019:精霊交信と治療開始
「ふふふふ~~ん♪」
結局、あの後、無事ペガサスさんをゲットしたセレス様ご一行から、無事に空っぽの魔石を譲ってもらうことに成功した。
もちろん、足りなければいつでも追加を貰えるように了承済だ。
ちなみに、大きな荷物を運ぶコツについても伝授したら、なかなか好評だった。
特に、セレス様のパーティーメンバーでも一番体格の良かった大剣持ちのファレル君に刺さったようで、全員分の荷物を背負ったのに「いける、いける」と大はしゃぎして、盛大に足を滑らせ、坂を転げ落ち、こちらの肝を冷やしてくれた。
なお、荷物の重量から朝ごはんが皆様の胃袋へ消えており、シラユリキオトメ草も消費していて、さらにペガサスさんが途中で止めてくれたおかげで、擦り傷程度で済んでいたのは幸いである。
……若さと馬鹿さは紙一重というけれど、若いっていいね。
ちなみに、セレス様に空っぽの魔石をマリク様に直接渡してあげてください、とお願いしたら、それについては猛烈に拒否されてしまった。
……とほほ。
も~、マリク様は、ちょっと……ちょっとかな?
結構……だいぶ……かなり、個性的な所もありますけど、皆さんが危険視するほどの猛獣っぷりでは……
あるかもしれないけど……
それでも、そんなに怖い子じゃないのに。
わたしは、マリク様のために準備したお昼の時間の朝食と空っぽの魔石を片手に、部屋の扉を開けた。
なお、今マリク様は、あの地下牢のような子供部屋ではなく、北宮で一番日当たりと風通しの良かった2階の一室で休んでいる。
魔力暴走した時に一番安全なのは、あの地下の子供部屋かもしれないんだけど、あの部屋って構造的に魔力の排出よりも溜め込ませる事に向いている作りなんだよね。
「マリク様~、おはようござぁえええぇぇぇ!?」
ふわわ……
わたしの視界に広がっていたのは猟奇的殺人現場……よりも奇妙な光景だった。
お坊ちゃまが寝ていたはずのベッドの上でふわふわ浮いているのは人間の大脳。
そして、二つの目玉がくるくると回転しながら漂い、肉片と思しきピンク色の組織、キラキラ輝く赤い粒が舞う。
しかも、その目玉の瞳孔は引き延ばされた線のような形。
スパン、と縦にすっぱり切断にされたような子供の頭蓋。
ぞわわっ!
理解……するよりも先に、全身に鳥肌が立ってしまった。
な、な、な!?
え? ちょ、ちょっと待って??
だが、わたしの思考回路が回復する前に、それらの臓物(?)はシュルシュルと輪切りにされていた頭蓋に収まり、ピンクの組織が筋肉の形を成し、キラキラの粒が集まり、一瞬大きく輝いたと思ったら、ベッドで寝ていたのはいつものマリクお坊ちゃまの姿だった。
「……ん~……」
そして、何事もなかったかのように右手で目をこするお坊ちゃま。
「……ふぁあ、ごほっ、ごほっ……」
え? げ、幻覚だったの??
「お、おはようございます、マリク様?」
「ん、……朝……?」
怠そうな様子で上半身をゆっくり起こすマリク様。
その体の周りには、赤いキラキラこそ見当たらないものの、いつもの光の粒や大きめな玉が、ぽわぽわ浮いている。
どうやら、通常営業のご様子だ。
「な……なんだか、今、マリク様がバラバラにされて、内臓が飛び散っている幻覚を見ちゃいました。もう、びっくりしちゃって……」
わたしは、世間話のつもりで朝食を準備しつつ、マリク様に声をかけた。
「……うん。アメが……中、見たいんだって」
「はい?」
「……見せてただけ」
待って? えーと……さっきのアレは、幻覚じゃないってこと?
