043:暴走事件のその後に
結局あの後、エーフェ公爵家当主となるアルベルト・エーフェ公と王都警備部、宮廷魔導士連合に【緊急遠念話】の魔道具で緊急連絡を取ると、ゲドーダさんとその配下と思しき北宮で伸びているお二人は事情聴取のため警備部に連行され、ヤンデルーナ様は一旦、別荘の中で損傷の無い建物に移ることとなった。
一応、ヤンデルーナ様は、沙汰が確定するまでは、そこから出ることも、外部から他人を招き入れる事も出来ない軟禁状態である。
わたし達は、というとヤンデルーナ様達の後で、事情聴取などもあることから、一時的にこちらの別荘の一室を使わせていただくこととなった。
当初、アークヴェル様以外の男性陣で一部屋、女性陣で一部屋、アークヴェル様は元々こちらの別荘にも専用のお部屋があるそうなのでそちら……と言われたのだが、マリク様だけはこちら女性陣のお部屋へ移動させていただいた。
……まぁ、ずっと眠ったままだったし、目覚めた時に、あまり顔見知りではない方が近くに居るせいで驚いて魔力暴走を引き起こしても怖いし……
ちなみに、室内で魔道大砲をぶちかましたような惨状ではあったのだが、人的被害はごく少数で、落下した屋根の一部で怪我をした使用人さんや、驚いて階段を踏み外した事による捻挫、など【応急処置】で対処できる程度の被害だったのは不幸中の幸いである。
そんな訳で、わたしは事情聴取が始まるまでは使用人さん達に交じって壊れた屋敷の掃除をしたり、台所仕事の助っ人に入ったり、アークヴェル様の書類仕事を手伝わせてもらったりしていたのだった。
「……次、入りたまえ」
事情聴取、と言われて、わたしとエリスちゃんは一緒に臨時の応接室に通された。
中にいらっしゃったのは、50代くらいの恰幅の良い……少し、お肌に皮脂が多めな印象の男性と、30代前半くらいの頬に十字傷のある冒険者ギルドのギルド長様みたいな引き締まった体躯の男性だった。
お二人ともあのセレス様を上回る魔力量を誇っているのだろう。わたし程度の下級貴族から見ても「あ。魔力多そう」と思えるほどだ。
「……っ!? な、何だその不気味な顔は?!」「ほーぅ、こいつぁ面白れぇ」
恐らく、わたしの顔を見たのだろう。
恰幅の良い男性は、あからさまに顔をしかめたのに対し、十字傷の男性の方は、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のようなキラキラした榛色の眼差しで、にやりとほほ笑んだ。
お召し物は同じ深い青色の制服っぽいんだけど、表情も反応もほぼ正反対なのが、ちょっと面白い。
「えーと、その、顔に傷のあるお嬢ちゃんがパメリア・レインちゃんだな。……で、隣の……お嬢ちゃんがエリスちゃんでいいかい?」
何かの資料をペラペラ捲りながら、十字傷の男性が友好的に「ま、緊張しないで。そこに腰かけてくれ」と案内をしてくれたのだが、恰幅の良いおじ様は不機嫌そうに眉を吊り上げただけだった。
「失礼いたします」「し、失礼しますだ……」
「で……君たちは何をしたか分かっているのかね? 公爵家嫡男の魔力暴走を「あ、グモーヤン殿、嫡男ではなく四男です」
「……おほん! その四男の暴走を止めきれず、皇家の屋根を破壊せしめるなど、国家転覆罪として死罪となっても「グモーヤン殿、さすがにそれは判断が早すぎます」
「……っ! お、オズヌ君ッ!! 吾輩のセリフを途中で遮るのは止めたまえ!!」
「まぁまぁ、宮廷魔導士兼魔法使いともあろう偉大なるグモーヤン殿が、まずはお相手側の事情を聴けない訳が……アッ!!」
オズヌ君、と呼ばれた十字傷の男性が突如、大声でわたし達の後ろを指し示した。
「「「!?」」」
なにごと?!
