第4章
いつも、私の言葉を受け取ってくれてありがとうございます。
今日もここに来てくれたあなたに、
少しだけ、お話をさせてください。
人は、ときどき、どうしても、現実だけでは息ができなくなることがあると思います。
そんなとき、
ほんの少しだけでも、
心が軽くなる場所があったなら——
それだけで、また前を向ける気がする。
私にとっても、
私を見つけてくれたあなたにとっても、
ここだけは力をふっと抜けるような、
ひとしきり休んだ後に前を向いて、背中を押せるような、
そんな居場所のような空間にしたかった。
私にとって、この場所は、
そんな「世界」でした。
だから私は、ひとつの私だけの世界を作ろうと思いました。
——でも。
この世界は、最初から、すべてが本当だったわけではありません。
私が作ったこの世界は、私が本当は過ごしたかった世界だから。
窓の外で移り変わっていく季節を、
ただ眺めることしかできない日々の中で、
何度も、思っていました。
——もしも、自由に歩けたなら。
——もしも、好きな場所へ行けたなら。
私は、どんな景色を見て、
どんなふうに笑っていたんだろう、と。
私は、きっと、春を迎えることができません。
桜を見ることも、それから先の季節を過ごすことも、できません。
だからこそ。
私は、この世界に——
「氷野 華」という存在を、残しておきたかった。
私は今まで、なにもかも諦めてきた。
どんなに願っても、叶えられないことばかりだった。
友達を作って、思いっきり遊ぶこと。
学校生活を送ること。
好きな人ができて、
ドラマみたいな恋をすること。
外の世界を肌で感じて、
いろんな景色を、この目で焼き付けること。
他にも、叶えたいことがたくさんあった。
そのたびに、願い続けてきました。
窓から見える、光り輝く星に。
七夕には、織姫と彦星に。
クリスマスにはサンタクロースに。
神様でも、誰でもいいから、叶えて欲しかった。
でも。
もう、それらを叶えることはできないのだと、
告げられました。
だから私は、見たことのない景色を、ひとつずつ集めていくことにしました。
行きたかった場所。
やりたかったこと。
それらを全て、私の世界の中だけでも、実現させたかった。
叶えることができないのなら、自分が作ってしまえばいい。
最初はただただ、「もしもこんなことができていたら」という夢を叶えるためだけの、自己満足の記録でしかありませんでした。
でもね。
だんだん、私を見つけてくれる人が現れて。
いいねやコメントをしてくれる人が増えていって。
私だけだった世界に、あなたが飛び込んできてくれた。
いつしか、悩みを相談してくれたり、
私の伝えたかった想いを受け取って、共感してくれた。
それが、本当に嬉しかったんです。
だから。
私の作る世界を、私だけの架空の記録で終わらせたくなくて。
あなたが、少しだけでも前を向けるような、
そんな場所にしたいと思うようになりました。
でも。
同時に、ずっと怖かったんです。
本当の私を知ったら、
あなたは離れてしまうんじゃないかって。
私は、
あなたが見ているような、
そんな綺麗な存在じゃない。
ただ、この部屋の中で、
何もできずにいる人間です。
それでも。
ここでだけは、あなたと同じ世界にいたかった。
あなたに偽りの姿を見せること。
本当の私を打ち明けないまま、あなたと向き合うこと。
本当は、すごく苦しかった。
このままでいいのかと何度も悩んで、
ありのままの自分を打ち明けることから逃げていました。
本当に、ごめんなさい。
何度も、やめようと思いました。
このまま続けてはいけないと、分かっていたのに。
それでも。
やめることができませんでした。
あなたが、そこにいてくれたから。
あなたがくれる言葉に、
何度も救われてしまったから。
私が作ったはずの世界なのに、
いつの間にか、私の方が支えられていたんです。
だからこそ。
私は、また願ってしまったんです。
この世界を、1日でも長く紡いでいくことを。
1日でも長く。
ひとつでも多く。
氷野 華がいた証を、残していきたかった。
この世界は、偽りの姿だったのかもしれないけど。
ここで紡いだ言葉は、私が伝えたかった本物で。
そして、ここで交わした想いまで、
嘘だったとは、どうしても思えないんです。
───そう、信じています。




