↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/87

045:お買い物と新聞記者


「ね、パメリアさん、エリス、今ってさ、少し時間空いてない?」


 引っ越しが完了し、少し落ち着いたところで、同じく別邸に戻っているフィリアちゃんが声をかけてきた。


「折角だから、女物の必要アイテムの買い出しに行きましょうよ?」


 フィリアちゃん達のパーティーもセレス様がまだ戻らないので、ぽっかりと時間が空いてしまったのだそうだ。


「ああ、それは良いですね!」


 確かに。今のうちに女性ものの下着とか、最低限の女性用品とかを補充しておきたい。


 ……本当は端切れも少し買っておきたいけれど、わたしのへそくりさんである銀貨2枚では、そこまでは手が出ないだろうなぁ……最近、物価が上がっているし。


「んだな~、マリクも今日はまだ起きねぇと思うし……」


 小さな光る粒をマリク様の身体に入れたり出したりしていたエリスちゃんも、フィリアちゃんのお誘いに乗り気のようだ。


「じゃ、パンナさんも誘って出かけましょ! ここら辺で一番安くて質が良い女性もののお店、教えてくれるって!」


「ええっ!? そ、それは助かります!!」


 そんな訳で、街に繰り出した女性陣4人組は、無事、必要な下着類や女性用品を入手することができた。


「しっかし、ホント、最近は何もかもが値上げされちまってるよねぇ……下着1枚が銅貨5枚だなんて、どうかしてるよ!」


「そうよね、同じ質のものでよければ、去年なら3枚は買えたわよ」


「ホント、戦争なんてさっさと終わればいいのにねぇ。しかも、この戦争のせいで街道を守る結界も壊れやすくなってて、物流にも影響が出てるんだってさ」


「お小遣いは増えないのに、商品の値段だけ上がるなんて厄介だわ」


 買い出しを終えたわたし達は、最後にフィリアちゃんお勧めのフルーツショップ・タナカで、はちみつの掛かったパンケーキセットをいただいてから屋敷に戻ることにした。

 ここのパンケーキセットは安くてボリュームがあって、地元で取れた新鮮なフルーツがたくさん使われている、という事で冒険者さん達の間でも大人気なのだとか。


 ……ただ、やっぱりお値段は以前よりも上がってしまっていた、とのことだけど、ギリ許容範囲ッ! 許容範囲ですよォ!


「ところでさ、みんな『王都新聞』や『毎日瓦版』は見た?」


「あー……もう、今回の事、めちゃくちゃに書かれてましたね~……」


「そうなのよ!! なによアレ! ひどくない!? 何でうちのセレスが公爵家の爵位簒奪(さんだつ)を狙ってることになってるのよ!?」


 そうなのだ。

 今回は、比較的まともと言われていた『王都新聞』でさえ、その扱いである。


「んだな~……『毎日瓦版』でマリクの事なんか『先代公爵に封印された魔王の欠片が復活』とか書かれてたんだべ……」


「あはははは、あんなゴシップ紙はただのジョークだと思って読まなきゃダメだね。アークヴェル様なんて婚約者がいないってだけで男色家の変態だし、この一年で何回も失脚させられてるよ!」


「失礼、お嬢さん方……少し、お話よろしいでしょうか?」


 と、突然背後から、一人の男性が声をかけてきた。


 鮮やかな緋色の少し癖のある髪を一つに結び、新聞記者のような帽子をかぶっている20歳前後の青年だ。


 少しやぼったい印象の服装と黒ぶち眼鏡のせいで、うさん臭く見えるのだが……かなりスタイルの良いイケメンさんである。

 だいたい、無造作に伸びている髪を、首元で一つに束ねているだけなのにもかかわらず「だらしなくて不潔」ではなく「似合っていてカッコいい」と呼べる容姿なのだ。

 それなりの恰好をしていたら貴公子に見えるかもしれない。


「なんだい? 兄さん、情報屋かい?」


「いえいえ、今、瓦版や新聞に対するご不満の声が聞こえたもので……あっしは、新聞だの瓦版の発行元を扱う『情報組合』の新人情報員、カインと申します」


 カインさんと名乗った青年は、何かを考えるように右斜め上を一瞬見つめると、手にしていたメモ帳と魔道筆を握りしめ、熱く語り始めた。


「いや、実に嘆かわしい!!」


 なんでも、新聞や瓦版という市民に情報を伝えるためのツールがほぼ機能していない現状を組合でも憂いているらしく、報道の正確性や中立性をもっと上げるべく、 キッチリと取材をしたうえで、可能な限り真実に近い情報を届けたい、と新しい広報誌作成に燃えているようなのだ。


