051:現実が牙を剥いて来た
ちなみに、あのエクゥさんとオズヌさんのバトルシーンを目の当たりにした結果、マリク様としても、オズヌさんのあの動きには男の子として憧れがあったらしく、
「ボクもやってみたい!」
と、やる気満々のご様子だった。
……まぁ、マリク様の場合、かなり長期間……下半身は半分石化していたようなものだから、筋力もかなり弱っているし、ストレッチをするだけでも結構痛いはずだ。
そのため、運動や筋トレをしたがらなかったのだが、最近では顔をしかめつつも頑張って足の曲げ伸ばしもしてくれるようになっている。
もしかしたら、自力で立って歩けるのもそう遠くないかもしれない。
ちなみに、魔力過多症の方は、かなり落ち着いているものの……
空の魔石に魔力を詰めて龍魔石に変える作業は、予防的措置として続けていただいている。
「……これに、詰めると……夜、よく、寝れるの……」
と、本人も気に入っているみたいだし……
そんな訳で、龍魔石の受け渡しとマリク様の現状報告をアークヴェル様にするのが、わたしの日課のようになってしまっている。
「お疲れ様です、アークヴェル様」
「ああ、パメリア殿……どうですか? そちらは」
相変わらず、書類の山に埋もれて奮闘しているものの、依然と比べると俄然ストレスが少なくなっているのだろう。
顔色も良いし、最近ではアークヴェル様の晩餐会や舞踏会への強制出席が減っているらしく、3食きっちりパンナさんの栄養と愛情たっぷりのおいしい食事を召し上がっているおかげで、やつれた様子は無い。
……おかげで、アークヴェル様の机の上の胃薬瓶が少しホコリを被っているような気がした。
「ええ、最近は、マリク様もかなり体調も良いみたいですし、新しくお見えになったオズヌさんとも結構上手くやれていると思いますよ? ……あ、こちら、いつもの龍魔石です」
「ありがとうございます。……ふふ、『ゲドーダ殿のリスト』を公表させていただいたおかげで、すっかり晩餐会や舞踏会と言った社交からは遠ざかってしまいましたが……個人的には、正直、今の方が、気が楽です」
「まぁ、そうなんですか?」
晩餐会と言えば、下級貴族からしたらまさに『憧れの場』ではあるのだが、アークヴェル様曰く、晩餐会とは……下手な事は言えないが、相手を楽しませることができる程度の話題は必要。
それでいて、特定の誰かを贔屓にしたり、逆に冷たい態度を取ろうものなら、いろんな派閥からの突き上げを喰らう、という……なかなかに壮絶な煉獄なのだとか。
舞踏会の方も、いざ既婚女性と踊ろうものなら「不倫疑惑を取り沙汰され」、
未婚の女性と踊れば「婚約者候補と色めき立たれ」、
それでは、と……女性と踊らなければ「男色家の変態と嫌疑をかけられ」……
これまた逃げ場のない地獄の釜が口を開けている。
なるほど……。
それは、ストレスが凄そうだ。
珍しいグルメに舌鼓を打って、招待客の服装の華やかさに眼福を味わえば良い下級貴族とはえらい違いだわ。
「ところで……パメリア殿、あの、以前お贈りした【危急身守】の指輪は装備されていないのですか?」
ぎくぅぅぅぅぅっ!!
そっ……それは……!
あああああ!?
ど、どうしよう、一日半で壊しましたと白状すべきか!?
それとも、恐れ多くて装備してません、と嘘を……いや、だめだ。
だったら、装備してきてください、と言われるだけだし……っ!!
うぅ、しかも、アークヴェル様、何か……ぺしょん、と悲しそうなご様子ッ!!
ふおぉぉぉん、そうよね、そうよね!? だって、ひと財産なお値段だもんね?!
しかも、親友兼凄腕技師様の自信作ですもんね!?
「じ……実は……その……申し訳ございませんッ!!」
がばっ!!
もうここは、謝り倒すしかあるまい!!
どうしようもなかったら、給与返上も視野に……!
あっ、でも、銀貨3枚分は使っちゃってる!!
い、いや、冷静に考えれば、大多数は残っているからッ!!
「いえ、あの、パメリア殿……一応、ゲドーダ殿とお付きのお二人の事情聴取の結果を簡単には伺っていますので……! ただ、まさか、本当にあの【危急身守】が役に立ったのかと思うと……ほっとするのと、ぞっとするのが一度に押し寄せると言いますか……間に合って、本当に良かった……!」
「ひぃん! 本当に申し訳ございません!! ……かわりに、わたしにできる事なら、何でもお手伝いいたしますので……!!」
「いえ……あ、それでしたら……」
「はい! 何なりとおっしゃってください!」
豚の真似をしろと言われたらいたしますよ、わたしは! ぶひぃ!
「もう一度、改めて【危急身守】をお贈りしてもよろしいですか?」
「ブヒィッ!?」
思わず豚さんが漏れてしまった。
な!? え!? な??
思わず、陸に上がった魚のように口をパクパクさせるのが止まらない。
え? この人……どこまで気遣いするの!?
「……その、もし、よろしければ……今度は、二人で、またクロードの所までご一緒いただいても構わないでしょうか?」
何故か、少し照れた様子でほほ笑むアークヴェル様。
いや!? それ、お金様をお支払いする側の態度と違いますからね!?
むしろ、もっと苦渋の選択とか、費用算出の苦しみに身悶える方向ですからねッ!?
何これ? 新手の罰か何かなの!?
申し訳なさでわたしの腸が千切れ飛べばいいのかな!?
「よ……よ、よよよ……よろしいので……ご、ごご、ございまひょうか?」
動揺で口が回らない。
「ええ、もちろん……ん?」
ニッコリ笑顔でそう答えたアークヴェル様が、ふと不審そうに表情を曇らせた。
……だだだだだだだっ! ゴンゴンゴン!!
廊下を全力で駆けるような足音と、ノック……と言うには少々荒々しい音が響き渡った。
「アークヴェル様ッ!! し、至急! 至急よろしいでしょうかっ!?」
聞こえてきたのは、西宮のメイド長さんらしき女性の声だ。
思わず、わたしとアークヴェル様は目を見合わせてしまった。
「ええ、どうぞ?」
魔力による扉の自動開閉速度すらまどろっこしいとばかりに、血相を変えて飛び込んできたのは、やはり西宮のメイド長さんだった。
「さ、先程、診療所から魔術通信による緊急連絡が!」
……診療所? 誰か、ご病気かお怪我?
「し、深夜迷宮で、セレス様が……!!」
ガタリ……!
アークヴェル様の表情が一気に険しくなる。
「怪我か!? ……まさか……」
――死。
一瞬、最悪の答えが頭をよぎる。
だが、その言葉に、メイド長さんは瞳に涙を貯めたまま、必死に首を振ると
「セレス様が【強制移動】の罠にかかり、行方不明、だと……!!」
最悪、の……ギリギリ半歩手前となるような事実を口にしたのだった。
面白いと思ったら☆を5個か4個
普通かなと思ったら☆を3個
イマイチと思ったら☆を2個か1個
押してね! 励みになります!!
続きが気になる……続きも読みたい、と思ったら、ブックマークをお願いします!




