封印の神、目覚めの時
祐一は車を一時停めると、無線からの声に応答した。
「こちら鏡花探偵事務所、伊藤祐一。……公安外事三課だと? 俺がそこにいたのは、もう随分前のことだが」
『承知している。だが、君の“履歴”が、再び必要とされた。ある施設が、再起動した。……君の知識が不可欠だ』
「……施設、だと?」
無線の向こうからは、言葉を選ぶような沈黙が流れたあと、低い声で答えが返ってきた。
『——“六号棟”が、起動した』
祐一の目が鋭くなる。
「六号棟」とは、公安が関与していたと噂される秘密実験施設のコードネームだった。そこでは「非合法の生体実験」が行われていたという。
紗香が小声で尋ねる。
「六号棟って……?」
「……かつて俺が在籍していた頃、公安の一部が管理していた“別ルート”の研究拠点だ。人目を避けて、石化現象の兵器利用や人体実験を続けていた……。公式には“存在しない”とされている」
玲奈はその言葉に身をすくめた。
「黒江さんが……“神を蘇らせる器”って……そう呼んでました。私のことを……」
祐一の目が暗くなる。
石化によって“封印された神”——それが地下深く、六号棟で復活の兆しを見せているというのか。
そして、黒江の目的が単なる私怨や狂気ではなく、「それ」を目覚めさせることにあったとすれば……
「……急がなきゃならない。玲奈さん、君の血液……これ以上、利用させるわけにはいかない」
祐一がエンジンをかけると同時に、別の無線チャンネルが割り込んできた。
『伊藤、聞こえるか? ……こちら、元公安の水城だ』
「水城……?」
『六号棟が稼働を始めた。だが今、我々の中にも“裏切り者”がいる。君にしか止められない。——頼む』
車内が静まり返る中、祐一は口を結んでいたが、やがて決意したように言った。
「……行こう。終わらせる。かつて俺が関わってしまった、この狂った研究を」
外はすでに夜が更け、遠くに雷鳴が轟いていた。