「そんな訳で、今回のエーフェ公爵家の騒動についても、きちんと取材をしたいと思っておりまして……」


「へ~、若いのに志が高いんだね」


「皆様のお話を少し耳にしてしまったのですが、エーフェ家にお仕えになっていらっしゃるんですよね? もしよろしければ、皆様方のお話を聞かせていただけませんか? あ、もちろん、ここのお代はあっしが持ちますんで!」


「えっ!? で、でも……」


「あはは! まぁ良いじゃないかい。ここのお代を持ってくれるっていうなら!」


 パンナさんはどうやらカインさんが気に入ったご様子。


「もちろんです。ありがとうございます、レディ! あ、そこの君、追加注文を頼むよ。こっちに旬のフルーツ盛り合わせと今月のフレッシュジュースを人数分追加で!!」


 サッと隣の席から椅子を一つ失敬し、わたし達のテーブルに加わるカインさん。


「いやぁ! こんな美しい花々に囲まれてお話を聞けるなんて……」


 と、わたし達の容姿を褒めていたカインさんがわたしの顔を見て、一瞬固まった。


「……あっしは、田舎モンで、王都に来てまだ日が浅いんですけど……凄いメイク……いや、え? 光って……?……流石千年王都と呼ばれるだけの事はある……素敵な術式ですね」


「ふふふ。ありがとうございます」


「ねぇ、カインさんは今回の事はどこまで調べたのよ?」


 フィリアちゃんが少し警戒した様子でまずは相手の情報を探りはじめた。


「えーと、公爵家の爵位簒奪を狙っていると噂のセレス様については、結構調べたんですけど……」


 曰く、セレス様が騎士道学園で主席と言われ、公爵家が管理しているダンジョンをビシビシ攻略して力をつけていること。

 セレス様達は『輝星同盟《ライトニング・スターズ》』と名乗っており、王都でも有力パーティーの最年少組とのこと。

 そのメンバーは中級~下級の貴族の子弟であり、すべて次男以降であること。

 ただし、紅一点のペガサスナイトに関しては、ラティス伯爵家の一人娘であること。

 少しやんちゃな所はあるが、その行動は品行方正寄りで、王都新聞や毎日瓦版にあるような粗暴な面は無く、特に一般庶民に対して圧力をかけるようなことも、学園で高位貴族であることを鼻にかける様子もない、とのこと。


「後は、あっしの予測になるんですけど、多分、セレス様は公爵の位を簒奪するよりは、将来的に公爵家からの独立を目指しているんじゃないかと思うんですけど……」


「な!? ……どうして、そう思うの?」


「いえね? エーフェ公爵家と言えば多くの領地やダンジョンの管理も任されている大貴族じゃないですか? もし、本気でセレス様が爵位を取りに行くなら、もう少し中央に強い人脈を広げても良いと思うんですよね。特に文官系の人材です。騎士道学園の同学年には、他にも中央政治と縁の深い貴族家の子弟が多く在籍していますし、パーティーメンバーのメインアタッカーに誰も長男……貴族家を継ぐ人物が居らっしゃらないですし……あえて言うならラティス伯爵ですが、こちらも領地は国境付近で、中央の政治からは少し距離を置いている人物ですし。それよりは、軍人……もしくは、冒険者などで名を挙げる方向を目指されているのではないかと?」


 メモを見ながら持論を披露するカインさんだが、フィリアちゃんの様子を見ても、普段のセレス様の印象からも、かなり正確な予想だと推察できる。


「そんな方が、爵位簒奪を目標に、事を起こすとは考えにくい」


「へ~、ま、当たらずと言えども遠からずかもしれないね」


 パンナさんが少し驚いた様子で相槌を打った。


「噂によると、今回の騒動は第一夫人のヤンデルーナ様が、第三夫人のママリア様のご子息を殺め、ご自身のご子息であるアークヴェル様の魔力強化を計画していたとか?」


 その言葉に、わたしとエリスちゃんは思わず、顔を見合わせてしまった。

 そんな事まで、もう噂として広がっているの?


