050:家庭教師はつらいよ!?
「失礼するぜ。……よぅ、坊主! 俺を覚えているか~?」
わしゃわしゃわしゃ。
「な!? わ、えっ!?」
マリク様の体調が回復してから数日後、いつもの子供部屋へ突撃してきたオズヌさんが有無を言わさずマリク様の頭をわしゃわしゃと撫でた。
オズヌさんはガタイも良くて、手も大きいから、小柄なマリク様の頭を撫でていると、「頭を撫でる」というよりも「頭を起点に全身を揺さぶっている」ようにも見えてしまう。
「あー……ふわふわの、ひと?」
少し手荒にも見える洗礼を案外すんなりと受け入れるマリク様。
一応、マリク様とエリスちゃんには事前にオズヌさんがもう一人の家庭教師となる予定と言う話は伝えてある。
ちなみに、エリスちゃんより「あの人なら、多分大丈夫だべ~」という太鼓判付きだ。
「今日から俺も『先生』をすることになったんだ。よろしくな?」
「……うん。……パメリア先生から、聞いてる……」
「おう、じゃ、早速だが……そっちの嬢ちゃんにも一緒に教えることになってるから、よろしくな?」
と、オズヌさんは、次にマリク様のベッドの隣に控えていたエリスちゃんの頭もわしわしと撫でた。
「へ!? お、おらも??」
「……あのな? この坊主がヤバいのは百も承知だが、お前さんだって『精霊持ち』だろ?」
オズヌさん曰く『精霊持ち』とは、マリク様のように名前の有る精霊を呼び出せたり、会話ができたりするようなタイプの人間の事なのだとか。
「本当は、お前さん一人でも皇族として十分過ぎる魔力量のはずなんだが……ぱっと見ごく普通の庶民にしか見えないのはどういう訳なんだ?」
と、首をかしげるオズヌさん。
どうやら、エリスちゃんの魔力量は一般庶民の範疇にしか見えないのに、妙に高位の精霊に好かれているちぐはぐな状態なのだとか。
そう言われると、確かに……わたしレベルでも、セレス様くらい魔力量が豊富な方の場合は、わざわざ視ようとしなくても、なんとなく「あ、魔力量が多い方だな」と、直感的に分かるもんね。
ただ、あの中古服屋で出会った時から、エリスちゃん個人にはそんな印象は無かったな……
マリク様の暴走(?)である精霊乱舞耐性とか対処方法とかは、手慣れている感じだったけど。
「ああ! それ、多分、おらがナナに、みんなに見つからねぇようにしてくれ、って頼んだからかもしれねぇべ。……な、マリク?」
「……うん。ナナはかくれんぼが得意なの」
どうやら、エリスちゃんと仲良しのナナさんは特に隠蔽力に特化した精霊さんらしい。
マリク様曰く、ナナさんが本気でエリスさんを隠した場合、エクゥさんやトラさんでは、ほぼ見つけられないし、アメさんでも近づかないと無理、とのことだった。
「つまり、『加護』の一種……か? いや、でも、精霊にも気づかれにくいって……それは『加護』に当たるのか?」
オズヌさんが首をかしげているとおり、一応『加護』と言う名前通り、何かしらプラスになる効果があるものなのが基本だ。
精霊さんと双方向に対話やお願いができるのが『精霊付き』だとしたら、『加護』は精霊さんや神様側から一方的に特定の人間に付与されるものである。
「あ、でも、元々は、マリクに見つかったらいけねぇと思ってナナに頼んだから、もう一度お願いすれば、元に戻してもらえると思うだよ?」
「……そうか。だったら、そこら辺、腹割って自己紹介といかねぇか? 俺はオズヌ・エンノ。俺の特技は……本来魔法よりは剣術なんだが、まぁ……元冒険者だから、そんなもんよ。俺は精霊持ちじゃねぇが、精霊の加護で【高位鑑定】がある。そのおかげで、多少は『魔法使い』の事を理解できるからな? 一応、『魔法』も『魔術』も扱えるぜ。よろしくな?」
ただ、流石にマリク様やエリスちゃんが『精霊付き』であることは【鑑定】できても、その精霊がどんな名前のどんな性質の子、なのか……という所までは分からないらしい。
しかし、凄いな……!
【鑑定】が使えるようになると、それだけで「鑑定士」と呼ばれ、ご飯を食べていくのに困らない鉄板スキルなのに、それの上級版とは!!
「……みんなのことを……知りたいの?」
マリク様が首をかしげると、ふわり、と部屋中に小さな光の粒が、様々に輝きながら跳ねたり、跳んだり、舞い踊り始めた。
「あー……下級精霊ちゃん達は属性だけ教えてくれるかな……?」
「来れる子は全部居ると思うけど……火、水、風、土、光、闇、時、命、波、鉄……な、マリク」
「……ん~、みんな居るよね?」
わたしとオズヌさんは思わず顔を見合わせた。
えーと……聞き慣れない属性が混ざってるな?
