灰色の仮面
都内、郊外に近い住宅地。
雨の降る夜、祐一と紗香は通報者の自宅を訪れた。
応対したのは、中年の女性――谷口美鈴。
顔は青ざめ、手は震え、目の焦点も合っていない。
「……昨日の夜、娘の灯が、突然いなくなったの。部屋には誰もいなかったのに……でも、窓の外に“あれ”がいたのよ」
「“あれ”?」
祐一が穏やかに尋ねると、美鈴はおぼつかない声で続けた。
「……灰色の、仮面をつけた人。ぬるりと立っていたの。見た瞬間、心臓が止まるかと思った。まるで人じゃなかった」
紗香は部屋を見回し、少女・灯の部屋へと向かった。
机には日記が置かれていたが、そこに書かれていたのは――
「また夢に出てきた。“石の庭”で、執事さんが私を呼ぶの。
“君の血は選ばれたものだ”って。
でも、お母さんに言っても信じてくれない。
今日も、あの仮面の人が門の前にいた。笑ってた。
……今夜、迎えにくる気がする」
「……これは、“夢”じゃない」
紗香が日記を読み上げながら、足元に目を留めた。
カーペットの端に、石の破片が落ちていた。
それは明らかに“石化”の痕跡――人工的な石ではない、“生体の変質”のような質感だった。
「祐一さん、これ……」
祐一は破片を手に取り、硬直した。
「間違いない。“灰の目”の現象が、すでに街に及んでる」
そのとき、庭先から物音が聞こえた。
祐一が急いで窓を開けると、そこには、再び“灰色の仮面”を被った人物が立っていた。
まるでこちらを試すように、静かに、ゆっくりと、頭を傾ける。
紗香が小さく声を漏らす。
「……あれは、“人間”じゃない。見て。首の関節が……逆に、曲がってる」
仮面の人物は、その場から音もなく姿を消した。
残されたのは、灯のスカーフと、血液のような赤い染み。
けれどその血は、どこか黒みがかっていた。
「祐一さん、この血……普通じゃない。酸化してない」
「……“血液型X”の可能性があるな。あの娘も、“鍵”の一人だったのかもしれない」
事件は加速し始めていた。
次に現れる“仮面”の狙いは、誰なのか――




