裏道の選択
追っ手が迫り、祐一たちは焦りを感じながら裏道を走る。心臓が速く打ち、足音が耳をつんざくように響く。狭い路地の奥まで進んだところで、ようやく逃げ道を見つける。だが、その先に待ち受けるのは不安定な状況だ。
「ここで立ち止まるわけにはいかない!」
祐一は冷静に声を出し、隣を走る紗香に目を向ける。「全速力で行くんだ、わかってるな?」
「もちろん。」
紗香は息を切らせながら、力強く答えた。
急激に角を曲がり、さらに奥の細い道に入る。だが、追っ手はその背後で次々とやって来る。祐一たちはどうにかして逃げる方法を考えなければならなかった。後ろを振り返ることなく、先に進みながらふと思う。
「……井口。奴は何を企んでいるんだ?」
祐一が吐息を漏らしながらつぶやく。井口の冷徹さと意図が見えない。少なくとも、あの男は何かを隠していることだけは確かだ。
「さっきの会話からして、井口は単なる傀儡ではない。」
早瀬の声が後ろから響く。「あの男には、もっと深い目的がある。」
「深い目的?」
紗香が息を整えながら、早瀬に尋ねる。早瀬は無言で頷いたが、その表情にはさらなる不安が広がっているように見えた。
「間違いない。井口が手を引いているもの……それは、私たちがまだ知らない本当の真実だ。」
早瀬は力強く言った。
その言葉を聞いた祐一は、ますますその真実に近づきたいという強い決意を固める。しかし、突然、前方に大きな影が立ちふさがる。
「――もう逃げられないぞ」
低い声が静かに響く。立っていたのは、先程の井口ではなく、まったく異なる人物だった。黒いコートを羽織り、冷たい目を持つその男は、動くことなく二人の前に立ちふさがっていた。
「誰だ?」
祐一は警戒しながら言った。
男はゆっくりと口を開く。
「俺は、あの人の命令で来た。お前たちには、来てもらう必要があるんだ。」
その言葉に、祐一と紗香は一瞬戸惑う。しかし、早瀬がすぐに反応した。
「来てもらう?それがどういう意味だ?」
早瀬の声に、挑戦的な響きが込められている。男は笑わず、静かに続けた。
「お前たちが求めているものを、提供するためにここにいる。」
その言葉に、祐一は直感的に「罠だ」と感じ取った。しかし、どんな罠が待っているのか、現時点では全く予測がつかない。
「もう時間がない。選べ。来るか、それとも……」
男の手がゆっくりと背後にある暗闇に伸びる。背後からはもう一度、足音が近づいてきている。
祐一は、振り返らずにその男に向けて言った。
「お前の言う『来る』ってのが、何を意味するのか、まだ分からないが……」
祐一はぎりぎりのタイミングで背後に手をやり、隠していた銃を取り出す。
その瞬間、男は少し目を細めたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「なるほど、そういう選択か。だが、後悔しないようにな。」
祐一が銃を構えると、その男の目が一瞬で鋭く変わる。しばらくの沈黙が続き、息を呑む瞬間、祐一が引き金を引く……その時。
突然、遠くから強い光が照らし、周囲の空気が変わった。
「――今だ!」
早瀬が叫ぶと、すぐに彼は祐一と紗香の手を引き、男の前に立つ。瞬時に祐一と紗香は反応し、全速力でその男をかわしながら脱出する準備をする。
その先に待ち受けているものが、何であれ、もう後戻りはできない。全ては、この瞬間から始まる。
――彼らの選択が、次の運命を決める瞬間だった。




