鍵を持つ者たち
翌朝。
祐一と紗香は、少女・灯がかつて暮らしていたという養護施設「みずのえの家」を訪れていた。
古びた木造の建物。
門にはツタが絡まり、まるで時が止まったような雰囲気だった。
出迎えたのは、施設長の早瀬光一郎。
70を過ぎた穏やかな老人だが、目は鋭く、どこか祐一を警戒するような表情をしていた。
「灯ちゃんのことかい……あの子は特別だった。変な夢をよく見ていてね。話してくれたんだ。“石の花が咲く庭”で、男の人が名前を呼ぶって」
「“石の花”……?」
祐一が反応すると、紗香がそっと手帳を開いた。
「……過去の記録と一致してる。“石の花”というモチーフは、例の地下実験施設の資料にも出てきたわ。“灰の目”とともに」
施設の裏手に、古い井戸があった。
灯は、ここでよく遊んでいたという。
だが、その井戸のそばにも――“石化の破片”が落ちていた。
「……こんなもの、今まで見たこともない。誰かが最近、ここに置いたとしか思えない」
そしてもう一つ、衝撃の事実が明らかになる。
早瀬が差し出した古い入所記録には、灯ともう一人、**「柚山 紗香」**の名があった。
「……私、ここに?」
紗香の記憶にはなかった。
だが、記録上は確かに“幼い頃に一時預けられていた”とある。
早瀬は静かにうなずいた。
「ああ。君の父親――柚山誠一さんが、一度だけ君を連れてきた。
“この子の記憶を、一度ここで預けたい”って。理由は、教えてくれなかった」
その場に、重い沈黙が流れる。
祐一は、じっと紗香の表情を見つめた。
「……やっぱり、君の中には“なにか”がある。鍵になる何かが」
そのとき、早瀬が言った。
「君たちが探している真実には、どうしても解かないといけない部分がある。灯の血液に関しては、施設側でも知っていたことだ。しかし、その血液が“選ばれた者”のものだとは、思ってもいなかった」
「選ばれた者?」
「君、柚山紗香。君もまた、選ばれた者の血を引いている。」
祐一と紗香は、驚きの表情を見せ合う。
「まさか…私が?」
紗香は過去のことを思い出す。
父の顔を覚えていない。ただ一度だけ、記憶に残っているのは“どこかで見た不安げな顔”だった。
早瀬は静かに言葉を続けた。
「君が幼い頃、柚山誠一は君に“忘れさせるため”の処置を施していた。君が知ってはいけないことを、君自身が知らないように。おそらく、君の記憶を封じるための措置だった。だが、その封印が今、少しずつ解けてきている」
紗香は無意識に手を胸に当て、冷や汗をかいた。
「…記憶を封じる? それって、私が覚えてはいけない何かがあるということ?」
「君が知るべきなのは、君の血液が持つ力だ」
早瀬は慎重に言葉を選ぶように続けた。
「灯もその力を持っていた。君たちの血液は、ある特定の“力”を引き出す力を持っている。それを解放するための鍵が、君の存在にあるというわけだ」
紗香は呆然とした。
「その力って、私に何をさせるためのものなのかしら?」
「それが――石化を引き起こす実験に関わる力だ。君たちが“血液型X”を持つ者ならば、その血液は恐ろしい力を秘めている」
その言葉に、祐一は顔を強張らせた。
「つまり、灯が持つ力も、君と同じ。だとしたら、あの子が失踪したのも無関係ではない。」
紗香は混乱した頭の中で必死に考えを巡らせた。
そして、ついに口を開く。
「……灯を、私が助けられるということ?」
「その可能性は高い」
早瀬は穏やかながらも重い声で答える。
「だが、君自身がその力を完全に理解していない限り、無闇に行動することはできない。君の血液の力は、暴走すれば誰も制御できない。だから、君は、まず自分を信じることから始めるべきだ。」
紗香はしばらく黙って考えた。
そして、深い決意を胸に抱きながら、頷いた。
「わかった。私は、灯を必ず見つけてみせる。そのために、すべてを捧げる覚悟だ」
祐一はそっと紗香の肩に手を置き、静かに言った。
「君の決意を信じるよ。俺も一緒に行く。どんなことがあっても、君を支えるから」
その言葉に、紗香はほんの少しだけ、柔らかな笑顔を浮かべた。
「ありがとう、祐一さん」




