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第2章

投稿をアップロードしている時間、

ほんの少しだけ、自分を俯瞰している私がいる。


写真を選んで、整えて、

言葉を選んで、並べていく。

それはまるで、魔法をかけるみたいだった。

ここにある現実を、誰かにとっての綺麗な世界に変えるための。


アップロードが完了するまでのわずかな時間。

その間だけは、逃げ場がなくなる。

画面の向こうに送り出したはずの私と、

ここにいる本当の自分との距離を、

嫌でも思い知らされるから。


夢みたいな世界と、現実。

その隔たりは、思っているよりずっと大きい。


進まない読み込みバーを見つめながら、

胸の奥がじわじわと焦りに侵されていく。

時間は、限られている。

無限じゃない。

だから、少しでも多く、

この想いを形にして残しておきたいと思う。


意味があるのかは分からない。

何かが変わる保証もない。

それでも——

この時間だけは、

私にとって別の時間であってほしいと願ってしまう。


やがて、アップロードが完了する。

ほとんど間を置かずに、いいねとコメントの通知が届き始めた。

その数に、ほんの少しだけ肩の力が抜ける。


「……今日も、届いた」


小さく呟いて、

私はベッドに体を預けた。



ゆっくりと目を開ける。

また、眠ってしまっていたらしい。

さっきまで夕日が差し込んでいたはずの部屋は、すっかり夜に包まれていた。

たった数時間。

それだけのことなのに。

私にとっては、その数時間が、ひどく惜しい。

また、無駄にしてしまった。

その考えが、離れない。

仕方のないことだと分かっているのに、

それでも、抗いたいと思ってしまう。


スマホを手に取り、さっきの投稿を開く。

短い時間のうちに、たくさんの人に届いていることが分かる。

増えていくいいねと、並んでいく言葉たち。

それを眺めながら、小さく息をついた。


「次は、どこにしようかな」


指先で画面をなぞりながら、人気の観光地や、新しくできた場所を探していく。

この季節らしい場所がいい。

そう思って、ふと視線を上げる。

窓の外は、変わらない夜の色。

ガラスに浮かぶ結露と、室内の温度だけが、

かろうじて冬を知らせている。

それ以外に、季節を感じるものはなかった。

だから。

いっそ、雪が降りしきる場所にしようかと思った。

行ったことのない場所。

けれど、画面の中では何度も見た景色。

指先でスクロールしながら、

その中から選んでいく。


まるで、旅のしおりを作るみたいに。

まだ見ぬ景色で、アルバムを埋めていくように。


画面を閉じることなく、そのまま私は言葉を探し始めた。


私は、いつも大切な人に手紙をしたためるように、投稿文を書いている。


身近な人や、私の想いを受け取ってくれているみんな。

そして、出会えるはずだった人達に向けての、大切な手紙。


人は、生涯を通して、どれくらいの言葉を扱うのだろう。

どれくらいの想いを抱き、その想いを伝え、通わせるのだろう。

私はきっと、そのどれもが人より遥かに少ない。


ずしりと、心の中の鉛が重さを増していく。


なんで。


なんで、私は───。


ハッと気づくと、そんな本音を心のままに打ち込んでいた。

驚いて手を止め、自分が打ち込んだ言葉たちをじっと見つめる。


鼻の奥にツンとした雨のような匂いを感じる。

頬に一筋、涙が零れ落ちていた。


溜息をついて、その言葉をそっとコピーし、別のメモに貼り付ける。


そして、そっと本音の文字を消して、少しずつ魔法をかけていく。


これは、誰かに伝えたい想い。

そして、誰よりも私が言って欲しかった言葉。


物語の中のような美しい写真と、笑顔で映る、氷野 華という私自身。

そして、魔法のような温かい言葉。


今日も、完璧。

これで、大丈夫。

私はちゃんと、ここにいる。


ふっ、と息を吐く。

そして、なにもなかったかのように、投稿ボタンを押した。


投稿がアップロードされると、すぐにコメントが届いた。


「華さんの言葉に、今日も救われました」

「華さん本当にかわいい!憧れです!」


そう言ってくれることに嬉しくなると同時に、チクリと胸を刺される感覚が走る。


「本当は、違うのに...」


呟いた言葉は、誰にも届くことなく、部屋の中で静かに消えた。


本当の私を知ったら、幻滅するのかな。

きっと、離れていってしまうんだろうな。


そう思うと、申し訳ない気持ちで居た堪れなくなる。


それでも、私は。

この世界を、手放すことができなかった。

——ここに、残しておきたかったから。

でも、どこか分かっていた。

いつか、この世界が崩れてしまう日が来ることを。


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