もう一人の“私”
地下施設の冷却ポッドの中で静かに眠っている少女。
その顔を見た瞬間、紗香は息をのんだ。
「……嘘……私……?」
そこにいたのは、紛れもなく柚山紗香と瓜二つの少女だった。
肌の色、髪の色、顔立ち、すべてが一致している――だが、どこか“違う”。
冷却ポッドに刻まれたコードネームは、「Project: YSA-02」。
祐一が、傍に設置された端末を調べる。
「……この子は、“君のクローン”かもしれない。もしくは、プロトタイプ。
君の母親が、何らかの理由で“抗命因子”を複製しようとした形跡がある」
「でも……なんで? 私が生きてるのに、もう一人……」
早瀬が、端末の別のファイルを開いた。
「いや……違うな。これは“もう一つの選択肢”だ。
もし紗香が拒絶した場合、あるいは失われた場合に備えて用意された、代替の存在。
つまり、“命令を受け入れる紗香”だ」
祐一の顔が強張った。
「じゃあ、俺たちは……。君は、“拒否する紗香”であり……この子は“従う紗香”か……」
紗香は黙ってポッドを見つめていた。
ガラス越しに眠る少女は、まるで鏡に映ったもう一人の自分。
けれどその瞼の下には、何かを秘めた微かな影があるように見えた。
「祐一さん……この子は、生まれたくて生まれてきたのかな?」
祐一は言葉を選びながら、静かに答える。
「……わからない。でも、今眠っているということは、まだ何も“選んで”ない。
それを決められるのは……君だけだよ」
沈黙が流れたあと、紗香が小さく頷いた。
「この子を目覚めさせるべきかどうか……私が決める。
でも、その前に……母が何を想ってこれを作ったのか、それを知りたい」
その時、端末に新たなメッセージが表示された。
――「YSA-02 起動準備完了」
――「最終認証コード:柚山 紗香」
祐一が目を見開いた。
「……この施設、君を“本物”として認識している。
それは、この子が“模倣体”であることの裏返しだ」
早瀬がぽつりと呟く。
「もしこれが、人間と同じように心を持つ存在なら……
この世に、もう一人の“君”が目を覚ますということになる」
冷却ポッドの内部で、微かに少女の指が動いた――。
紗香は、静かに手を伸ばす。
「……私は、彼女を目覚めさせる。
それが、母の残した答えに近づく道だと思うから」
祐一と早瀬が見守る中、紗香は最終認証に手をかざした。
カチリ――。
冷却装置が外れ、内部のガスが静かに抜けていく。
目を開けた少女と、紗香の視線が交差する。
「……あなたが、柚山紗香……?」
「違うよ。私は、“本物”のほう」
「ふふ……本物も偽物も、今は意味がないわ」
――「私たちが、どちらを“選ぶか”だけ」
つづく。




