031:装備品が高級すぎる……!
「や~、アーク! 久しぶりじゃないか!」
特別応接室でしばらく待つと、入って来たのは金茶色の少し長めのショートカットに丸い眼鏡をかけた柔和で優しそうな男性店員さんだった。
接客担当の店員さんからは『技師長』と呼ばれていたとおり、恰好こそ職人としておかしくない、作業用の大きなエプロンを着用している。
そのエプロンに無数の小さなポケットが付いていて、それぞれ小さな工具のようなものが顔をのぞかせているのだが、スタイルやお顔立ちは『武骨な職人』というよりも『文官寄りの貴公子』と言った雰囲気で、服装を貴族風に整えればアークヴェル様のご友人の貴族様です、と言われても違和感が無い。
……というか、この人も、かなり「目の保養枠」と言って良い美青年だ。
それに、ただの職人と言うには魔力量も破格。
いや、むしろ上級貴族であるアークヴェル様と同じくらいあるんじゃないかしら?
「悪かったな、クロード。私も……色々と忙しかったんだよ」
「いつもそれじゃないか。前に来たのはいつだったっけ? お前、折角女にモテるんだから、愛人でも恋人でもダース単位で作れ! そして、そいつらに俺のデザインしたアクセサリーをバラ撒いてくれよ」
「そこまでお前に尽くす気は無い」
おお……! なんだか、アークヴェル様が楽しそうだ。
いや、いつも胃薬片手に業務に邁進している苦労人の姿ばかりが印象に残るのだが、こうやって旧友であるクロード様とお話ししている感じは、ちょっとセレス様とパーティーメンバーの皆さんを思い出す。
「あはは! 冗談だよ、さすが『永久凍土のアークヴェル』様だな」
「……えーきゅー……とーど?」
マリク様がお二人のやり取りを不思議そうに聞いては首を傾げた。
「ああ、すまん、クロード。こちら、パメリア殿と弟のマリク。今日は二人の装備品を頼みたくて……」
「はじめまして、パメリア様。……マリクくんは大きくなったね~。ふふっ、アークヴェルの手紙に書いてあったどおりだ」
マリク様はもとより、わたしの傷跡のこともご存じらしく、ちらり、とそちらに視線を向けることはあるものの、いたって普通の様子で快く握手に応じてくださった。
「あ、そうそう。ちなみにね、『永久凍土』っていうのはコイツの学生時代のあだ名ですよ。コイツ、こんなに男前なのに、どんな女子生徒に声を掛けられても、誘われても、全~部、断りまくってたせいで、『春知らず』とか『永久凍土』って、言われてたんですよ」
ニコニコと屈託ない笑顔で、学生時代の恥ずかしい歴史を暴露してくださるクロード様。
「……私の魔力量だと、授業について行くので精一杯だったんだ! 遊んでいる暇が無かっただけだ! それはお前が一番良く知ってるじゃないか!」
「授業について行く、じゃなくて授業をぶっちぎるだろ? 言葉は正確に使えよ、学年主席サマ。おかげでコイツとしょっちゅう一緒に図書館に籠ってた俺なんか、女子から男色家疑惑かけられてたんですよ!? 酷いと思いません?」
めちゃくちゃ「心外だ」と言わんばかりにため息をつくクロード様。
なお、アークヴェル様曰く、お二人は学生時代は共に切磋琢磨され、学年でも1,2位を競い合っておられたのだとか。
魔術全般や体術、筆記系の試験などはアークヴェル様が、魔道具作成や魔法陣等の作成はクロード様がトップだったそうだ。
確かに学生時代のロマンスについては不毛……というか、当時はそれどころではなかったようなのだが、その分、こうして軽口を叩き合える貴重なご友人となったそうなのだ。
「……で、手紙のとおり、お二人には【危急身守】の装備で良いんだよな?」
「ああ。頼む」
おぅふ……! それ、多分絶対お高いヤツゥ……!
「指輪・腕輪・イヤリングなど、色々な形状がありますので、お好きなタイプをお選びくださいね」
じゃらり。
クロード様がサンプルらしきアクセサリーの数々をわたしとマリク様の前に並べる。
デザインが、どれも本当に素敵で可愛い!
可愛いんだけど、どれも高そう……!
だって、装飾も素晴らしいうえに、宝石も見た事が無いくらい上質で透明度の高い逸品ばかり!
そのうえ、この魔道具に込められた魔力量ッ……!!
こんなの、お安い訳ないじゃないですかぁぁぁぁ!