「……ボクの中」
「中って、内臓を、ということですか?」
「……さぁ? ボク、見てないよ。……見せてたの」
「えっと……アメさん? と、おっしゃるのは……?」
「……アメはアメ。……エクゥとトラと一緒」
なるほど、分からん。
分からん、が……多分、エクゥさんは多少面識(?)がある。
確か、マリク様に懐いていると思しき精霊さんの事だ。
つまり、精霊と交信していた……の、だと、思うのだが……
視覚的攻撃力が高いというか……画ヅラがよろしくないというか……
心臓が飛び出すというか……いや、比喩でなく。
う~ん……マリク様は、悪いことをしている訳ではないのだが、人間社会というものは、悪意が無ければ何をしても良い場所ではない。
気の弱い女性だったら、失神どころか一生モノのトラウマじゃないですかね? あんな光景。
「な、なるべく、人が来る時に中を見せるのは止めましょうね……」
「……なんで?」
「もし、他の人がマリク様とアメさん(?)の対話を見たら驚いちゃいますから」
「……」
わたしの言葉に不満そうに唇を尖らせるマリク様。
これは、納得していないご様子。
まぁ、「他の人が」と言ったところで、今はわたししかお世話係がいないし……
現状だと、マリク様と会話が成立しているのって、わたし達より、精霊側の方が多い気がする。
それを止めるよう説得したところで、反発心が大きくなるだけだろう。
むしろ、無理に止めたら、余計、精霊側に寄ってしまうかもしれない。
追々、こちら側にも多少、気を使ってもらえるようにお願いするしかないかな。
「マリク様がアメさんのお願いをきいてあげるのは悪い事じゃないし、全部止めろ、って意味じゃないんです。ただ、わたしたちはアメさんとお話しできないので、マリク様がアメさんのお願いをきいてあげているのを見るとビックリしちゃうよ、ってだけなんです」
「……ん。……わかった」
しぶしぶながらも了承してくださってホッとする。
マリク様が昼食を半分程度召し上がっていただいたので、例の薬湯を勧めてみたのだが、完全に顔を背けられてしまった。
だが、今日はその代わりにからっぽの魔石がある!
「……ではマリク様、お薬を飲む代わりに、これに魔力を込めていただけますか?」
「……なんで?」
「マリク様は、この辺りが苦しかったり、痛かったりすることが多くありませんか?」
そう言いながら、あの入浴時にうっすらと広がりかけていた背中の痣のあった部分を優しく撫でた。
実際、完全に痣の浮き出た部分より、これから悪化する部位の方が痛みや不快感は強いはず。
「……うん。」
わたしの予想通り。マリク様は不思議そうに小さく頷いた。
「……なんで、分かるの? アメに、聞いたの?」
「いいえ。わたしはマリク様のご病気について、ちょっとだけ詳しく知っているだけなんです。今、マリク様は魔力が体の中に溜まりすぎて、身体が痛かったり、苦しかったりしているんです。それで、この石にマリク様の魔力を込めていただけると、その痛いのが少し楽になりますよ。」
「……そうなの?」
「試しにやってみません? もう魔力を込められない、って思う限界まで込めちゃって大丈夫ですよ」
手渡された大人の握りこぶし大の黒い石を両手で持つと不思議そうに首をかしげるお坊ちゃま。
だが、次の瞬間――
真っ黒だった石が驚くほど透明で内側から虹色が輝くようなものへと変化した。
お、おぉ……一瞬で?
「……はい。……もう入らなそうだよ?」
「お体の具合は……?」
「……あんまり、わかんない」
……やっぱり1個じゃ足りなかったか。
「そうですか……でも、まだまだありますから、じゃんじゃん入れてあげてくださいね!」
どさっ!!
わたしは、セレス様達からもらってきた空の魔石を詰めた箱を、どさりとマリク様の枕元に置いた。
これだけあれば、しばらくは……え?
だが、マリク様がその箱の蓋を開け、魔石に触れた瞬間――
20個以上入っていたと思われる真っ黒の魔石が音もなく透き通り、内側から虹色の光があふれ出す。
「……あ、うん……すこし、いい、かも……でも、もう入らないみたい」
さ、さようでございますか。20個以上あったんだけどな……。
なお、残念ながらマリク様の背中の痣の濃さは変わらなかった。
だが、方向性は間違っていないはず!
事実、マリク様の表情が少しだけ和らいでいるし、呼吸の際の不自然な肩の上下がだいぶ緩和し、かなり穏やかになっている。
「では、またすぐセレス様からいただいてきますね」
「うん」
ぽ、ぽ、ぽ、ぽ。
「へ?」
マリク様の周りで爆ぜた光の粒から、そんな音が聞こえたような……?
マリク様は、相変わらず無表情に近い「スン」とした顔のまま、キラキラになってしまった魔石を眺めている。
今のは……気のせい?
それでも、なんだか頬がゆるむのを止めることができなかった。
面白いと思ったら☆を5個か4個
普通かなと思ったら☆を3個
イマイチと思ったら☆を2個か1個
押してね! 励みになります!!
続きが気になる……続きも読みたい、と思ったら、ブックマークをお願いします!




