039:暴走!? 猛獣お坊ちゃま
「な、なに!?」
バルコニーの東側から青白い魔力光が輝いているのが目に飛び込んできた。
あちら側は――マリク様とエリスちゃんが休んでいる寝室!!
「マリク様ッ!?」
そうよ! そもそもコイツら……マリク様に何かしようとしていたじゃない!!
わたしは、とりあえず自室に置いていた武器になりそうな長物をひっつかむと、そのまま全力でマリク様の寝室へと駆け出した。
「パメリアさん!?」「ちょっ、待って!?」
すぐ後ろから、フィリアちゃんとコナーくんも付いて来てくれている。
――ばんっ!!
「マリク様っ!? ご無事ですかっ!?」
扉を開くと、そこは……異様な、世界が広がっていた。
「えっ!?」「うっ……!」
フィリアちゃんとコナーくんが衝撃を受けている声が後ろから聞こえる。
「ひ、ひぃぃぃ……! た、たすけ、お助けを……っ!!」
バルコニーが有ったと思われる壁一面は吹き飛んでいて風晒し。
その床にへたり込んで涙と鼻水を垂らしながら、怯える黒ずくめの男の身体には、床から青白く光る液体(?)のようなものが、重力を逆転させたかのように下から上に向かって垂れるように絡みつき、男を締め上げていた。
「……フー……フー……ゆる、さ……ない……」
当然、その怪奇現象を起こしているのは、ベッドの上で宙に浮いているマリク様なのだろう。
薄い寝巻の向こう側から、体中の痣が……蒼銀色の髪が、淡く青白く発光している。さらには、その体の廻りをパチパチ弾ける小さな雷のようなものが取り巻き、興奮と怒りのせいか、肩を大きく上下させながら荒い呼吸を繰り返していた。
その足元で蹲っているのは、半透明で頭に牛の角のようなモノをつけた美しい女性の精霊さん。
――そして、赤黒い血の海に倒れ伏すエリスちゃんの姿。
「お、お許しを……、こ、これは……その、上から指示されただけで……!俺は、やりたくなかった! やる気は無かったんですぅっ!! ひいぃぃぃっ!!」
ぺぎ、ぴぎ、ぺぎ……っ!
聞いたことも無いような不快な音を立て、青白い光が黒ずくめの男を侵食していく。
「マリク様ッ!!」
マリク様がここまで怒っているのは初めて見たし、その理由も良く分かる。
だけど――!!
「何をなさっているんですかっ!!!」
スパーー―ンっ!!
わたしは、握りしめていた長物……教育用ファリセンで宙に浮くマリク様の背に喝を入れた。
「そんなヤツ今はどうだって良いでしょう!? 優先すべきは、エリスちゃんです!!! コナーくん、フィリアちゃん! 【応急処置】は使えますかッ!?」
「ッ!?」「は、はいッ!!」
我に返った二人が、急いでエリスちゃんに駆け寄ると、呪文を唱えだした。
「まずは止血ッ! マリク様ッ! すぐの傷なら、アメさんにお願いすれば何とかなるんですよね!? 優先順位を間違えないでくださいな!!」
ファリセンで叩かれたマリク様がゆっくりとわたしを振り返る。
その表情は、想像していたものよりも、ずっと冷静で、普段のマリク様とあまり変わらない。ただ、その青い瞳だけが、内側からメラメラと燃えるように輝く虹色の光を放っていた。
「……先生……そう、だ、ね……アメ……ううん……ちがう『我ガ意ヲ汲ミテ……顕現セヨ、アメノヌホコ……』
「!?」
言葉の途中から、マリク様の声……いや、音に魔力が込められたのが分かった。しかも、その量は半端な量ではない。
『オオオオオ……!』
マリク様の声に反応するように、エリスちゃんの近くで蹲っていた精霊さん……おそらくアメさん、いや、アメノヌホコ様が歓喜の叫びをあげると同時に、その体に色がつき、実体を持ち始めた。
右半身は陶磁器のような真っ白な肌に、漆黒よりもさらに黒い髪、左半身は黒曜石のような透き通る真っ黒な肌に、雪よりも白い髪……両目は優しく閉じられたままだが、そのこめかみから生えた牛の角には真っ赤な瞳が楽しそうにキラキラと輝き揺れている。
「わ、わっ!?」「ええっ!?」
【応急処置】を唱えていたコナーくんとフィリアちゃんが、突如現れた美女精霊の巨乳に弾き飛ばされて尻餅をついた。
『アメノヌホコ……えりすヲ、癒シテ……』
『御意』
『……代償トシテ、我ガ魔力……三分ノ一ヲ、与エル。……足リル?』
『十分スギルホドニ、吾ガ君……』
輝きを増したアメノヌホコ様がやさしくエリスちゃんに触れると、辺りに流れてしまったと思わし血液が、キラキラとした赤い粒に変化し、ゆっくりと彼女の身体に戻っていく。
「……う……」
一時はかなり危険な顔色だったエリスちゃんの頬に、生気の色が戻っている。
よ、よかった……エリスちゃんは、これでなんとか……
「……エリス……」
マリク様の表情が一瞬だけ、ほっと緩んだ気がした。
だが、じろりと、青白い光に捕縛されたままの男に視線を戻すマリク様。
「……次は……おまえ……」
パチッと、青白い稲妻が弾けた。
「あ、ああ……あばばばば……」
恐怖のあまり失神したのか、泡を吹いて目を回してしまう黒づくめの男。
「エクゥ……来て。『我ガ意ヲ汲ミテ……顕現セヨ、エクスカリバー』
『……ニャハハハハッ! ココニ、居ルヨ~!』
「!!??」
くるくるっと回りながら現れた緑色の光の玉が、徐々に背中に4枚の翼をもつ美しい天使のような青年の姿に変わっていく。その彼の廻りを6本の剣が自在に飛び回っている。
えっ!? え、エクゥさん……エクスカリバーって、ちょ、え!?
で、伝説の聖なる剣!? あの、勇者伝説の!? ひと振りで大陸を切り離したとか言われている、あの!? いや、そんな……!?
エクスカリバー様は、わたしの混乱を見透かしたかのように、いたずらっ子の笑顔で、わたしに向かってウインクをかましてくれた。
「……ぜったい……ゆるさ、ない……全部……全部ッ!」
いやいやいや、待って!? マリク様!? オーバーキル!!
オーバーキルが過ぎますッ?!
『切リ裂ケ……エクスカリバー……!』
『オ任セアレ!』
ぬるん……!
奇妙な音を立て、円形に切り裂かれ……いや、えぐり取られる。
――倒れた男……ではなく、その近くの……空間、そのもの……が?
『サ、行コウ、我ガ愛シノ君!』
そういうと、エクスカリバー様は、マリク様を連れてその空間へと姿を消した。
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