六号棟、静かなる門
夜の帳が東京の外縁を覆う頃、祐一たちはある山間の旧研究施設跡に到着した。地図にも載っていない場所——それが“六号棟”だった。
灯りのない道。ガードレールも途切れたままの林道を抜け、冷たい霧が立ちこめる中、祐一の車が止まる。目の前には鉄製の巨大な門が、重々しく閉ざされていた。
「ここが……」
玲奈が思わず声を漏らす。祐一は口を引き締めたまま、ゆっくりと門に近づく。
かつてこの場所で、彼は“公安警察官”として数度の任務に就いた。だが、ある日突然にプロジェクトは凍結され、全データは“封印”されたとされていた。
だが、再びそれが動き出した——。
「無傷でここが残ってるわけがない。誰かが、わざと残した」
紗香は無言でうなずきながら、ポケットから懐中電灯を取り出し、門の端を照らした。そこにうっすらと残された痕跡は、誰かが“数日前”に通ったことを物語っている。
「鍵はどうするの?」と紗香が尋ねると、祐一は静かに手の甲に埋め込まれた小さなICタグを見せた。
「公安を辞めた時に返したはずだったが、どういうわけか——戻ってきたんだ、最近。水城からな」
タグを門の読み取りパネルにかざすと、一瞬の間をおいて“ガチャン”という音が響く。
重い鉄扉が、ゆっくりと左右に開いた。
その先には、苔むしたコンクリートの通路と、深く地下へと続くスロープ。
“施設”の入口は、静かに開いて彼らを迎えていた。
「ここが……あの場所なんですね……?」
玲奈の震える声。紗香がそっと肩に手を添えた。
「ここで、すべてが始まった。そして終わらせる場所でもあるわ」
祐一は、懐中電灯を手に取ると、無言で先へ歩き出す。
誰もが知っていた。
ここから先は、もう——戻れないかもしれない。