ぐぬぅ……どれだ? どれが一番お手頃価格なんだ?
それに、わたしの恰好だと、装備品だけ高価そうで浮いちゃわないかな……?
一番目立たなそうなのは……ネックレス?
でも、ネックレスって、トップにセットされている宝石が一番大きくありませんかね?
だったら、指輪をネックレス状にして服の下にしまって置くとか、かな?
いや、でも、指輪って金属使用量が多いから高いのか?
いやいや、それを言ったら腕輪の方が大きいし……
ああ、でもイヤリングは使用されている宝石が大きくて粒ぞろいで2つも必要だし……!
くっ……! 分からん……!
女性の服装に関する魔導書なんて無かったもんなぁ……!
必要最低限の被服マナーは承知しているんだけれど、上の方向についてはあまり詳しくないのよねぇ……!
わたしが、華麗なアクセサリーを前に悩みまくっていると
「……それは?」
マリク様が装備品ではなく、クロード様の顔に装着している眼鏡を指さした。
「ん? これ? あはは、ごめんね。この眼鏡は俺の視力調整用だから、装備品ではないんだけど、かけてみるかい?」
「……いいの?」
楽しそうに、クロード様から眼鏡を受け取るマリク様だが、その眼鏡をかけた途端「おぅふ……」と呟いて頭の上からぽぽぽん、と目玉の生えた草のようなものが7つくらい飛び出させて、車いすの背にぐったりと頭を預けた。
「……ん!?」
「あら~、マリク様、度が合わなくてビックリしちゃいましたね~、さ、これはクロード様にお返ししましょう!」
ぎゅむっ!! なでなでなで。
飛び出した目玉草(?)を、頭を撫でるふりをして、マリク様の中に押し込む。
「……び、びっくり、した、って……言ってた」
精霊さんが、かな?
……こちらもですよ。
「あれ? 気の、せいかな……??」
クロード様は裸眼のせいで見間違えでもしたのか、と戻って来た自分の眼鏡をかけ直したり、目をこすったりしながら首をかしげている。
どうやら、マリク様の頭から目玉が生えたとは、気づかれていないご様子。
……よかったわ。騒ぎにならなくて。
ちなみに、お隣に座るアークヴェル様の位置からは見えにくい場所だったのも功を奏している。
「……パメリア殿には、こちらがお似合いかと」
迷いすぎていたわたしを見かねたのか、アークヴェル様がそっと指輪を一つ差し出した。
パッと見は、いくつかラインが入っているだけのシンプルな指輪だ。
表側には宝石も無いので、何かに引っかかったり、掃除や家事の邪魔にもならなそうだ。
確かに。わたしもコレ、いいな……と思いましたとも!
ただ、裏側にめちゃくちゃ細かい魔法文字がギッチギッチに彫り込まれていて、さらには小さな龍魔石が4つも埋め込まれているという……
分かる人が見たら、その丁寧な仕事に腰を抜かしそうな一品……いや、逸品だ。
「よ、よろしいんでしょうか?」
「もちろんです」
「へぇ……アークヴェル、分かってるか? それ、俺の自信作だよ」
「まぁ……そうだろうな。作りが違う」
「!?」
やっぱりすごい品だったぁぁぁぁ!!
だが、もう、そこまで言われて、やっぱり値段が怖いので違うのにします、とは言えない!
うわーーーん!! ありがとうございますっ!! 家宝にしますっ!!
大切にして、墓まで持って行きますぅ!!
わたしの方がようやく決まったので、アークヴェル様は、今度はマリク様の装備品の選択も手伝っていらっしゃるご様子。
「マリクは、まだ指が細すぎるから、指輪よりも腕輪の方が良いかな?」
「……痛く、ないのが……いい……」
そういえば、昔はマリク様ってむやみやたらとアイテム装備させられていたなぁ。
やっぱり、あれ、痛かったんだ。
「安心していいよ、俺がちゃんと君の身体に合わせて作るからね~」
そんな訳で、わたしは指輪を、マリク様は腕輪を購入することとなった。
特にマリク様はまだ成長途中なので、一部柔らかな皮との混合型で、成長に合わせてサイズ調整のできる品となったのだが、出来上がった品を装備して「……痛くない……」と不思議そうに呟いている姿が印象的だった。
そして、ワタクシ……こんなにハイクラスの装備品初めてですぅ……!
うぅ、ありがたすぎて、中宮に足を向けて眠れないわ……!!
己の右手薬指に輝く金色の輝きに、わたしは思わず、そっと頭を下げたのだった。
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