「一応、あっし、王都警備部にも伝手がありまして」


 黒ぶち眼鏡をくいっと正しながらカインさんはにっこりとほほ笑んだ。


「ただ、それが事実だとしても、エーフェ公爵はアークヴェル様を廃嫡するわけにはいかないでしょうね」


「おや? 何でそう思うんだい?」


「アメリア王国に留学中の次男カイナス様が帰国でもされたら面倒だからですよ。噂ではアークヴェル様より魔力が豊富なうえに、幼少期からアメリア王国の文化に染まっているおかげで、聖皇国の魔力偏重の政治体制に、かなり批判的な方だそうじゃないですか? アメリア王国と聖皇国の仲は、今はかなり冷え切ってますし」


 その言葉には、流石にわたしたち全員が返す言葉を失ってしまった。


 いや、正直、カイナス様の事は全然、と言って良いほど知らない。

 『幼い頃に第二夫人のカネモティア様と一緒にアメリア王国に行ってしまった方』以上の情報はほぼ、無い。


 知らないが……そう言われると、その分析はかなり正鵠を射ているような気がした。


「そうなりますと、今回の件……おそらく、エーフェ公爵側が皇家に対して、何らかの補償を行う事になると思うんですよね。大型公共事業を肩代わりするとか、ダンジョンなどの資産の管理権限を譲渡するとか……」


「多分、皇家管理の王都最大のダンジョン『深夜迷宮』を地下70階まで攻略することになると思うわ」


「「!?」」


 フィリアちゃんが、お手上げ、と言った様子で口を開いた。


「多分、それだけじゃないと思うけど……今、『深夜迷宮』は地下50階までしかマップが完成していないから、公爵家の資産を使って、攻略の促進を図ることになりそう、って……セレスが言ってたわ」


「セレス……様が……言っていた?」


 カインさんが驚いた様子でフィリアちゃんを見つめる。


「ええ……初めまして。わたくし、ラティス伯爵が第一子、フィリア・ラティスと申します。以後、お見知りおきを」


「う、おおおお!? こ、これは、これは、し、失礼をいたしまして!! あっし、いや、オレじゃなくて、わたくし!『情報組合』の……」


「いや、さっき自己紹介してもらってあるから」


 改めて席を立ち自己紹介しようとするカインさんを静止するフィリアちゃん。


「しかし……そこまで情報を集めて分析するのは……凄いわね」


「いえいえ、この程度は……まずは情報の正確性があればこそ! ただ、やはり学園に通われているセレス様や当主であるエーフェ公爵、領地内の経営に携わっておられるアークヴェル様についてはそれなりに情報が集まるのですが、海外にいらっしゃるカイナス様……それにママリア様のご子息様については、ほとんど何も情報が無い状態でして……もし、何かご存じの事が有れば!」


「……おい」


 と、瞳を輝かせたカインさんが、その背後からかけられた低い声を聴いた途端、ピシリ、と音を立てて固まった。


 見れば、きっちりとした商業ギルド服のようなタイトスカートを履き、オレンジ色のつややかな髪をきっちり7:3で分けて後ろでお団子結びにしている美しい女性が立っていた。

 おそらく、ほほ笑んでいれば10人中9人は振り返るような顔立ちとスタイルなのだが、彼女の背中には怒りの炎がめろめろと音を立てて燃え盛っているのが見えるような気がした。


「……貴様、こんな所で油を売っているとはどういう了見だ? 原稿の草案はどうした? 締め切りは今日の夕刻まで、と伝えておいたよなァ? 忘れるようなら貴様のその軽薄な左腕に彫り込んでやろうか?」


「か、かか、カーティア先輩っ!? いや、あの、これはですね!? じ、情報の正確性を……」


「ふざけるなッ!! 今の貴様の仕事は正確性の精査ではなく! 今ある情報をッ!! まとめ上げてッ!! 原稿として私に提出することだッッ!!」


 カインさんに特大の雷を落としたカーティア先輩と呼ばれた女性は、鬼の気配を無理やり押し込めて、わたし達に大きく頭を下げた。


「ウチの新人が大変ご迷惑をおかけいたしました。……こちら、お詫びです。……ほらっ!! 行くぞ! たわけが!!!」


「ひえぇ~……先輩、ちょ、耳は痛いっス、オレの耳は伸びませんからぁ!!」


 カーティア先輩は、わたし達のテーブルの上にお代にしては、かなり多めの銀貨を置いて、カインさんの耳を引っ張りながら、おそらく事務所へ向かって去って行ってしまった。


「どこも大変なんだねぇ……」


 しみじみと呟かれたパンナさんの言葉に、一同は小さく頷いたのだった。



面白いと思ったら☆を5個か4個

普通かなと思ったら☆を3個

イマイチと思ったら☆を2個か1個

押してね! 励みになります!!

続きが気になる……続きも読みたい、

がんばれ、カインさんwと思ったら、ブックマークをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。