追跡者
霧の立ち込める朝、祐一と紗香は早瀬光一郎からの助言を受け、灯の行方を追うために再び東京の街を歩き始めていた。
「灯がどこにいるのか、まだ全然見当がつかないわね」と、紗香は少し疲れた様子で言った。
「だが、確実に一つずつ手がかりをつかんでいくしかない。焦らずにやろう」
その言葉通り、二人はまず施設周辺に関わりのある人物たちを訪ね歩き、灯が失踪した夜の状況についての証言を集めていた。
だが、どれも決定的な情報は得られなかった。
一つ、気になる点があった。
灯が行方をくらませる直前、彼女が何者かに「指示」を受けていたらしいことだ。その人物は、言葉少なにこう告げていたという。
「君の血液は、もう準備ができている。君を解放するためには、必要な時にすぐに動けるようにしなければならない」
「その言葉の意味がわからない」
紗香が眉をひそめながら言った。
「解放? それは灯が何かを引き出されるってこと?」
「そうだな。何かしらの計画において、灯の力が重要な役割を果たすことは間違いない」
祐一は頷きながら言った。「だが、誰が指示をしていたのかがわからない限り、次にどう動くべきかが決まらない」
その時、二人の周囲に不自然な気配が漂い始めた。
背後から、足音が近づいてくる。
「誰かがつけてきている気配だ」と、祐一が冷静に言う。
「警戒を怠るな、紗香」
二人が路地の角を曲がったとき、背後から声がかけられた。
「待ってください!」
振り返ると、そこには見覚えのある人物が立っていた。
それは、早瀬光一郎だった。
「早瀬さん、どうしてここに?」
紗香が驚きの表情を浮かべながら尋ねると、早瀬は息を切らしながら言った。
「君たちが予想しているよりも、この街にはもっと危険な者たちが関わっているんだ。君たちが追いかけている真実に近づくにつれて、必ず何かが起こる」
「何かが起こるって、どういうことですか?」
祐一はその警戒心を解かずに尋ねる。
早瀬はゆっくりと顔を近づけ、低い声で言った。
「君たちが見ている影――それは、もう一つの“追跡者”だ。君たちを手に入れるために動いている者がいる。その存在は、君たちが予想している以上に凶暴だ」
その言葉を聞いて、紗香の顔色が変わる。
「追跡者? それは、一体……?」
「君たちが求める真実には、必ず警戒しなければならない存在がついてくる。僕はその存在を知っている。だから、君たちに伝えておくべきだと思った」
早瀬はしばらく沈黙した後、続けた。
「君たちを追ってきているのは、君たちの“血液”を手に入れるためだ」
その言葉に、祐一は眉をひそめる。
「血液? 君たちの血液が、石化を解く鍵になる。それを求める者たちがいるんだ」
「……まさか、君たちの話している“力”が?」
紗香が思い当たることがあったのか、急に顔を曇らせた。
「それと同じだ」
早瀬は苦い顔をしながら答える。
「君たちの血液がもたらす力が、どれほど恐ろしいものか知っている者たちが動き始めたんだ。君たちが探している灯にも、それを引き出す役目がある」
その時、祐一は背後で足音が近づいているのに気づいた。
「早瀬さん、危険です! すぐに離れた方がいい!」
祐一は早瀬の肩を掴んで引き寄せる。
その瞬間、路地を抜けてきた一群の男たちが現れる。
彼らは、スーツ姿に覆面をした人物たち。
その目には明らかな敵意が宿っていた。
「お前たちが求めているものは、我々の手に渡ることになる」
覆面の男が、冷たい声で告げる。
早瀬は一歩後ろに下がり、祐一と紗香に向かって言った。
「もう逃げられない。君たちは、選ばれた者として運命に従わなければならない。しかし、それに逆らおうとする者が現れるだろう。僕は君たちを信じるが――気をつけろ」
祐一と紗香は、男たちが迫る中で互いに視線を交わした。
「逃げるぞ!」
祐一は言い、二人は素早く路地を駆け抜ける。
後ろから、覆面の男たちが追いかけてきた。
だが、祐一はあえて立ち止まり、振り返った。
「紗香、急げ!」
そして、彼は背後に何かを感じながら、その場を離れた。




