなたを止めません! だから最後にこれだけは言わせてください。ご武運を!」


 多分それはドラズさんから聞いた言葉でしょう。


「ありがとうございます」


 ディアスはドラズさんの後追い、戦場を離脱しました。


「なんだ、三人がかりで戦うわけではないのか?」


「師匠の相手は私です。それに意外ですね。千代たちをすんなり逃がしてくれるなんて…………」


 千代の後を追って、他の機巧人たちも戦場を離脱していきます。

 ここには私と師匠しかいなくなりました。



「あの機械人形との戦いも暇つぶしだ。お前が代わりになるというなら、それでもいい」


「暇潰し、ですか。これからはそんな必要もなくなりますよ。師匠の暴走はここで終わらせます」


 私は深呼吸をして覚悟を来ました。

 そして、引き返すことのできない力に手を伸ばします。


 金色の体毛、耳と尻尾が生えました。

 破壊衝動に私の感情の全てが溶けてしまいそうです。


 それにどうにか抗い、私は刀を抜きました。


「お前も妖怪の力を制御しようとしているのか?」


 師匠は自分が妖怪の力を操っていると言いたげでした。


 でも、恐らく師匠は妖怪の力に取り込まれています。

 本人もそれには気付いていないようです。


「どうだ、今戦うのは止さないか?」


「えっ?」


 師匠の提案に私は驚き、咄嗟に返事が出来ませんでした。


「今のお前はまだ妖怪の力を使いこなせない。だが、時間が経てば、使えるようになるだろう。そうなった時の方が楽しい戦いになりそうだ」


「憐れな人ですね。でも、あなた一人を逝かせません。一緒に姉様に怒られに行きましょう」


 私は師匠に突進します。

 この状態だと、魔力の流れが敏感に感じ取れるようで師匠の動きが分かります。

 でも、それは師匠も同じです。


 互いが互いの動きを先読みして、戦いが硬直します。

 私と師匠の戦いは千日手の様相を見せ始めます。


 出来れば、自我のあるうちに戦いを終わらせた勝手ですが、無理かもしれません。

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