禁じられた記録
「これ、全部……私に関する記録……?」
紗香は、古い研究端末の前に立ち尽くしていた。ディスプレイに映し出されたのは、幼少期からの医療データ、血液検査、DNAプロファイル――そして、「特異抗体生成実験」という言葉。
祐一は、そっと紗香の肩に手を置いた。
「紗香、無理に見なくてもいい。これは……君の意思に関係なく、勝手に行われたことだ」
だが彼女は、静かに首を横に振った。
「違う……知りたいの。父が何をして、私はどうしてここにいるのか。もう、目を逸らしたくないの」
端末には、研究記録のバックアップファイルが残されていた。早瀬の手助けでログインすると、ある音声ファイルが再生された。
「研究記録、柚山慎吾。実験対象S01に関する経過観察……」
それは紛れもなく、亡き父・柚山慎吾の声だった。
「対象S01は、極めて安定した血液組成を持ち、石化酵素に対する完全な耐性を示す。彼女の血清から得られる抗体は、既存の理論を超越している。……しかし、倫理的な壁を越えることに、私は未だ躊躇している。
それでも、もしこの力が悪用されるならば――彼女には、すべてを隠すしかなかった」
「S01……それって……私のこと?」
紗香は震える声で問う。
「……間違いないな」
早瀬が答える。「“対象S01”は、君のコードネームだ。君の血は、石化現象に対する唯一の対抗手段でもある」
「だけどそれを、父は……私に隠していた」
祐一は、少しだけ眉をひそめた。
「隠していたのは、きっと守るためだ。君が“利用される存在”にならないように」
そのとき――警報音が、ラボの静寂を切り裂いた。
ピ―――― ピ―――― ピ――――
「侵入検知……?まさか、誰か来たのか?」
早瀬が警戒しながら周囲を見回す。
ラボの監視カメラが、通路を誰かが歩いてくる姿を映し出した。その人物は、コートに身を包み、顔をフードで覆っていた。だが、特徴的な銀髪がちらりと覗く。
「……見覚えがある」
祐一の声に緊張が走る。
画面には、かつて富豪の屋敷で行方不明となった**「もう一人の執事」**――**神原 忍**の姿があった。
「まさか、彼がまだ……!」
紗香が驚きの声をあげる。
神原は、ドアのロックを手際よく解除していく。どうやらこの場所についての情報を、完全に把握しているようだった。
「ここを見つけて来たってことは……」
祐一は低く呟いた。
「奴の目的は、この研究データか、あるいは――」
「紗香の血」




