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ドラズの話

 次に私が目覚めた時、体が揺れていました。

 私自身が揺れているわけではなく、全体が揺れているようです。


「ここは船の中?」


 呟くとディアスが私の顔を覗き込みました


「香、良かった、気が付いたんですね!」


 ディアスはとても心配そうな表情をしていました。


「ちょっと待っていてください。すぐに師匠とレンリスさんを呼んできますから!」


 ディアスはそう言って、部屋から出て行きました。


 体を起こし、状況を確認する。

 服はどうやらディアスの物のようです。

 壁には脇差を含めた三本の刀が立てかけてありました。


「私は一体…………」


 酷く思考がぼやけています。

 私は何かをやっていたような気がします…………


 しばらくしてディアスがドラズさんたちを連れて帰ってきました。


「香ちゃん、良かった。思ったよりも早く目を醒ましたね。魔力は回復しているかい?」


 ドラズさんは余裕が無さそうでした。


「えっと、多少は回復していると思います」


 だとしても変ですね。

 いつもなら寝れば、魔力は全回復するのに今回はそうなっていません。


「ここに侵入した時に結界を突破しただろ。あの技は撃てそうかい?」


「はい、出来ると思います」


「そうかい、なら、手伝っとくれ。千代ちゃんがあの化け物を食い止めている間にあたしたちはこの空中都市から逃げるよ!」


「千代……空中都市……!」


 その言葉を聞いた瞬間、私はやっと覚醒しました。


「千代はどうしましたか!? 私はどれくらい寝ていましたか!?」


 私はドラズさんの両肩を掴みました。


「落ち着きな。香ちゃんは半日くらい寝ていたよ。千代ちゃんはあの化け物と戦っている。あれは香ちゃんの知り合いなのかい?」


「…………あの人の名前は宮本城之助、私の師匠だった人です」


 それを聞いたドラズさんたちは驚いていました。


「あの人は私の姉を殺して、ジンブを出たんです。その後、大陸でも暴れ回って、西方連合に渡ったところまでは分かっていました。でも、その後の消息は分かりませんでした。ガンフィールが師匠と会ったようなことを言っていたので、旧魔王領に入ったのですが、そこでまた手掛かりが無くなって……まさかこんなところで出会うとは……」


 私は立ち上がり、刀を手に取りました。


「どこに行くつもりだい?」


「決着を付けてきます」


「止めときな、香ちゃんじゃあれには勝てないよ。例え、あたしやディアスが加勢してもね。あたしらは一刻も早くこの空中都市から逃げるんだよ。千代ちゃんには申し訳ないし、ここの技術を調べずに立ち去るのは悔しいけど、命が最優先だよ」


「千代を置いていくわけにはいきません。ドラズさんがそう言うなら、加勢は必要ありません。これは私の戦いです」


「待ちな!」


 ドラズさんは私の腕を掴みました。


「放っておいてください! 私は……」


 言い返そうとした時のドラズさんの顔を見て、私は言葉を失いました。

 あの豪胆なドラズさんが恐怖に支配されていたんです


 ドラズさんの手を酷く汗ばんで、震えていました。

 ガンフィールとの戦いですら、こんなことにはなりませんでした。


「香ちゃん、そんなことを言うのは酷くないかい? 気を失っていた君を逃がす為にドラズはあの化け物と戦ったんだよ」


「ドラズさんが?」


 そう言うとドラズさんは自嘲気味に笑って、首を振りました。


「千代ちゃんが加勢してくれなちゃ死んでいたさ。あれは鬼の血が覚醒しているね」


「鬼の血? でも師匠の両親は人間だったと聞いています。いえ、それどころか、師匠の家系に鬼だった者はいません」


 ジンブには古くから妖怪と呼ばれる亜人族が住んでいます。

 その中でも鬼人族の戦闘力は随一です。

 しかし、師匠は鬼ではありません。

  

 そう説明したら、ドラズさんはさらに絶望しました。


「だとしたら、あんたの師匠は先祖返りだね」


「先祖返り?」


「なんだい、久忠(香の祖父)は何も言っていなかったのかい、まったくあいつは……」


 ドラズさんはお爺様に文句が言いたいようでした。


「ジンブって国は昔から人間と妖怪の距離が近かったのさ。だから、その中に交わりがある。伝説の大妖怪級の力なら、その血が数世代後に覚醒することがあるんだよ」


「そんなこと、知りませんでした」


「そりゃ、そうさ。先祖返りなんて、頻発していたら、ジンブはとっくに滅んでいるよ。なにしろ、その出現は災害に匹敵するからね。あたしは久忠、それから、先祖返りが出現した地域の武士たちが連合を組んで一度だけ先祖返りと戦ったよ。で、この様さ」


 ドラズさんは上着を捲って、腹部を見せてくれました。


「えっ!?」


 腹部には抉られた痕が残っていました。


「戦いに参加したほとんどの武士が死んだよ。勝ったの奇跡だね」


「そんな戦いがあったなんて知りません」


「知らないだって? …………そうか、そういうことかい」


 ドラズさんは何かに納得しているようでした。


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