042:暴走の終わりに
異空間を抜けたらそこに居たのは、マリク様と……何故か対峙しているような格好のアークヴェル様だった。
もしかして、マリク様の暴走を止めていてくださったのかしら?
アークヴェル様の後ろには、引き攣った顔のゲドーダさんと、同じく恐怖と困惑に顔を歪ませた上品な雰囲気の女性がへたり込んでいる。
うわ……その、すぐ隣の壁、すっかりきれいさっぱり吹き飛ばされて跡形も無く、白々と明け始めている空や山々の輪郭が見えている。
まるで部屋の内側で魔道大砲をぶちかましたかのような惨状だ。
「……マリ、ク……マリク、もう、ええべ?」
アメノヌホコ様に抱えられたエリスちゃんがマリク様に近づくと、それまで空気中に満ちていたマリク様の怒りのような感情が急速にしぼんでいくのが感じられた。
あ。……これなら、なんとかなりそう。
マリク様が少し落ち着いた様子でエクゥさんと会話を交わしているのが聞こえた。
『……代償トシテ、我ガ魔力……ニ分ノ一ヲ、与エル』
『……チョット、足リナイカラ……少シ、トキモ、貰ウヨ?』
え?
……ぞわり。
マリク様に付けてもらった傷魔法陣から、奇妙な感覚を覚えた。
本来、差し出すべきではないものを、差し出してしまったかのような……!
駄目です、と静止する前に小さく頷くマリク様。
「……もう……こっち、来ないで……」
――ザンッ!!
「マリク様っ!?」
その言葉を最後に、意識を失ってしまったマリク様を抱き留めた。
急いで脈や呼吸を確認すると、特に問題は無さそうで、ひとまずは、小さく息を吐いた。
「うああああああああ!!! 貴様っ、貴様ああああ! 何を、今、私達に何をしたああああっっ!!!」「い、いや……うそ!? 嘘よ!! いやあああああっ!!! わたくしの、わたくしの魔力が!! ない!! 感じられないわ!? うそ、うそよぉぉぉぉぉ!!」
突如、発狂したような叫びをあげたかと思うと、床に頭をこすりつけて泣き喚くゲドーダさんと、上品な女性。
……そうか……
あの時、エクスカリバー様……いや、マリク様は、ゲドーダさん達と精霊さんたちの世界――つまり、魔力の繋がりそのものを断ち切ったのだろう。
この中では、おそらく一番魔力量が少ないであろうわたしよりも……
遥かに魔力との繋がりを感じられない。
「アークヴェル兄さん……ヤンデルーナ様、これは、一体どういうことでしょうか?」
泣き喚く二人を見据え、セレス様が手にしていたぐしゃぐしゃなメモを突き付けた。
「それは……」
「アークヴェル兄さんも何か知ってるんだよね? ウチに今夜来た賊がコレの回収、パメリア殿と、そこの……新しい使用人を害して……さらに、ウチの弟を殺そうとしてたんです!」
「おだまりなさい!! お前が……あの女が!! アルベルトが!! 大人しく、わたくしに! お前を差し出していれば……こんな、こんなことには……!!」
ヤンデルーナ様と呼ばれた女性が、セレス様に食って掛かった。
ヤンデルーナ様って……あの肖像画の第一夫人!?
半狂乱で喚き散らす中年女性に、あの肖像画のような優雅さは無い。
「お前なんか!! 実の母親に捨てられたくせに!! どうして、お前で人工魔石が作れていれば……あんな、アレを産ませる必要も無かったのに!! ああ、あああああ……」
「な……」「母上……!」
あまりの暴言に、絶句した様子のアークヴェル様と、唇を噛みしめて俯くセレス様。
「……パメリアさん……これ、借りるわ」
「えっ?」
ツカツカツカ……スパーーーーン!!
フィリアちゃんが、ヒステリックに喚き散らしていたヤンデルーナ様の顔面にファリセンの一撃を叩き込んだ。
「ふぁっ!?」
「セレス……みんな! もう、帰ろう!!」
「……え? フィリア?」
セレス様があっけに取られた様子でファリセンを振り下ろしたフィリアちゃんを見つめた。
フィリアちゃんは、一瞬だけセレス様に向かってほほ笑むと、くるりとヤンデルーナ様を睨みつけた。
「自分の思い通りにいかないからって、ウチのセレスに八つ当たりするのは止めてよね! おばさん!! なぁんで、あんたなんかにウチのリーダーを渡す必要があるのよ!!」
フィリアちゃんの啖呵に『輝星同盟』の面々が同調するように口を開いた。
「そーそー、何か詳しいところはよくわかんないけどさ、失敗したら人のせい~ってのは、汚ェよな~」「それな~」「つーか、何でよくわかんないんだよ? このおばさんが黒幕っぽいじゃん?」「そこはわかってるよ。だけど、何で失敗がウチのリーダーのせいにしてるのか意味不明だろ?」「別にそんなの、どーだっていいじゃん。リーダーのメモと、これだけ証拠があれば、こんなおばさん、法廷でもフルボッコだし~」「そうね。それに、戦うにしても一般庶民の魔力量じゃ、私たちには勝てっこないわよ」「マジそれな」「それよりさぁ、帰って、メシ食って寝ようよ」
「な……、な……」
悪ガキ様たちの罵詈雑言に、口をパクパクさせて絶句するヤンデルーナ様。
だが、彼らの指摘はどれもこれもある意味素直で……そして慟哭する二人にとっては、言葉を失ってしまうほど厳しいものなのだろう。
「母上……今回の事は、流石に公爵家だけの問題ではありません」
長い夜が明けてきたのか、半壊の部屋に朝の光が降り注ぎ始めていた。
「……ご覧ください」
「お……おぉ……あ、ああっ……」
アークヴェル様が指さす先には、湖が広がり、さらにその向こう側に屋根の壊れた屋敷の影のようなものが見えた。
どうやら、マリク様の一撃?……だよな?
一撃は、他所のお宅の屋根もぶち抜いてしまったようだ。
「父上と……無論、王宮にもご報告する必要があるでしょう。正式な沙汰はその後に下されます。ゲドーダ殿もよろしいですね? ……セレス、そのメモはお前が管理していた方がいいだろう」
「アークヴェル兄さん?……いいの?」
「無論。……最終判断を下すのは父上だと思うけど、それまではお前の判断に任せるよ。お仲間の皆も、セレスをよろしく支えてやってください。」
アークヴェル様は、何故か透き通るようなすっきりとした微笑みを浮かべた。
ほほ笑んでいるのに、消えてしまいそうな……
「パメリア殿も、エリス殿も……申し訳ありませんでした。……また、引き続きマリクの事をよろしくお願いします。……さ、皆、家に帰るんだ」
「あの、アークヴェル様は……?」
「私は……この別荘の片付けがありますから……」
「なんだ、そういう事ですか……お任せください! アークヴェル様。」
にっこり。
「わたし、お片付けは得意な方なんです! お手伝いいたしますね?」
「え……? いや、あの、パメリア殿……そういう意味の『片付け』では……」
「ええ、分かっております」
今、この人に全てを任せて……いや、背負わせてはいけない気がした。
「……だからこそ、皆さんで手分けした方がスムーズなんです。……ね?」
わたしのウィンクに、セレス様はやれやれ、と言った調子で、フィリアちゃんをはじめとするパーティーメンバーは口々に、そして、エリスちゃんも大きく頷いたのだった。
ここで、とりあえず一区切りです!1章完結的な?
でも、パメリアの活躍(恋愛珍道中?)は、もうちょっ……しばらく続くんじゃ~(^皿^;)
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