034:発見! エリスさん
「うわーーーーーーーーんッッ!! エリスッ!! エリス!! 会いたかったよーーーッッ!!!」
ばぁんっ!
「うわっ!?」
えっ!?
ちょ、待って、い、今、マリク様、車椅子の上からエリスさん(?)まで飛ばなかった!?
サイコキネシス、というよりも【飛翔】の魔術に近い勢いで車椅子から飛び出すと、エリスさんに抱き付いて、わんわんと号泣しはじめるマリク様。
ぶわわわわっ!!
うわ!? 突如、辺り一面、見た事もない半透明な白い花びらやら、光の粒やら、羽の生えた眼球やら……キラキラと輝く何かが降り注いでいる。
さっきまでの肌がけば立つような空気の違和感は完全に消え去っているものの、視界の方は、さっきよりも今の方が遥かにすごいことになっている。
「こ、これは……」
この風景はアークヴェル様にも見えているんだろう。
絶句した様子で半透明なそれらを追う視線に、困惑が浮かんでいた。
そんな状況だというのに、エリスさん……というか、年齢的にはセレス様に近いくらいだから、エリスちゃんと呼んだ方が良いような年ごろの少女は周りには目もくれず、抱きかかえる形で泣きじゃくるマリク様の背をやさしく撫でていた。
「マリク……おめぇ、元気になっただか?」
「ぐすっ、ひっく……うええええ……」
「そーか、そーか。えがったなぁ。……だども、ほら、みんなが漏れとるべ」
そう言うと、ぽぽぽふ、とシャボン玉を消していくように周囲に散っている不思議な浮遊物を指差しては消していくエリスちゃん。
て……手慣れていらっしゃる!
だが、その時、店の奥からドスドスと足を踏み鳴らし、不機嫌そうなご年配の男性が出て見えられた。
「おい、エリス! いつまで油売ってるんだ?! さっさと戻って繕い物の続きを終わらせねぇとメシ抜きだからな!」
「す、すいませんですだ、店長!」
急いで謝るエリスちゃんと散らばった服を一瞥すると、店長さんは一度大きく舌打ちをした。
「ったく、とんでもねぇ女を雇っちまったもんだ……おめぇのせいで、服が飛んだり、奇妙な光が出たり、変な事ばかり続きやがる……サッサと立て! ほらっ!」
どしっッ!
「あっ!」「ッ……!」
店長と呼ばれた男性は、マリク様を抱きとめていたせいで、尻餅をついていた形になっているエリスちゃんの背中を軽く蹴り飛ばしたように見えた。
その瞬間、エリスちゃんに抱き付いていたはずの、ウチの猛獣お坊ちゃまが、ゆらりと立ち上が……いや、浮き上がった。
「……エリスを……エリスを、いじめるなッ!」
「ひぃっ!?」
みしみしみしっ……!
店全体が不自然に軋むような音と同時に、顔を真っ赤に染めた店長さんのお身体が握りこぶし一つ分くらいづつゆっくりと宙に浮きあがってて行く。
「……っ!? ……っ!」
「止めろ! マリク!!」
「落ち着いてください、マリク様っ!!」
店長さんは口をぱくぱくさせながら、手足をじたばたともがいている。
まるで巨大な手が首根っこを掴んで持ち上げているような状態だ。
このままでは、あの店長さんの命が……!
わたし達が焦った瞬間だった。
ぺしっ!!
「バカ! おめぇ、店長さんに何するだ!」
どさっ……
突如、すべての力が霧散したのか、地面に尻餅をつく店長さんとマリク様。
「ひ、ひぃぃぃっ……!!」
「……い、いたい……」
「当たり前だ! 悪い事すると、ニルさに連れてかれちまうぞ! マリクがけばけばになったら、エクゥさ達が嫌がるべ? わかっとんのか?!」
エリスちゃんが店長さんの間に仁王立になり、マリク様を叱り飛ばしている。
彼女の説得内容は、わたしにはよく分からなかったのだが、マリク様に対しては効果てきめんだった模様。
「ご……ごめんなさい……」
エリスちゃんの指導に素直に頷くマリク様。
「謝るのはおらじゃねぇべ。店長に、だべ。店長はちょっと乱暴だけど、悪い人じゃねぇだよ!」
「……ご、ごめんなさい」
ぺこり。
ついさっきまで、ほぼ殺気のような怒気を発していた猛獣お坊ちゃまだが、エリスちゃんの一喝で、借りてきた子猫のように大人しくなってしまった。
す、すごい……エリスちゃん……!
