隠された扉
暗がりの裏道を抜けた先には、ひっそりと佇む古びた倉庫があった。外からは誰も使っていないように見えるが、早瀬はまっすぐその建物を指差す。
「ここだ。この中に、地下へ通じる“扉”がある。」
祐一と紗香は顔を見合わせ、無言のまま頷いた。早瀬が鍵を取り出し、錆びた扉を開けると、油と埃の混じった空気が二人を包む。かつては物資の保管庫だったようだが、今はほとんど何も置かれていない。
「この倉庫、私の父――柚山慎吾が、かつて使っていた場所だと記録にあった」
紗香が呟くように言った。「ここにも、彼の痕跡があるのかもしれない」
倉庫の奥、壁の一部に明らかに不自然な鉄板が埋め込まれている。それは扉のようであり、同時に何かを封じるためのものにも見えた。
「この先にあるのは、国家の公式な地図には載っていない、非公開施設への通路だ」
早瀬が言う。「あの石化現象と、血液に関する研究が本格的に始まったのは、十数年前。ここがその起点のひとつとされている」
「でも……なぜ、私の父がそれを知っていたの?」
紗香は言葉に戸惑いながらも、扉に手をかける。開かれた扉の奥には、鉄製の階段が下へと伸びていた。まるで、地の底へ導かれるかのように。
「父は……探偵ではなく、監視者だったのかもしれない」
彼女の声は、かすかに震えていた。
一歩、また一歩。三人は慎重に階段を降りていく。途中、壁に取り付けられた古い蛍光灯が自動的に点灯し、薄暗い通路が姿を現す。そこには、異常な静けさが漂っていた。
「まるで、時間が止まってるみたいだ」
祐一が呟く。
その通路の先、鉄製のドアには「No.6 研究区画」の文字。そして、小さなプレートには、ある名前が刻まれていた。
「主任研究員 柚山 慎吾」
その名を見た瞬間、紗香の目が見開かれる。
「……どうして、父の名前がここに?」
「やはり、彼は中心にいたんだ。この研究の、始まりに」
早瀬の声もどこか複雑だった。
扉は電子ロック式だったが、早瀬が持っていた古いIDカードをかざすと、ロックは一瞬の間を置いて、解除された。
重い音を立ててドアが開く。その中に広がっていたのは、古いが明らかに高度な設備が並ぶラボだった。薬品の匂いと、金属と電気のにおいが入り混じる空間――そこには、すでに使われなくなって久しい機器たちが眠っていた。
だが、一部の端末にはまだ電源が入っており、モニターに微かに残るログが確認できる。
「こいつは……」
祐一が一台の端末に目をやる。
《実験記録 No.038 対象:O型Rh-特異血清》
そこには「対象者:柚山 紗香」の文字が、記録として残されていた。
「……私が、実験対象?」
紗香の声が震える。彼女はゆっくりと端末に手を伸ばす。