精霊の属性といえば「火、水、風、土、光、闇」までしか教本には書かれていない。
一応、「時、命」は伝説というか神話では出てくるので、そういう属性がある可能性が高いとされているが、魔術として扱う技術として成立はしていない。
「マリク様、『波』は『水』の派生、『鉄』は『土』の派生ではないのですか?」
「……ちがうよ。波は、波。……光も波の一つだよ? だから、波の方が深いの。鉄は最後の子の二つ前。……最後の子とその一つ前の子たちは来てないよ?」
「んだな~。『波』や『鉄』の子はあっち寄りだから、こっちにちょうどいい言葉が無くて、おら達が勝手にそう呼んでんだ。こっちの『波』や『鉄』とはちょっと違うけど……な?」
「……うん。」
……はい。ここまでいろいろ聞いて、確実に分かったことは、マリク様とエリスちゃん……結構凄い子だとは思っていたけれど、想定以上にヤバかった、という事実だけでした。
「はぁぁ……しかも、まだこの他に名前のある精霊とも仲が良いんだろ? もう、皇王陛下の魔力量なんか、軽く超えてんじゃねぇか? この坊主……そっちの嬢ちゃん……いや姫さんも」
と、オズヌさんが軽く頭を抱えてしまった。
エリスちゃんの事は「姫さん」呼ばわりである。
……いや、仮に皇族入りしたとしたら、確実にお姫様なんですけれど……
「しっかし、お嬢さんもすげぇな……」
オズヌさんはあきれた様子でわたしを見つめた。
「いえ、わたしの魔力量なんて、マリク様に比べたらもう、全然……」
「いやいやいや、これだけアッチ寄りのガキを、よくもまぁ、ここまで手懐けたもんだぜ……」
あ、そっち?
「いえ、でも、そもそもマリク様は普通に良い子でしたよ?」
こちらが約束を守れば応えてくれるし、人の意見を聞く耳もあるし、待つことや我慢することもできたし、倫理観や思いやりもあるし、基本的には優しい子だし……
まぁ、魔力量が並外れていて、多少暴走癖があって、少々人見知りっぽい所や、お体が弱すぎるのが心配だったりもするけれど、そこさえクリアしてしまえば、むしろ素直で可愛らしいと思うのだが?
「はぁ~……なるほど、流石、賢者は目の付け所が違うねぇ……」
「えっ?! そ、そんな、わたしなんか、全然! ただの『賢者様推し』なだけで……!」
え~!?
わたしの事を、け、賢者だなんて……!
どうしてオズヌさんに『勇者伝説』リスペクトを気付かれたのかしら??
あ……もしかして、お顔の魔法陣のおかげかな!?
うふふ、やっぱり、傷を治すよりもカッコ良くしてもらって良かった!!
「え? おい、嬢ちゃん? 大丈夫か? 戻ってこい?」
オズヌさんの誉め言葉に、思わず喜びながらくねくねしていたら、何故か気の毒そうな目で見られてしまった。
だが、そんな感じで、和気あいあいとマリク様とエリスちゃんの魔法教育はスタートしたのだった。
これは、なかなか良好な滑り出しである。
マリク様もエリスちゃんも会話をするうちに、オズヌさんに慣れていったみたいだし。
「次は、坊主と姫さんと仲良しな名前の有る精霊を紹介してくれねぇか?」
「……うん、いいよ。……良く来るのは、エクゥとアメとトラかなぁ? ……エリスはナナだよね?」
「んだな~」
「……そいつは『略称』だよな? 『正式名称』を教えてはもらえねぇかな?」
その言葉に、マリク様の表情が少し曇った気がした。
「ん~と、ね……せーしきめいしょー……教えて良いよ、って言ってた子だけで……いい?」
あ、はい。
つまり「教えたくない」って言った子もいらっしゃるって事ですね。
「……もちろん」
オズヌさんもそれを理解したのか、一瞬引き攣った笑みを浮かべたものの、すぐに頷いた。
「ん……じゃぁ……『我ガ意ヲ汲ミテ……顕現セヨ、エクスカリバー、アメノヌホコ、トライデント』
「!!??」「なっ!?」
突如、地下子供部屋に現れた3つの大きな光の玉から、あの時に見た6枚羽の青年と、牛の角に瞳を持った美女、そして、青白い肌に、髪をオールバックのようにしている執事のような青年……ただし、耳が魚のヒレのように見える……が、姿を現した。
エクゥさんこと、エクスカリバー様はいつもの空飛ぶ6本の剣を操りながら部屋中をくるくると飛び回っており『ニャハハッ! ナニ、ナニ~? 遊ブ? 遊ンジャウ?』と楽しそうなご様子。
アメさんと、初めましてなトラさんは、静かにマリク様の隣に控えている。
「おらも、呼んだ方がいいんだべか?」
「ん……ナナも良いなら」
「わかったべ、マリク。……『我ガ意ヲ汲ミテ……顕現セヨ、ナナツサヤノタチ』
エリスちゃんの言葉に、ふわり、と鹿の角のようなものを頭から生やした黒銀色の素肌の美少女が彼女の隣にそっと立ち上がった。
俯きがちに両目を閉じて口元を右手の袖口で隠しているのだが、額に一つ開いた瞳は綺麗な金色に輝いている。
……小型のドラゴンなら丸くなって入れるような広さの子供部屋だが、流石に精霊さんが4体も現れると少し狭く感じる。
と、言うか、エクゥさんが剣を飛ばしながら無駄に目まぐるしく飛び回るせいで、余計そう感じるのだが……ッ!
