消された手記
志村亮の研究施設を出てすぐ、祐一と紗香は鏡花探偵事務所へ戻った。
重く沈む空気を振り払うように、祐一は棚の奥にしまってあった古いファイルを取り出す。
「これは……?」
「お前の父親、柚山誠一が残した唯一の遺品だ。俺が公安にいたとき、極秘ルートで渡された。読むな、見るな、触れるな――そう書かれてた。だが今なら、読むべきだと思う」
ファイルは革張りで、封印のように古い鍵がかかっていた。
紗香は迷いながらも、それを開ける決意をする。
中には、一冊の手記があった。
父・誠一の筆跡は震えていた。まるで何かに怯えるように。
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〈手記抜粋〉
「“灰の目”の研究は、もはや人の領域を超えている。
石化は単なる物質変化ではなく、“時間”の停止だ。
特定の血液を通すことで、時間は再起動する。
……それは命を蘇らせることと同義。
私は、自分の娘の中に“その鍵”があると知ってしまった。
ゆえに、私は記録を消した。
ゆえに、私は“消される”。
だがもし、これを見ているのが紗香なら――
真実を知れ。そして、誰もその扉を開くな」
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紗香はページを読み終えると、静かに目を閉じた。
「父は……私を守ろうとしてたのね。でも、その代償に何を失ったのか、私は知らない」
祐一は手記を閉じ、しっかりとした口調で言った。
「だがもう、君だけの問題じゃない。“灰の目”の正体も、君の血の意味も、すべてが誰かの狙いになってる」
その時、事務所の電話が鳴った。
受話器の向こうから、怯えた女性の声が響く。
「助けて……娘が……“灰色の男”に連れて行かれたの……!」
祐一と紗香は顔を見合わせた。
「“灰色の男”……あの仮面の?」
「行きましょう、祐一さん」
事件は、再び動き出す。
そして、“灰”に包まれた真実が、ひとつまたひとつ、明かされていく。




