禁忌の覚醒
「一体、どういうつもりですか?」
「何がだ?」
「私に魔力の動きのことを教えて……一体、どういうつもりかと聞いているんです!」
私を一方的に倒せるはずだったのに、そうしなかった理由が分かりません。
まさか、今になって師匠の自覚を思い出したわけでもないでしょう。
「暇つぶし」
「なんですって?」
「暇つぶしだ。あのまま一方的に殺しても面白くない。俺は勝ちたんじゃない。戦いたいんだ。戦いを少しでも長く楽しみたい」
「馬鹿にして!」
私は怒っているはずなのに頭はとても冷静でした。
師匠の体の魔力の流れが分かります。
師匠の動きについて行けています。
斬りつけて、師匠に傷を負わせることが出来ています。
それなのに……
「なぜ、もう一本の刀を抜かないんですか? 私の刃はもうあなたに届くんですよ!」
「刃が届くか。思い上がったな、愚かな弟子よ」
「何がです?」
「気を抜くなよ。魔陰流『ミナカミ』」
「えっ?」
師匠の攻撃の前の魔力上昇、それは分かったのに予想を遥かに超える速度で振られて刀。
私は何も反応できませんでした。
私が認識できたのは、左の脇腹から斬られて腹部の真ん中くらいで止まっている刀でした。
「がっ…………」
私は吐血しました。
「だから、言っただろ。気を緩めるから、そうなる。もう少し楽しめるかと思ったが、結局、この程度か」
師匠が刀を引き抜くと私の体は地面に崩れ落ちました。
早く立たないと…………
コツは掴んでいるんです……
次は絶対に……
私がどんなに強く思って体は動いてくれません。
生暖かい血の匂いがしました。
これ全部、私の血ですか?
それに私の脇腹から飛び出ているのは内臓……?
やっと自分の状態が分かりました。
そういえば、こんな大怪我をしているのに全く痛くありません。
もう痛みも感じない……
あっ、私、もうすぐ死ぬんだ。
やっとそれを認識することが出来ました。
「ママ、しっかりして!」
千代が駆け寄ってきました。
とても悲しそうな表情をしています。
「なるほど、機械人形にも感情に似たものはあるらしい。なら、悲しむのではなく、怒れ。その怒りを俺にぶつけてみろ」
師匠は千代を挑発します。
千代はその挑発に乗ってしまいました。
「《全機特攻形態》へ移行。全損ヲ許可。敵ヲ殲滅セヨ」
機巧人たちは次々に攻撃を仕掛けます。
しかし、その全てが返り討ちに合っていました。
私は一体に何をしているんですか……
私は負ける為にここに来たわけではありません……
私はここに死ぬために来たわけではありません……
何をしているんですか、愛洲香!
早く立ちなさい!
戦うんです!
…………私の意思とは裏腹に意識はぼやけていきます。
こんなところで終わりなんて悔しいです……
『情けない人の子よ。童が力を貸してやろう』
幻聴が聞こえました。
いよいよ、駄目みたいですね。
そう思ったのに不思議と体から力が、魔力が溢れてきます。
こんな体験をしたのは三回目です。
一度目はジュラディーズでアイラと戦った時です。
魔力が枯渇した状態で奥義の『カクブギョウ』を使ったら、なぜか魔力が溢れてきました。
二度目はレイドアでガンフィールと戦った時です。
あの時も尽きていたはずの魔力がなぜか戻りました。
この力が何か良く無いモノだとは分かっています。
ハヤテからも言われました。
でも、死ぬくらいならどんな力にだって使います。
ここには私の姉様を殺した人がいます。
その人が千代に危害を加えようとしているんです。
命を懸けるには、それで十分です。
何が代償かは知りませんけど、こんな死にぞこないで良かったら、なんだってあげますよ!
私は禁断の力に手を伸ばしました。
魔力が回復するのが分かります。
立ち上がることが出来ます。
腹部を確認すると傷は完全に塞がっていました。
明らかにおかしい力です。
身体が熱くて、戦いたくてしょうがない。
自分の血の匂いにすら興奮しているのが分かります。
「あははは!」
今笑ったのは誰ですか?
私……ですか?
意識はあります。
でも、私は自分の体を制御できません。
身体は勝手に動き、師匠に襲い掛かります。
その動きは異常だと分かります。
人間の限界を超える動きで体が軋むのが分かります。
魔力もどんどん溢れて来て、そのやり場に困っています。
ずっと全力で動いているのに息継ぎが要りません。
それに体が高揚しているのが分かります。
私の変貌に驚いた千代が一旦、距離を取っていました。
千代の銀色の翼に私の姿が映ります。
その姿は人間ではありませんでした。
頭には獣の耳が生えていました。
瞳と体毛は金色、それに尻尾が生えています。
耳と尻尾は狐のようでした。
「なんだ、お前もそうだったのか」
師匠を見ると無数の傷を負っていました。
全て刀傷です。
私が全てをやったようです。
そんな記憶はありませんでした。
ただ夢中で、ただ楽しくて……
私はもっと戦いたいと思っていました。
千代の為とか、姉様の為とではなく、私自身の欲望を満たすために戦いたい。
「そうか、お前もなのか…………」
師匠が笑っていました。
笑うところなんて初めて見ます。
でも、そんなことはどうでも良くて、私はただ戦いたくて…………
「魔陰双流攻法ノ一『ヌキサキ』」
今までとは比べ物にならないほどの連撃を私は師匠に浴びせました。
「いや、お前はただ力に振り回されているだけか。ただの獣だな。しかし、獣相手というのは意外と疲れる。死ぬ前に一つ、見せてやろう」
師匠は私を蹴り飛ばすと二本目の刀を抜きました。
久しぶりに二本の刀を構えるところを見ます。
しかし、それだけではありませんでした。
皮膚の色が赤色に変化し、額には鬼の角が生えました。
師匠のそんな姿を見るのは初めてです。




