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032:【sideクロード】

【sideクロード】


「アークヴェルから手紙!? あの野郎、もっと頻繁に手紙くらい寄越せよな……!」


 俺は久しぶりの旧友からの手紙を開いた。


「おいおい……【危急身守(ライフ・セーブ)】の装備って、アイツ……ダンジョンにでも潜るつもりなのか?」


 【危急身守(ライフ・セーブ)】とは、どんな攻撃であっても、そのアイテムが壊れることで身代わりとなり、1度だけ命を守ってくれるタイプのお守りだ。


 ちなみに、俺の【危急身守(ライフ・セーブ)】なら、装備者が水中に投げ出されようが、地中に生き埋めだろうが、3日程度は生命維持に貢献できる程度の力は備えている。


 確か、上の弟くんが騎士道学園の高学年に進学するタイミングで、【危急身守(ライフ・セーブ)】装備の作成依頼時に少し会話したっきり、お互いに忙しかったせいで、アークヴェルのヤツとまともに話をする時間が取れていない。


 だが……確か、アイツの下の弟くんって、魔力量は多いけど、制御がへたくそで、そのうえ、すごく病弱だと聞いているんだが……?


「ふんふん……えーと、なるほど?」


 手紙によると、その下の弟くんと、彼の近くで働く家庭教師さんにも、魔術が失敗した際の被害がある可能性が高いのでお守りが欲しい、とのことだった。


「か……過保護~! ……いや、まぁ、アークヴェルらしいと言えばらしいのか?」


 ……でも、身内の弟はともかく、なんでわざわざ家庭教師さんにも【危急身守(ライフ・セーブ)】?


 そこまで使用人に気を使う必要があるのか?

 普通なら、もう少し緩い効果の防御系装備でも十分のはずだ。

 それこそ、魔術の失敗に備えるのであれば【魔波結界(マジック・シールド)】とか……


 【危急身守(ライフ・セーブ)】は物理攻撃・魔術攻撃・毒・呪いなど、ほぼあらゆる種類の危険から守るタイプであるため、当然、価格も下級貴族の年収どころの話ではない。


 冒険者であっても、これをパーティーメンバー分全てそろえられるかどうかが、一流と二流の壁の一つと言っても良い装備品だ。


 しかも、アイツ、素材として上質な龍魔石を数十粒も同封して送って来やがったのだ。


 龍魔石だぞ!?

 親子兄弟ならともかく、使用人に贈るには高価すぎるだろ!?


 アークヴェルのヤツは上流貴族の中でもトップに近いような身分だが、成金家系の三代目みたいにお金を湯水のように使うタイプではない。


 むしろ逆に、領地経営の手伝いなんかをしていたから、経済観念はしっかりしていてシビアな方だ。


 別の使用人を雇えば済む話じゃない、のか……?

 と、考えた時に、ふと違和感を覚えた。


 手紙を読み返すと【危急身守(ライフ・セーブ)】の装備品は弟くんのものと、その家庭教師さん用の2つ購入希望なのだが、片方は女性向アクセサリー仕様の指定なのだ。


 女物……?


 はは~ん?

 これはただの使用人ではないな? 

 俺の勘が囁いた。


「ふふふ……そーか、そーか。あのアークヴェルのヤツにも、ついに春が来たか?」


 にんまり、と笑いながら俺は自身の最高傑作となるように指輪型の魔道具作成に取りかかったのだった。




 そして指折り数えて待った約束の日。


 懐かしき旧友の隣に立っていたのは、予想通り。


 俺たちよりも少し年下くらいのミルクティー色の髪を肩辺りで切りそろえた可愛らしい女性と、車いすに乗った儚げ美少女の二人組だった。


 ……まぁ、可愛らしい女性とはいえ、ちょっと顔に大きな傷跡があって驚いた、とか、公爵家には不釣り合いとも言える質素なドレス着ている女性だな、とか、彼女の印象はかなり控えめで大人しそう、というのが第一印象だ。


