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迫る影

ドアを叩く音が響き渡った。音が途切れることなく続くと、祐一は無意識に身構え、紗香もその場で動きを止めた。早瀬はすぐにその音を察し、眉をひそめて二人に指示を出す。


「静かに。絶対に声を出すな」


祐一は息を殺し、紗香もその言葉に従い、ただじっとしている。空気が重く、まるで呼吸すらも許されていないかのようだ。ドアの外からは、低くかすかな足音が続き、何者かがその場で待機しているのが分かる。


数分が経過したが、その足音はまだ遠くから続いている。そのうち、ドアの取っ手が回る音が聞こえた。


「くそっ……」

早瀬が短く呟き、祐一と紗香を見た。焦りが滲んだ表情を一瞬だけ見せるも、すぐに冷静さを取り戻し、静かに指を唇に当てて沈黙を守るように指示を出す。


「一瞬の隙をついて、窓から脱出するんだ」

彼の声はささやき声でありながら、決して揺るがない決意が込められていた。


ドアの取っ手が動き、音を立てながら少しずつ開く。祐一と紗香はお互いに目を見合わせ、息を飲んだ。動きが鈍くなる度に、二人はその隙を逃さないように微動だにせず待ち続ける。


やがてドアが完全に開くと、その先には見慣れた人物の影が立っていた。黒いスーツに身を包んだその男は、冷徹な目をしながら部屋に足を踏み入れる。


「……待っていたよ、早瀬」

その声に、早瀬は微かに冷笑を浮かべた。「お前か」


男の名前は「井口」。早瀬と深い関わりを持つ、謎めいた存在であり、ここに来ることは予想していた。彼の目的は未だに明確ではないが、間違いなくこの事件に深く関わっている人物だった。


「井口、何の用だ」

早瀬は無駄な感情を排して、冷静に問いかけた。


「何の用だって?」

井口は軽く肩をすくめると、無表情なままで続けた。「お前と連絡が取れなかったから、来てみた。君のやり方はいつも予測がつかないからな」


その言葉には挑戦的なニュアンスが込められていたが、早瀬は冷静に反応する。「どうせ、すでに何か企んでいるんだろう」


「当たりだ」

井口はにやりと笑い、少し手を広げた。「だが、君がここにいれば邪魔だ。さっさと消えてくれ」


その言葉を合図に、井口の後ろから数人の男たちが現れ、部屋に入ってきた。祐一と紗香は一瞬で状況を把握し、早瀬に向けて目で合図を送る。


「早瀬、どうする?」

祐一の目には強い決意が浮かんでいた。逃げることができる状況ではない。早瀬とともに、何かをしなければならないと感じている。


「少しの間、こいつらに手を出さずに済む方法を探すんだ」

早瀬の言葉は、全く動じることなく冷徹だった。「だが、今回はお前たちも巻き込んでしまうかもしれない」


その言葉が発せられると、井口は不敵に笑った。「君が何をしようと、遅い。これから先、君たちの存在は無駄になるだけだ」


「無駄だと?」

早瀬が顔をしかめて井口に近づき、冷徹な目を向ける。「お前のやり方はもう通用しない。私たちを黙らせることはできない」


その瞬間、井口の背後に立っていた男たちが、動き出した。祐一は素早く動き、二人の男の一人に近づいていった。手に持った何かを振りかざすと、その男を制圧する。紗香もすぐに彼の後ろを支えながら、一歩踏み込んだ。


「逃げるつもりか?」

井口は冷笑し、すぐに後ろの男たちに指示を出す。「こいつらを抑えろ」


祐一と紗香は、早瀬とともに一瞬の隙をついて、部屋を脱出しようとする。だが、井口は冷徹にその動きを見逃さず、瞬時に次の指示を出す。


「追え!」


追っ手が増え、逃げ道は限られてきていた。最終的に、祐一たちは狭い裏道に追い詰められる。しかし、その場所が最後の決戦の舞台となることを、まだ誰も予測していなかった――。

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