016:不良少年少女は図書館立ち入り禁止
そんな事情を聞いた後、北館に戻りマリク様が起きるまで屋敷の掃除をしていると、ふと、窓の外……例のセレス様たちがたむろっていた中庭に一人の少女の姿が見えた。
あれ? 彼女は、セレス様のパーティーメンバー……青髪姫カットの美少女ちゃんでは?
彼女は手にしているメモと中庭の植物を見比べて何かを探しているようだ。
あ、そうだ。
彼女に頼んでもらえれば、セレス様から「空っぽの魔石」を譲ってもらう交渉がしやすいかもしれない。
わたしは、急いで中庭へ向かった。
「なにをなさっていらっしゃるんですか?」
「わぁっ!? な、なによ! あ、アンタ、半顔の家庭教師じゃない?!」
「でへへへへ……」
半顔の、という形容詞に思わず頬が緩んでしまう。
うふふ……推しの賢者様の二つ名と同じ呼び方をしてくれるとは!
なかなかセンスのある少女だ。
「何で『半顔の家庭教師』って呼ばれて喜んでるのよ!?」
「その呼ばれ方に憧れがあるので……」
「憧れる要素無いでしょ!? それより、まだ居たの? 脅かさないでよね!?」
彼女持つメモに描かれていたのはシラユリキオトメ草の絵だ。
このシラユリキオトメ草、野生のペガサスやユニコーンを探すのに必要な植物と言われている。
それなりに珍しい植物ではあるのだが、高位貴族であれば庭園や畑で栽培している家も少なくない。
この植物と年頃の女性、そして綺麗な湖のあるところなら、ペガサスやユニコーンと絆を結ぶことはさほど難しくないからだ。
実際、この中庭にもシラユリキオトメ草はかなり群生しているようだし。
まぁ、ペガサスにしろユニコーンにしろ、その絆を結んだ少女が大人になると離れて野生に戻っていってしまう事が多いから「期間限定で屋敷に居候していただく霊獣」と言う扱いになることがほとんど。
とは言え、居候期間中にペガサスから自然に抜けた羽や、毎年生え変わるユニコーンの角は貴重な魔法薬の原料にもなるし、時にはその背に乗せてもらえることもある。
ごく稀に、その絆を深めた少女が大人になってからも一緒に居てくれるケースもあったりするので、お迎えを狙ってみるのは賢い選択と呼べるだろう。
「ペガサスかユニコーンを捕まえるご予定なんですか?」
「なっ!? どうして、知ってるのよ!?」
「いえ、あの、そのメモの花がシラユリキオトメ草だったもので……」
「こ、この花の事も知ってるの?」
「ええ、まぁ……『幻獣図鑑・参の巻』ですよね?」
あれの模写は滅茶苦茶大変だったのでよく覚えている。
文字だけじゃなくて絵まで魔法用インクで書かんでも……とあの時は抗議したかったのだが、あれのおかげで画力もそこそこ上がったのだから文句は言えない。
しかも、写本料金は、消費したインク量で精算されるから、絵の多いページは1ページの半分とかでもかなりの金額だったし。
「あの、さ……あなたって、一応、その……セレスの弟の……先生なのよね?」
「ええ。そうですよ」
「だったら、幻獣にも詳しい?」
「まぁ、王立図書館の魔導書に記載されている程度の事でしたらわかりますけど……?」
それを聞いた少女は、何故か気まずそうに眼を泳がせた。
だが、すぐに何かを思い詰めたようにわたしを見つめ直すと、口を開いた。
「だったら教えてもらえない!? ペガサスの捕まえ方……ッ! 『半顔』とか、前に会った時に『おばさん』とかって言ったことは謝るわ!! ごめんなさい! だからっ……」
えーと、いや……そこはそんなに気にしてないんだけど……
でも、謝罪できるってことは、彼女本人は相手に悪い事言っちゃった、と気にしていたのね。
案外、気遣いのできる優しい子なのかもしれない。
彼女……フィリアちゃんが言うには騎士道学園の授業の一環で、セレス様のパーティーはペガサスの捕獲に挑むことになったのだとか。
無論、ペガサスではなくユニコーンでも構わないらしいのだが、ユニコーンの男性嫌いは有名で、絆を結んだ少女に異性……例えそれが実の父親や兄弟と言えども……が近づいただけで、排除しようと攻撃をしてくる。
その点、ペガサスの方は気性が穏やかで絆を結んだ少女と友好関係にあるような異性であれば「仲間」と認識してくれる。
そんな扱いやすさの違いから「ペガサスの羽」と「ユニコーンの角」では後者の方が、ぐっと金銭的価値は高くなる。
とは言え、絆を結ぶ少女が、女性だけの修道院で生活している訳ではないのなら、幻獣捕獲はペガサス狙い一択。
そんな訳で、セレス様のパーティーはペガサスに狙いを定めているとのこと。
「お教えする事は可能ですが、『幻獣図鑑』なら全巻が王立図書館にありますし、学園の図書室にも入っているのでは?」
「うっ……そ、それが……」
フィリアちゃん曰く、彼女含めセレス様のパーティーメンバー全員は図書館から立ち入り禁止を食らってしまっているらしい。
何でも『魔法インクを用いた水鉄砲バトル』を図書館内で行ってしまい、貴重な蔵書を複数ダメにしてしまった、とのこと。
「べ、別にセレスだけが悪いってわけじゃないわ! ……言い出したのは、セレスかもしれないけど……」
お、おぉう……
セレス様の不良行為が想定よりも少し斜め上でしたわ。
いや、まぁ、図書館を使うのなんて、ほとんど貴族ばかりだから、ノブレス・オブリージュ的には正しい悪行なのかもしれない。
……「正しい悪行」という言葉そのものに多少矛盾を感じはするが……
いや、ある程度の年齢の貴族のお子様がグレたりされると、下町の犯罪ギルドとつるんで、恐喝や婦女暴行、その他の軽犯罪で駆け出し冒険者さんとか、一般市民の皆さんにご迷惑をおかけするケースが多いんだけど……
そうか。セレス様たち……
そういう方向の不良ではないんだ……。
なんだか、少し生暖かい眼差しで目の前の少女を見つめてしまった。
だが、汚れてしまった魔導書を写本しなおさなければならないだろうから、業務量は結構すごいことになっている気がするのだが?
何となく尋ねてみると、その魔導書の復旧作業の総責任者はエーフェ公爵代行のアークヴェル様なのだとか。
……なるほど。
セレス様個人は、アークヴェル様に頭が上がらなそうだった印象があったのはそういう事情か。
流石に実際の写本作業は、反省の意味も込めてセレス様達が責任をもって行うだろうけれど、公式機関である図書館や学園への謝罪まわりなど、保護責任者の仕事も多岐にわたる。
アークヴェル様の作業量を思うと……あの人の胃壁が大丈夫なのか真面目に心配になってくるナァ……。
とは言え、わたしとしては魔石ゲットのチャンス。
「そうですね、ペガサスの捕獲方法なら覚えていますからお力になれると思いますけど」
「ホ、ホント!?」
「ただ、こちらも1つ、セレス様にお願いがございまして」
にっこり笑顔でわたしは空っぽの魔石についての交渉を開始した。
面白いと思ったら☆を5個か4個
普通かなと思ったら☆を3個
イマイチと思ったら☆を2個か1個
押してね! 励みになります!!
続きが気になる……続きも読みたい、と思ったら、ブックマークをお願いします!




