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022:【side・アークヴェル】②

 【sideアークヴェル】


 正直、パメリア殿には驚かされてばかりだ。

 あの気難しい……というより、対話の成立しなかった弟に対してのケア。


 それだけでも非常に稀有な才能の持ち主だと思うのに。


 まさか、もう『魔導書の写本』ができるほどに教育が進んでいるなんて想像もつかなかった。魔法文字の読み書きは貴族の基本だ。


 それが、すでに3冊分を書き終えているというのは驚異的というよりも神がかり的だ。


 さらには、教本であるはずの魔導書の不備まで指摘できるなんて――!


 彼女は、弟が指摘した、と言っていたが、それは流石に方便だろう。

 魔法陣は魔力操作を発展させた学問と言っていい。


 魔力制御……つまり、魔力操作の基礎中の基礎に難があるマリクが扱える分野ではないはずだ。


 カマをかけるつもりで、教本の正当性を主張してみたのだが、彼女にあまり動揺した様子はない。

 おそらく、公爵家で働く以前から、魔法陣の改良については仮説を持っていた、と考えるのが自然だろう。


「すみません、わたしも魔法陣については専門外でして……魔法陣を丸写しする程度のことはできるのですが……」


 とのことだが、「魔法陣を丸写しできる」と言う時点で、その道の専門職として生きていける。

 しかも、手渡された改良案はかなり妥当……いや、正しい可能性の方が高いものだった。


 私も魔力操作に関しては、かなり力を入れて学んできたつもりだが、この改良版魔法陣は考えつかなかった。


 それなのに、なぜ魔法陣の改良という実績を公爵家(わたし)に譲り渡すようなことをするのだろう?

 評価を求めていない?

 ……いや、そんな人間がいるのだろうか?


 ふと、父の声が頭をよぎる。


「お前の魔術の才能が、カイナスよりも高ければ『代行』などではなく『次期公爵』として仕事を任せられたんだがな……お前は魔力量が無いのだから、せめて魔力操作では、わしを失望させてくれるなよ。」


 この別邸を任された時、私を見ることもなく、淡々と放たれた言葉を思い出すと、今でもみぞおちのあたりがズキリ、と痛む。


 まさか、私が密かに魔力操作に関する何らかの実績を欲していた……なんてことを彼女が知るはずがない。


「なるほど。……では、これは、私の方で対応しておきます」


 そう言って、改良案を受け取ると、パメリア殿は、なぜか申し訳なさそうにほほ笑んだ。


 これほどの才女が、なぜ、さほど条件の良くない「家庭教師」を務めてくれたのか分からない。

 最初は顔の傷を気にしているせいなのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。


 子爵家という身分がネックだったのだろうか?


 そんなことを考えていると、彼女からさらなる爆弾が投下された。


「えーと……それと……こちらなんですけど……」


 ……コトン。


「――これは……!?」


 思わず、息をのんだ。


 間違いない!

 これは、龍魔石……!


 公爵家でも父のいる本宅や、母のいる別荘ならそれなりに保管されているが、この別邸にそれほど高価な品を置いておく理由は無い。


 しかも、何だこの大きさは!?

 握り拳大!?


 こんな大きなサイズで、ここまで質の良いものは本宅でも数えるほどしか置いていないはずだ。


 これが、弟の治療の副産物?


 いや……そんな……これは副産物などではない!!


 むしろ、これほどの龍魔石を作り出せるというなら、龍魔石(これ)のためにウチの弟を誘拐する輩が出るレベルではないだろうか?


 流石にこんな物騒なものを安易に取り扱う訳にはいかない!


「…………この魔石は……こちらで管理させていただいて、よろしいでしょうか?」


 これは……あまり人目に触れさせるべきではないだろう。


「もちろんでございますぅぅっ!! 絶対にお願いしますッ!!」


 どんなに博識とはいえ、流石に高価な龍魔石の実物は見たことが無かったらしく、顔色を変えるパメリア殿。


「と、取り急ぎ、北宮に保管しているものは、こちらにお運びしますっ! わたし、重い荷物を運ぶのは得意なので、20往復くらいで何とかなると思いますので……ッ!!」


「ちょっと待ってください」


 20往復……?


「あの……パメリア殿……この龍魔石……いくつ、有るんでしょう?」


「え……と、正確に数えていませんが、木箱で一部屋分は……」


「…………ひと……部屋、分……ですか?」


「…………ひと部屋分、です」


 この時ばかりは、私もパメリア殿も、しばらくの間、笑顔のまま背中の汗を感じることしかできなかった。


 正直、この龍魔石、常識的な大きさに砕いて売れば、公爵家(わがや)の財政問題が片付くレベルの量と質である。


 不運は寂しがり屋だから次々と束になって訪れるが、幸運は一人でそっと訪れる……と言う話だが、もしかしたら、傷を持った寂しがり屋の幸運は仲間を引き連れてくるのかもしれない。


 私は、引き攣ったままの笑顔の彼女の顔が、幸運の女神のそれと重なって見えたのだった。



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