 なお、この車椅子に座っている儚げ美少女に見える子が一番下の弟なんだろう。


 子供の頃にアークヴェルの家……というか、お屋敷を尋ねた際に見た、ママリアさんと言う女性によく似ている。あの時、ママリアさんが抱っこしていた小さな子が、多分この子だ。


 本来なら、色々と言いたいことは有ったんだが、アークヴェルのヤツが、今まで見た事もないくらい優し~い眼差しで二人と会話している姿を見て、何かもう、一気にどうでもよくなってしまった。


 おいおい、『氷の貴公子』とか『春知らずの永久凍土』とかの異名……

 いつの間に、どこに返上したの? お前。


 俺は他人の恋路を邪魔して、馬に蹴られたくはない。

 早速、事前に準備していたアクセサリー類を二人の前に並べた。


「指輪・腕輪・イヤリングなど、色々な形状がありますので、お好きなタイプをお選びくださいね」


 二人の反応はなかなか対照的だった。


 パメリア殿、と紹介された女性の方は「どれも本当に素敵ですね……」と言ったっきり、かなり遠慮気味にそっと装備品に触れては、手を引っ込める、手を引っ込めてはまた触れるを繰り返している。


 明らかに分不相応と感じているのか、少し居心地が悪そうにも見えた。


 うんうん。確かに、ここまで控え目なタイプは珍しいかもしれない。


 学生時代にアークヴェルにアピールすることができるようなタイプはもっと華やかでグイグイ来る娘が多かったし……


 こういう控えめタイプだって学園には居たと思うけれど、そういう子は遠慮して近寄ってこなかったからなぁ……


 逆に弟のマリクと紹介された方の少年は、目の前のアクセサリー類にはほとんど興味を示さず、俺の眼鏡や、部屋に舞うホコリでも気にするように、時折空中を興味深そうに眺めていた。


 まぁ……このくらいの年ごろの子供は、アクセサリーに興味無い場合……だいたい、上の空だからな。


「パメリア殿には、こちらがお似合いかと」


 にっこり。


 うわぁ……あのアークヴェルが、笑顔で女性にアクセサリーを薦めた、だと?

 この状況、他の友人やクラスメイトに話したら、絶対信じてもらえなさそうだ。


 女性からの誘いに対し、無表情で「申し訳ありませんが」から始まる答え以外を持ち合わせていなかったカタブツ男がここまで変わるのか……。


 いやぁ、春だねぇ……。


 親友の春が目に染みすぎて、もう、家で待つ妻の胸に顔を埋めてすぐさま眠りたいわー。


「よろしいのでしょうか?」


「もちろんです」


 しかも俺の自信作をさりげなく薦めているあたり……


 アイツ、覚えているのか?

 いつか婚約者や惚れた相手が出来たら俺が相手の指輪を作ってやるから、絶対俺に頼め、と話した事を。

 そうしたら、アークヴェルのヤツ、


「お前の自信作だったら考えといてやる」


とか抜かしたんだが?


「へぇ……アークヴェル、分かってるか? それ、俺の自信作だよ」


「まぁ……そうだろうな。作りが違う」


 うん、これはいい仕事だ。

 ……みたいな顔で、彼女の右手薬指に指輪を装備させては「あ、丁度いいですね」とか「お似合いです。これなら仕事の邪魔にならないでしょう」とか言ってるんだよ!


 しかも、彼女の指輪の直後に、弟くんの装備品の話をしてるし。


 ……忘れてやがるな? この野郎。


 結局、俺は、突然訪れた春で頭をヤられている友人を生暖かい眼差しで見つめる事しかできなかったのだった。



面白い・ようやく恋愛っぽくなってきたな!?

と思ったら☆を5個か4個

普通かなと思ったら☆を3個

イマイチと思ったら☆を2個か1個

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