036:顔面パワーアップ!
「ふんふふ~~ん♪ おはようございます、パンナさん!」
「ああ、おはよう。マリク坊ちゃま達の分の朝食はできている……って、アンタどうしたんだい!? その顔!」
「うふふ~、カッコ良くありませんか?」
左の額から瞼、頬にかけて赤黒く変色していたわたしの傷だが、さらにその傷の中にうっすらと蒼い光を放つ魔法陣が刻まれている。
もちろん、これは半永久的なもので、洗顔したとしても落ちてしまったりする訳ではない。
「はぁ~……いや、アタシには良さが分からないんだけど?」
パンナさんがあきれた様子でマジマジとわたしの顔を眺めた。
「実はですね、この魔法陣、わたしだけではなく、わたしの近くにいらっしゃる方にも治癒効果をもたらすんですよ!」
「へぇ~……治癒効果かい? それなら悪くないかもしれないけど……どんな効果があるんだい?」
「はい! 肩こり、腰痛、水虫、腋臭、歯周病、片頭痛、老眼、便秘、痔、そして薄毛の予防・解消です!!」
わたしは、マリク様から聞いた治癒効果をパンナさんに披露した。
「どれもこれも微妙な効果じゃないかい!?」
「えっ!? でも、どの病もあまり直接、命には係わらないくせに、罹るとなると嫌なものばかりなので……良い効果だと思いませんか?」
地味に10個も違う病に効果のある魔法陣は珍しかったりする。
「あー……まぁ、そう言われると確かにね。……あんまりそういう病気専門の治療院は無いしねぇ……」
パンナさんも、この傷魔法陣の効能にご納得いただけたらしく
「アタシ自身の顔がそうなるのはゴメンだけど、近くにそういう効能がある人が居てくれるのは嬉しいね」
とニンマリ笑いながら朝食のヨーグレットに、おまけのはちみつをたっぷり注いでくれた。
「もし、お時間に空きが出来たら、わたしのところで休憩なさってください」
「あはははは、そうだね。確かにずっと台所仕事だと、腰はつらい時があるからね」
「おはよーございまーす!」「いや~。リーダーん家のメシって美味いよね」「ちょっと、ファレル、食べ過ぎには注意してよね」「「言えてるぅ~」」「うるせぇやい!俺は成長盛りなんだよ」「それ以上、胃袋を成長させないでくれよな」「きゃはははは!」「マジそれな」
わたしとパンナさんが和気あいあいと会話をしていると、珍しくぞろぞろと、にぎやかな御一行の声が響いて来た。
あれは、セレス様とそのパーティーメンバーだ。
「おや、セレス坊ちゃん、おはようさん」
「おはようございます、セレス様」
「ああ……って、お前、どうしたんだ、その顔!?」
わたしとパンナさんが声をかけると、いつもどおり、少しぶっきらぼうに返事をしたセレス様だったのだが、わたしと目が合った瞬間、目を丸くした。
「ふふふ。良いでしょう? マリク様にお願いして、傷を目立つようにしてもらったんです!」
ぴっ、と自分の傷を指し示したところ、セレス様は
「はぁぁ!? 何でだよ!?」
と素っ頓狂な声を上げた。
だが、パーティーメンバーの皆さんからは
「ぎゃはははは!」「うわ~、すげっ! それって勇者伝説の半顔賢者リスペクトっスか~?」「マジヤベェ!!」「姐さん、パネェっス!」
と、なかなか好評だった。
ふふふ。勇者伝説リスペクトを理解しているとは……!
弓使いのコナーくんだっけ? なかなかセンスの良き子である。
「あれ? ね、ねぇパメリアさん……その人差し指の指輪って……」
「ああ、これですか?」
「も、もしかして【危急身守】?」
流石、フィリアちゃん。男性陣の視線はバージョンアップした顔の傷と魔法陣にくぎ付けだったようなのだが、女性の視点は違ったようだ。
やはり同じ女性だけあって、この手の装飾品には詳しいのかもしれない。
「ええ、そうなんです。アークヴェル様から頂きまして……」
「アークヴェル兄さんが!?」
何故か、ハトが豆鉄砲を喰らった顔で驚くセレス様。
「ええ。アークヴェル様のご友人のクロード様に作っていただいた品なんです」
「ああ、あのクロード先輩ね。……はぁぁ……しかし、兄さんが……ふーん」
呆れたような、納得したような様子でじろじろとわたしと指輪を見比べるセレス様。
「……まぁ、あの真面目でカタブツな兄さんだと、このくらいブッ飛んでて、変じゃないと常識に押しつぶされて身動き取れなくなるのか……? うーん……しかし……蓼食う虫にしても悪食というか……兄さんって、味のしない臭いリンゴでも、それが義務なら完食するタイプだと思ってたんだが……違うのか?」
ブツブツと何故か真剣に悩み始めてしまわれた。
何気にセレス様のアークヴェル様に対する評価が酷いような気がするのは気のせいだろうか?
「あの、セレス様……?」
「……いや、別に何でもない。……まぁ、あと1,2回ダンジョンに潜ればウチのパーティーでも人数分の【危急身守】を揃えられるからな。……フィリアも指輪タイプがいい?」
「えっ!? あっ、ふぇっ……!? そ、そそそ、そうね、指輪……うん、そうだと、うれしい、な……」
突然セレス様からそんな話を振られて、慌てふためくフィリアちゃん。
うんうん。青春だね。
「はい! リーダー! 俺は腕輪タイプが良い」「あ、だったら俺はネックレスかな」「一番付けてて邪魔にならないのはイヤリングタイプじゃね?」「いや、案外、耳って慣れないと重く感じるぜ?」「ほーん? じゃあ俺も腕輪かな~?」
メンバーの男性陣からも希望の声が上がる。
「うん、わかった。後で僕からもクロード先輩に予約したいって兄さんに頼んでおくよ。……あ、そうだ。……おい、お前」
「はい、何でしょう?」
「アークヴェル兄さんから呼び出しがあると思うから、朝食を取ったら、兄さんの執務室へ向かえよ」
おや? 何かしら?
