先祖返り
「一つ、教えておいてやろう。お前のその力は〝先祖返り〟だ」
先祖返り?
「お前の中にある妖怪の血がそうさせる。だが、ほとんどの者は力を制御できない。今のお前のようにな」
そんなこと、どうでもいいです。
魔力の増した師匠を見て、私はさらに戦いたいと思いました。
恐怖は少しもありません。
「その力を使いこなせば、こちら側に来れただろうに…………さらばだ、愚かな弟子よ。魔陰二刀流攻法ノ一『カナイザワ』」
師匠の神速の連撃が私を襲いました。
斬られているのに痛みを感じません。
それどころか、どこか心地いいです。
相手の命を削るのもの、自分の命を削るのも今の私には快感です。
「魔陰双流攻法ノ四『ショウリンザン』」
私と師匠の剣撃がぶつかり、大気が震えます。
私の方が多くの傷を負っています。
でも、その傷はすぐに塞がり、私は戦い続けました。。
それは師匠も同様で傷はすぐに治ります。
このままでは戦いは永遠に続くでしょう。
でも、それも良い気がしてきました。
永遠に戦える。
それが今の私はとても楽しいです。
それに不思議です。
徐々に戦い以外のことを考えられなくなっています。
戦いが楽しい……
「ママ、止めて! 絶対におかしい!」
千代の声が聞こえましたが、私の意識はそれを気にしなくなっていました。
初めは耳と尻尾だけでしたが、徐々に体も変化しています。
牙、爪が生えてきました。
感覚は鋭くなって、魔力の流れ以外に、音や匂いも敏感に察知できます。
その様子を私は第三者の立場で見ていました。
もう私は人間と言える見た目をしていません。
もうすぐ私という存在が得体の知れない力に飲まれると思いました。
その時、激しい光が私を襲います。
その光に当てられた私は体の力が抜け、自由の利かなくなっていた体の所有権を取り戻しました。
ぼやけていた意識がはっきりします。
ですが、その代わり、体中に酷い痛みと脱力感がありました。
それに魔力は全く残っていません。
刀がここまで重く感じたのは初めてです。
こんな状態でどうやって戦えばいいのでしょうか。
そう思いながら、師匠を見ました。
すると師匠は私より苦しそうです。
「お前、その脇差は誰から貰った?」
師匠は憎しみの籠った瞳で私の脇差を睨みつけます。
私の異常な力を奪った光は、いつも身に着けている脇差が発せられていました。
「これは私が十歳の時に姉様からもらったものです」
「移がお前にそんなものを渡していたとは知らなかった。厄介な物を……」
師匠の敵意を初めて見た気がします。
でもそれは私ではなく、脇差に向けられていました。
魔力は尽き、体はボロボロです。
またあの力に頼らない限りは勝ち目はありません。
でも、次にあの力に体を任せたら、戻って来れない気がします。
それでも私は…………
「ママ……」
千代が私の前に立ちました。
とても怯えた表情をしていました。
「ごめんなさいね、怖かったですよね。でも安心してください。私が終わらせますから。千代たちは離れていてくれませんか?」
次にあの状態になった時に千代たちを襲わない自信がありません。
「ううん、ママはもう戦わなくていいよ」
そう言うと千代は私の渠内を思いっきり殴りました。
「千代、あなた……」
「ママ、ありがとう、バイバイ……」
千代と出合ってから初めてあの子が笑ったところを見ました。
でも、その顔はとても悲しそうでした。
私の意識はそこで途絶えてしまったのです。




