影の中の遺産
東京郊外の古びた屋敷。かつて事件が起きたこの場所に、再び伊藤祐一と柚山紗香の足が戻っていた。
屋敷の持ち主であった富豪・相馬家の過去を洗い直すため、二人は執事・黒江の個人記録を調査していた。
「ここの地下には……何かがある」
かつて執事・黒江が石化した現場。あれから幾度も調査されていたが、誰もその地下に踏み入ることはなかった。
それは、屋敷そのものが“警察管轄外”にされていたからだ。
「見て、祐一さん……この古い日記。黒江の自筆っぽい」
紗香が見つけた手帳は、昭和の時代から続く記録だった。
石化実験の萌芽、旧日本軍の極秘研究、特定の“血液型”に対する異様な執着——
そこには、執事・黒江の狂気が、少しずつ静かに育っていく過程が綴られていた。
「これ……ただの執事の記録じゃない。まるで、研究者の手記……」
日記の末尾には、こう記されていた。
『奴を復活させるには、A型RHマイナスの“器”が必要だ。あの娘の血こそが鍵となる』
『私はただ、封印を解きたいだけだ。かつての神を、この手で。』
「“あの娘”って……失踪した相馬玲奈のこと……?」
そう尋ねる紗香に、祐一は重く頷く。
「玲奈の失踪は、黒江自身が仕組んだ……。封印された存在、最強生物——。それが本当なら、俺たちは……とんでもないものを追ってることになる」
ちょうどそのとき、廃屋の奥で、かすかに床が軋む音がした。
誰かが、そこにいた。
「誰かいる……?」
二人が身構えた瞬間、床の一部が“ギシィ……”と沈み、ガコンと音を立てて開いた。
そこに現れたのは——
「……初めまして。相馬玲奈です」
そこには、行方不明とされていた少女・玲奈が、怯えたような顔で立っていた。
しかし彼女の目には、“石化”の兆候が浮かんでいた。