「あわ、あわわわわ……」
とはいえ、人知を超えたひどい目に合った店長さんが即立ち直れる訳も無く。
その様子に、わたしとアークヴェル様はこくりと頷きあった。
「さ、大丈夫ですか? 申し訳ない、店主。あの、あちらの彼女の雇用について、少々お願いがございまして……」
と、アークヴェル様が混乱して慌てふためく店主に手を貸して、店の奥に入って行く。
エリスさんを公爵家で再雇用できないか、店長さんと交渉に当たってくださっているのだろう。
その隙にわたしはマリク様を車椅子に座らせると、エリスちゃんと話をするべく、散らばってしまった洋服をたたみながら事情を聞いてみる事にした。
「……エリス、どうして居なくなっちゃったの? ……ボクのこと、嫌いになった?」
「そんな訳ねぇ!」
一旦泣き止んでいたマリク様がまた瞳を潤ませながら問いかけると、困ったようなハの字眉をさらに困らせたエリスちゃんが、大きく首を横に振った。
「おら、ほんとは、ずーっとマリクと一緒に居たかったんだべ?」
おお、よかった!
「でしたら、エリスさん。マリク様の元へ戻ってはいただけないでしょうか?」
「えっ!?」
突然のわたしの言葉に思わず硬直するエリスちゃん。
しゃべり方の田舎っぽさに騙されがちだが、よくよく見ると、淡いブロンドの長い髪に、ハの字をした困り眉。そして、野イチゴのような赤く大きな瞳が印象的な、かなりの美少女さんである。
「……な、なぁ、マリク、この方、どなただべ?」
「あのね、パメリア先生」
「あっ、ごめんなさい、エリスさん。わたし、マリク様の家庭教師のパメリア・レインと申します。」
「は、はいっ! おら……じゃなくて、ワタスはヤマガタ村のエリスと申します」
わたわたと頭を下げるエリスちゃん。
確か、ヤマガタ村は聖皇国でも北方の山岳地帯の小さな村だったはずだ。
「実は、エリスさんにまたマリク様のお世話係をお手伝いして欲しくて……それで、マリク様と一緒にエリスさんを探していたんです」
「……だども、おらがマリクの近くに居たら、マリクの病気が悪くなっちまうんだろ?」
もともと困り眉のエリスちゃんがさらに悲しそうに首を傾げた。
「そんなことないっ!! ごほっ、げほっ、ごほっ……っ!」
はいはい。
興奮しすぎると、また発熱しちゃいますからね。だからちょっと落ち着こうか、マリク様。
「それは誰から聞かされたんでしょう?」
「えっ? えーと……奥様のお使いって言ってた上品な人だべ」
そうか~。奥様というと、多分アークヴェル様のお母様の事よね?
なんとなくアークヴェル様が酔っ払ってこぼしていた発言内容から察するに、お母様はゲドーダさんの治療方針に賛成寄りか……もしくは、騙されていそうだから、悪気は無くともマリク様を孤立させる手伝いをしてしまいそうではあるな。
「そうだったんですね。……でも、実はその治療方針は間違っていた可能性が高いんです」
「えっ!? ええ~……」
それを聞いたエリスちゃんが、ぷしゅ~……と空気が抜けるようにへたり込んだ。
「そんなぁ~……おら、マリクの為だと思ったから……エクゥさ達にも見つからないように……ナナに頼んで……ずっと、隠れてたんだべ~……」
「あ……この辺が、いっぱいだったの……ナナのせい?」
「んだ~」
マリク様が何やら納得のご様子でエリスちゃんと頷きあっている。
どうやら、エリスちゃんは自分の存在が、マリク様にとって毒になると信じていたらしく、マリク様の使役する(?)精霊さん達に居場所がバレないよう、色々と大変だったようなのだ。
「では、改めて、マリク様のお世話係として再度、お屋敷に住み込んでいただけないでしょうか?」
「……あの、ワタスが居ても良いなら、是非、お願いいたしますだ……!」
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