「ええ、わかりました。ありがとうございます」
そのまま朝食を中宮で取るらしいセレス様一行と別れ、わたしはマリク様とエリスちゃん、そして自分の朝食を持ち、北宮へと足を向けた。
「あれまぁ! それだったら、食べ終わった器はおらが洗って、片付けておくから、パメリア先生は若旦那様の所へ向かってくださいだべ」
朝食の途中で、セレス様から頼まれた話をしたところ、エリスちゃんが食器の片づけを申し出てくれた。
彼女のおかげで、マリク様の食欲もかなり増加している。
普段なら、全体の半分も召し上がれば食欲がある日……なのだが、エリスちゃんと半分こにしながら、いつもの病人用の朝食半分と、使用人用の朝食の半分、という、ほぼ一人前の量を召し上がることができたのだ。
そんな訳で、マリク様の事はエリスちゃんに任せ、アークヴェル様の執務室に向かった。
……コンコンコン。
「どうぞ?」
「失礼いたします、パメリアです」
「ああ、パメリア殿……もしかして、セレスからぶふぉっ!!……ごほっ、ごほっ!」
「あ、アークヴェル様!? 大丈夫ですか!? いかがなされました!?」
「いや、いかがなされたのはパメリア殿の方ですが!?」
「へ??」
いつもの笑顔でわたしを迎え入れてくれたアークヴェル様が突然咳き込んだので焦ってしまったが、アークヴェル様の体調はいたって普通、とのこと。
「いや、えーと……あの……その、傷跡が……パワーアップされておりませんか?」
「ああ! はい、そうなんです!」
おお、アークヴェル様もそこに気づいてくださったか!
流石、気遣いの男!
わたしは満面の笑みで、マリク様とエリスちゃんのお礼と傷魔法陣の回復効果についての経緯を披露させていただいた。
「――と、いう訳なんです!」
「っ……ふふふ……くくく、そ、そうですか……肩こり、腰痛……痔、薄毛……ふふふ」
何故か、効能を聞くなり肩を震わせて笑い始めるアークヴェル様。
どうしたんだろう?
……はッ!!
もしかして、この人……胃だけじゃなくて、痔持ちだったりするのか?
座り仕事、多そうだしなぁ。
ちらり、と確認する執務机の上には、また新たな書類の束が積みあがっている。
いや、もしかすると、ストレスによる抜け毛?
わたしの目では、その兆候は分からないけれど、頭皮が固くなり始めているのかもしれない。
「アークヴェル様! ご安心ください!! もし、腰やお尻の体調に不安がございましたら、是非、北宮へお越しくださいね? 頭皮の健康もお守りできますので!!」
「あははははは! わ、分かりました、ありがとうございます」
ひとしきり笑ったあと、アークヴェル様は笑みを浮かべたまま、少し真面目な顔になった。
「……ありがとうございます。パメリア殿の吹っ切れ方を見ると……人の目ばかり気になってしまっていた私も、色々と吹っ切れそうです」
そのまま、以前、酔っぱらった時に壊してしまった宝玉の欠片たちを小さな袋にしまうと、それをご自身の懐に入れた。
「……今日から、母と……父にも、弟の治療方針について……パメリア殿のやり方を続けていけるように話し合って来ます」
確かに。
……あのゲドーダさんのやり方では魔力過多症の改善に至らないことは明確だ。
「はい、是非、よろしくお願いいたします」
「ええ……今から、頭が痛くなって来そうですよ」
アークヴェル様は苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「今日から、1週間程度……私は別宅に戻れないと思います。その間は、セレス達がこちらの屋敷に帰っておりますので、何かあれば、セレスにご相談ください」
「かしこまりましたわ」
なるほど。
セレス様達が、珍しく食堂に勢ぞろいしていたのは、アークヴェル様が留守になるからだったのね。
「……あの……」
「……?」
アークヴェル様が少し言い淀んだ様子でゆっくりと口を開いた。
「……パメリア殿は、もし、私が一般庶民になったら、どう思われますか?」
「一般庶民ですか? アークヴェル様ほどの才能がございましたら、どこの仕事場でも、きっと引っ張りだこです!」
突然の問いかけに、思わず即答してしまった。
いや、だって、ねぇ?
これだけ事務仕事ができて、気遣いができて、それでいてこんなイケメンで、さらには魔術まで使える、となると……できない仕事を探す方が難しいくらいじゃないかな?
「ふふ……そう言っていただけると、気が楽になりますよ」
そう言いながらも、どこか緊張した様子のアークヴェル様。
あ、そうだ!
「アークヴェル様、ちょっとよろしいですか?」
「はい?」
……こつん。
「ぱ、パメリア殿!?」
「この傷魔法陣、片頭痛にも効果があるんです」
わたしは、アークヴェル様の額に、自分の額をそっと合わせた。
「アークヴェル様の頭の痛みが少しでも良くなりますように!」
「……」
しばらくしてから額を離すと、アークヴェル様の顔色が少し桜色に染まっているような気がした。
……あれ? おかしいな……?
片頭痛は血行促進よりも血管の拡張を抑えた方が楽になるはずなのに……
使い方が違うのかしら??
これは、後でマリク様達に確認しておかないと。
わたしは魔法陣の仕様確認を心に誓ったのだった。
面白い! 流石、気遣いの男じゃねーよ!? 普通、気付くよ!?
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