落ち着いて、エクゥさん!?
「……これでいい?」
と、オズヌさんに向かって首をかしげるマリク様だが、当のオズヌさんは口をぽかんと空けて、硬直しているようだ。
……お気持ちはわかります。
『ネェ、アソボ! 遊ンデ イイ?』
『アノネ……おずぬ先生ガ、ミンナヲ……見タイ、ッテ』
『?』『フフ』『ニャハ?』『……』『フム……』
一斉に精霊さん達から注目されるオズヌさん。
あっ……多分、背中は冷や汗まみれだ、これ……
ヒュン……ッ!
「!?」
その瞬間、エクゥさんの剣の内1本がオズヌさんへ向かって柄の方から飛んでいく。
ぱしっ!
と、その剣の柄を咄嗟に握り締めるオズヌさん。
それを見たエクゥさんが嬉しそうに微笑んだ。
『イクヨ……!』
「っち、マジかよ!?」
それを合図にしたかのように、残り5本の剣がオズヌさんに襲い掛かるのを、舞うように避け、ある時は叩き落し、次の瞬間には弾き飛ばし、時には魔術だろうか? 空中を足場にして蹴り上げるような動きでエクゥさんの攻撃を退けるオズヌさん。
一閃、二閃、と速度が上がるエクゥさんに対し、同じように……いや、むしろ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、切り返しのキレが増し始めるオズヌさん。
すごっ!? 何その動き!!
この人、この身のこなしを見ていると、とてもじゃないけど魔導士には見えないな……!
『ニャハハ! イイネ!』
剣同士がぶつかり合う剣劇の音が、床を蹴る足音が、まるでダンス曲を奏でているような速度と緊迫感になった瞬間――流石に、人間と精霊とではスタミナが違いすぎるのだろう。
オズヌさんが、一瞬、体制を崩した。
『ニャハッ!』
その隙をついて、エクゥさんがオズヌさんを――
ばきっ!!
切り伏せた……と、思った一コンマ前に、剣を投げ捨てたオズヌさんの蹴りがエクゥさんのこめかみにめり込んだように見えた。
「ええっ!?」「わー……」『オオ……!?』『マァ……』
驚きの声を上げたのは人間だけではない。
エクゥさんみたいな精霊にも蹴り攻撃って効くの!?
ざばべしゃっ!!
次の瞬間、エクゥさんの真上から大量の水が叩き付けられる。
『フニャァッ!?』
トラさん、かな? エクゥさんに「頭を冷やせ」と言いたいのだろう。
大量の水をぶっかけられたことにより、丸い光の玉になったエクゥさんが、ぷるぷる、と大きく震えると、再度、元の青年姿に戻ると、6本の剣を消し、マリク様の頭の上あたりでふわふわと停止した。
『ニャハハ! 面白カッタ! まりく、アイツ 結構 強イネ!』
『ウン……ボク モ ビックリ シタ……』
ぽふぽふ、とアメさんがオズヌさんに向かって左右の髪を手のように器用に動かして拍手を贈る。それに倣う形で、ナナさんやトラさんも手をたたいたり、大きく頷いたりと各々称賛の意を示している。
「オズヌ先生、凄いべ! おら、エクゥさに剣で勝ったの、初めて見ただよ!」
「ボクも初めて見た……! オズヌ先生、すごい……」
「は……はは……、どうやら、お気に召していただけたようで……」
流石に疲れたのか、床にへたり込むオズヌさんと、はしゃぐお子様たちの様子を眺めながら、この様子なら、楽しくやれそうだ、とわたしはホッと胸をなでおろしたのだった。
面白いと思ったら☆を5個か4個
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