035:治療は要らない
あの後――身も蓋もない言い方をすると、あのまま即、エリスちゃんをお持ち帰りすることができた。
そもそも、彼女にはすでに身寄りが無いらしく、あの中古服屋さんに住み込みで働かせてもらっていたようなのだ。
しかし、彼女自身、マリク様程ではないにしろ精霊に好かれやすい体質、とのこと。
そのため、彼女の周りでは妙な事が多発してしまっており、あの中古服屋の店長さんも少し持て余し気味だったようなのだ。
そのせいか、店長さんには、アークヴェル様が引き抜き料として、それなりの金額を提示したところ、一も二もなく頷いてくださった、とのこと。
また、マリク様が「エリスとは、もう絶対離れない!」という意思が非常に強固だったため、多少の荷物は後日公爵家へ運び込むこととして、エリスちゃん本人は着の身着のままで馬車に連れ込み、北宮へ移ってもらう事となった訳である。
「それでは、エリス殿に関しては、正式にマリクの『侍女』という事で再雇用させていただきます。ここ、北宮であれば、どこのお部屋を使っていただいても構いません」
「えっ……は、はいっ! ありがとうございますだ、若旦那様!」
アークヴェル様の言葉に、ほとんど反射的に頷くエリスちゃん。
だが、こそこそとマリク様に向かって
「……なぁ、マリク、侍女って何するだ? おら、簡単な掃除とか洗濯とか繕い物くらいしかやったことねぇんだけど……大丈夫だか?」
と、確認をしている。
そうか……エリスちゃんは、元々使用人としては最下級の洗濯メイドだった訳だから、上級使用人の筆頭格とも言える侍女の皆様とは接点が無かったのか。
「え……? パメリア先生、侍女って……何をするの?」
……いや、マリク様の方も接点が無かったか……
本来、『侍女』とは女性主人に仕える上級使用人で、奥様やお嬢様の話し相手だったり、服装やおしゃれの相談を受けたり、恋文の指南をしたりする女性のことを指すのだ。
なお、ごく稀に、男性主人に仕える侍女、という存在もあるのだが、それは「他に替えが効かない程、超有能かつ稀有な能力を持つ女性」を指す事が多く、マリク様とエリスちゃんの場合はこっちなのかもしれない。
「そうですね~……基本的な実務としては、マリク様のお世話を手伝っていただけると助かるんですけれど……北宮は他に人が居ないので、お掃除にも手がまわりきれてませんし……」
「ああ、そんなら、おら……じゃなくて、ワタス、頑張りますです!」
明らかにホッとした表情で笑顔を浮かべるエリスちゃん。
「じゃあ、ずっとエリスと一緒でいいの? ごはんも? 寝るのも?」
「はい、そうなります」
「わーーーーい!! ありがとう、先生、アーク兄さま!!」
パタパタと両手を振り上げて、にっこりと満面の笑みを浮かべるマリク様。
あ。
マリク様の笑顔……初めて見たかも。
どちらかというと、普段は無表情か、かなり機嫌の良い時でも、やわらかそうな表情を浮かべる程度だったのだが、すっかり普通の子供のようにコロコロと表情を変え、エリスちゃんと楽しそうにおしゃべりする姿にほっこりする。
ふふふ、よかった……
これで、エリスちゃんを巻き込めれば、さらに治療や運動、筋トレなんかにも精をだしてくださるだろう。
「パメリア殿、エリス殿の個室などの……お二人の生活についてはお任せしてしまって構わないでしょうか? 食事などの基本的な雇用条件のスタイルはパメリア殿と準ずる形を予定しておりますので」
「ええ、かしこまりましたわ。アークヴェル様、本日は本当にありがとうございました」
こんな高価な装備品だけではなく、まさかエリスちゃんまで見つかるとは!
「い、いえ……そんな、改めてお礼を言われるほどの事ではありません」
何故か、少し照れた様子で頬を染めるアークヴェル様。
折角なら、もう少し北宮でゆっくりして行って欲しかったのだが、この後まだいろいろとお仕事が残っているらしく、
「こちらこそ、今日は古い友人にも会えて……こうしてエリス殿を見つけることもでき……とても、楽しかったです」
と言う言葉を残して、公爵代行の仮面を被り直すと、業務へと戻って行かれてしまった。
お疲れ様でございます。
「あの……先生様……」
「エリスさん、わたしの事はパメリアとお呼びくださいね」
「は、はい、パメリア先生、ワタスのことも、エリスと呼び捨てで構わねぇべ……あの、マリクから聞いたんだけど、パメリア先生がワタスのこと、探してくれたって……だから、あの、ワタス達からもパメリア先生にお礼したいんだべ……! な、マリク」
「うん!」
あらあら? そんな事、気にしなくていいのに。
「先生、あのね……先生のその傷……」
マリク様がキラキラした瞳でわたしの顔を指さした。
「アメとナナが居るなら……治せるよ?」
「……へ?」
アメさんは、あの内臓の精霊さんだよね?
「アメさは、マリクの子だ。ナナはおらの所についてきてくれてる子だ。アメさだけでも、すぐの傷なら大丈夫なんだけど、古い傷だと、ナナも居たほうがいいらしいんだべ~」
なるほど……
つまり、二人が名前付きで呼んでいる精霊さんは上級精霊……
いや、其々に憑いている、となると守護精霊(?)の上位版みたいなものなのかしら?
ただ、古傷まで治せるって……そんなスゴい魔術――いや、魔法だって、聞いたことは無い。
確かにその効果をこの目で見てみたい気はする。
だが……
「ありがとうございます、マリク様。エリスちゃん」
にっこり。
「……でも、わたし、この傷……結構、お気に入りなんです」
そう!
二人のお気持ちは、すっごくうれしいんだけど「推しの賢者様と似た傷跡」はわたしの個人的萌えポイントなのだ!!
「回復魔法」と呼ばれるものを、この目で見てみたい気持ちは有るんだけど、それとこれとは別問題!!
「えぇっ!?」
エリスちゃんが驚いた様子で目を丸くする。
まぁ、そりゃそうだよね。
だが、マリク様は「うん……その方が、先生……だよね」と、ほほ笑んだのだった。
流石、マリク様。分かってらっしゃる!
「ふふふ。『勇者伝説』に出てくる半顔の賢者様っぽい傷跡でしょう?」
「ああ! そういわれると、確かにそうだべ!」
「だから、この傷を消してしまうよりは、むしろもっと派手に! カッコよくしたいくらいなんです、わたしは」
キュピっと、おどけたポーズを決めてみると、エリスちゃんも嬉しそうに笑い出した。
「あはははは、おもしろい先生だべな~!」
「……うん、わかった。……先生、できるよ」
「へ?」
「……アメがね、その傷の中に……治癒効果のある、魔法陣を刻むことができるって……ちょっと、派手になっちゃうけど……」「是非お願いしますッ!!!」
シュバッ!!
そ、そ、それって、一番人気のあるイース写本版の描写とおそろいじゃないですか!!
『その傷に刻まれし魔法陣 蒼き閃光を放ち』って超有名なフレーズぅぅぅッ!!
思わず、車椅子に座っているマリク様の前にひざまづいて、その手を握り締めてしまった。
「是非っ!!」
「うん」
「強メンタルヒロイン」というより
「珍メンタルヒロイン」では!?……いや、強いけどさぁ!?と思ったら☆を5個か4個
普通かなと思ったら☆を3個
イマイチと思ったら☆を2個か1個
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