040:お子様を追え!
えええ……ええええええええ!?
流石のわたしも、呆然と立ち尽くしてしまった。
こ、これ、後を追って良いのかしら?
……というか、追えるものなのか?
「おい! 大丈夫か!! いったい何が……!! な……」
「セ、セレス……! みんな……」
わたし達が呆然としている間に、ばたばたと数人が駆け込んでくるような足音が響いて、部屋に飛び込んできたのは、セレス様一行だった。
彼らは一様に、部屋にぽっかりと開いたままの異空間への入り口と、その手前でエリスちゃんを守るようにたたずむアメノヌホコ様を見て硬直している。
「い……いったい、何があったんだ?」
セレス様の疑問は最もなんだけど……わたしたちも分かる事と言えば、エリスちゃんを傷つけられてブチ切れたマリク様が暴走してあの異空間の先へ消えていった、なんだよね……
「お前……敵……って感じじゃない……よな?」
セレス様が、剣を構えて警戒したまま、アメノヌホコ様を凝視している。
「敵ではありません! 彼女はマリク様が呼び出した?……えーと、精霊さん?です!……多分……」
「そ、そうか……え? せい、れ? ……で、その、コイツを呼び出した……アイツは?」
『……吾が君は、御剣の子と共に追うておりまする』
「「「わぁあ!?」」」
まさかアメノヌホコ様が普通にこちらと会話してくれるとは思わなかったが、これはありがたい誤算だ。
「何を追って、どこへ行ったんだ!?」
一瞬ひるんだセレス様だったが、毅然とした様子でアメノヌホコ様に問いただす。
『元凶を断ちに向かっておりまする』
ちらり、とアメノヌホコ様の角の瞳が泡を吹いて失神している男へと向けられた。
「えっと……あの、アメノヌホコ様は……マリク様を追わないのでしょうか?」
『吾は、お姫様を任せられました故』
自慢げに胸を張るアメノヌホコ様。
『お姫様が目覚められましたら、追いまする。御剣の子は、吾が民の内では、性無き子ども故。吾が君の本意を汲みきれぬこともありますれば……』
そう言いながら、その長い髪を手のように動かして、わたしの髪をさらりと撫でた。
あ。もしかして、わたしの髪を切ったのは……エクゥさん、
いや、エクスカリバー様?
しかし……伝説のエクスカリバー様が……
やんちゃな、いたずらっ子扱いなのか……
なんか、見た目と名前のイメージは『ザ・大天使』みたいなスゴイお力をお持ちの青年なんだけど……
あああ……でも、緑の光の玉の、ぽよんぬ、ぽよんぬ、とした状態を思い浮かべると妙に納得感があるというか……
「あ、あの……」
その時、コナーくんが右手を挙げた。何やら微妙に声が震えている。
「おおもと……って、さっき姐さんが言ってた……ゲドーダさんっていう魔法医ってことっスか?」
恐らくそういう事なのだろう。
「その人って……どこに居るんスか? ……仮に、もし、王宮の方だったら、その……ヤバくないっスか?」
その一言に、パーティーメンバー全員の顔色が変わった。
王宮には宮廷魔導士の皆様をはじめ、皇家の方々、名だたる貴族の皆様や各家の当主クラスが集っている、この国の中枢だ。
そんなところに、怒りで暴走状態の猛獣お坊ちゃまと、精霊さんの中ではお子ちゃまなエクゥさんを放り込んだら……
「追いましょう!!! 今すぐに!」
「おい、精霊! 今すぐ、アイツを追え!! 俺たちも一緒について行くからなっ!」
セレス様が、顔色を変えてアメノヌホコ様に命じることができるあたり……
この辺の肝の据わり方、やっぱりマリク様のお兄ちゃんだわ。
『お姫様がまだ目覚められておりませぬ……』
「馬鹿か!? それでうちの弟が賊として打ち取られたらどうするつもりだ!?」
セレス様の怒鳴り声に、アメノヌホコ様の髪がふわりと逆立った。
「彼女なら僕が背負うから問題ないだろ! さっさとアイツを追うぞ!!」
「ちょ、リーダー!?」「リーダーより俺が背負った方が良いって!」「そうよ、ファレルに任せましょう!?」「リーダーは遊撃タイプじゃん!? 落ち着いて!」「えっと……う、うん、この子、ちゃんと脈もあるし、息もしてるから、動かしても大丈夫だと思うよ」
その様子を見たアメノヌホコ様がちょこん、と小首をかしげると、ふわりとエリスちゃんを抱き上げた。
「……う……あ、あれ? アメさ?」
どうやら、エリスちゃんが意識を取り戻したようだが、アメノヌホコ様はそのまま微笑みを浮かべると
『なれば、いさ参りませう、吾が君のもとへ……』
するすると地面をすべるように移動し、どこへ続いているのか分からない異空間へと姿を消した。
「行くぞ!」
わたし達もアメノヌホコ様を追うように、その漆黒へと駆け出したのだった。
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