玲奈の記憶
屋敷の地下から現れた少女――相馬玲奈。
彼女の姿は、以前の写真とは少し違っていた。頬はこけ、目元は怯えたように曇っている。そして何より、左手の甲に浮かぶ灰色の斑点。
それは、石化の初期症状によく似ていた。
「……ここから、出たい……」
玲奈は震える声でそう言った。
祐一と紗香は、彼女を屋敷の外に連れ出し、車の中で毛布をかけた。
「玲奈さん、あなたはずっと……この屋敷の地下に?」
「……はい。お父様が亡くなったあと、黒江さんに連れて行かれました。“お前には役目がある”って……毎日、注射を打たれて……」
「注射……?」
祐一の眉が動く。
「血を抜かれました。いっぱい……何本も。“この血が鍵だ”って、黒江さんはずっと……」
「血液型、わかりますか?」
「……A型、RHマイナス……って、昔母に言われたことが……あります」
祐一と紗香は、顔を見合わせた。
やはり、石化からの“復活液”に使われる血液は、彼女のものだった。黒江はそれを知っていて、玲奈を監禁していたのだ。
「……黒江さんは、生きているんですか?」
玲奈の問いに、紗香がそっと答える。
「……石化していたけど、復活の兆候がある。彼はまだ、終わっていない」
玲奈は、その言葉に青ざめた。
「私……あの人の声、毎晩、聞いてたんです。“目を覚ませ、神よ”って……あの地下室から……石像に語りかけていたんです……」
祐一は玲奈の肩に手を置き、静かに言った。
「安心してくれ。もう君は独りじゃない」
そのとき、車の無線がざらついた音を立て、ある通信が入った。
『……鏡花探偵事務所の伊藤祐一さんですね。こちら公安外事三課。至急、連絡を取りたい』
祐一は目を細めた。
かつて自分がいた公安――そして「外事三課」は、国家機密や非公式案件に特化した、いわば“裏の公安”だった。
「……動き出したな。国家が、とうとう表に出てくる」