思わず後ろを振り返るも……そこは、ただ、わたし達がさっき入って来た扉があるばかりで特に何も見えはしない。
同じく、後ろを振り返って扉を見つめていたエリスちゃんも小さく首を傾げた。
「??……な、なにも、ないべ??」
一瞬、わたしには認識できない精霊さんとか、そっち系の異変か? とも思ったのだが、エリスちゃんにも何も見えていない模様。
「あー……はいはい、お二人ともご協力ありがとさん」
「えっと……え?」
視線を元に戻すと、机につっぷして、すやすやと寝息を立てている恰幅の良い男性。
「あー……まぁ、その、グモーヤン殿が居ると話が進まないからね。悪ぃけど、ちょっとだけお休みしていただくために、気をそらせただけなんだな。」
強力な眠り薬でも盛ったのか、珍しい色の小瓶を振りながら、悪気の欠片もない笑顔を浮かべる十字傷の男性。
「まぁ……宮廷魔導士にも派閥やら何やら色々あってね」
……お、おう、なるほど?
「……で、俺は一応、王都警備部と宮廷魔導士を兼任してる。オズヌ・エンノだ、よろしく」
「は、はい……」
なかなか……見た目どおり豪快な手段を使う方のようだ。
「で……君たちって、今回の事はどこまで、何を知ってるんだ? あ、このメモの内容って分かるかい? 気になるなら見ても構わないぜ?」
わたしとエリスちゃんは顔を見合わせた。
オズヌさんのお話とわたし達の推測をまとめると、今回のこのマリク様の暴走劇……直接の原因は、ゲドーダさんとその部下による襲撃がキッカケだったと言って良いだろう。
だが、何故ゲドーダさん側がそんな事をしたのか……というと、マリク様の魔力過多症を悪化させ、全身の魔石化が進行した状態の心臓を抉り出して人工魔石を作ろうとしていたようなのだ。
しかも、それをゲドーダさんに依頼したのは、なんとアークヴェル様のお母様であるヤンデルーナ様。
さらには、その人工魔石をアークヴェル様に移植することで、アークヴェル様の魔力量を増やし、最終的には皇族の一員として返り咲くことを計画していたのだとか。
どおりで!
魔力過多症の治療とは真逆な事ばかり指示する……言っては何だが「無能な魔法医様」だと思っていたけれど……
むしろ逆に、マリク様の魔石化が目的だったのね!
それが分かれば、何故わたしまで狙われたのか想像がつく。
そりゃ、邪魔だろう。
一番身近でマリク様のお世話をしている家庭教師が、せっせと魔力過多症の治療を施してしまっては、魔石化は一向に進まない。
これは……マリク様が可哀そうなのはもちろんなのだが……アークヴェル様も可哀そうなのでは……?
だって、アークヴェル様は、マリク様の治療に協力的だったし……エリスちゃんの探索だって手助けしてくれたのだ。多分、このゲドーダさんの計画を最初から知っていたはずが無い。
「あの……アークヴェル様は……」
「ああ、心配すんなって。多分、あのお坊ちゃんは処罰対象にならないか……なっても軽いモンじゃねぇかなぁ?」
「そ、そうなんですか?」
よ、よかった……!
「……あの坊ちゃん、クソ真面目だろ?」
オズヌさんがあきれた様子で不敵に笑った。
「へ?」
いや、まぁ……かなり真面目な方だとは思うけど……?
「しかも、元々母親の計画を知らなかったみたいだし……」
オズヌさんはいくつかの書類を見ながら答えた。
「わざわざ、おやじ殿に宛てて、逐一、末っ子くんの病状の変化や『正しい治療方法』へ切り替える事への了承確認なんかを、事細かく報告してる証拠が山のように出てきてるからなァ……」
「あっ!」
そういわれると、アークヴェル様は頻繁にお父様に報告をされていたはずだ。
「で、それより、お二人さんにとって重要なのはこれから先の話なんだが……例の末っ子くんの方が、これから先どうなるか……正直、読めん。」
「!? そんな……マリクはそんな悪い事してねぇだよ!? そ、そりゃ……お家壊しちまったり……その、いろいろしたかもしんねぇけど、弁償すんのなら、おらも手伝うし!」
「いやいやいや、そうじゃなくて……これだけ凄い魔力量を誇る子供が居ると、公表したようなもんだ。……皇家に養子に寄越せ、って話が十中八九、出る」
「「皇家に!?」」
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