交錯する血と記憶
廃村・霞之村からの帰り道。
車内は、沈黙に包まれていた。
「……あの少女、結月じゃなかった。でも、何かが引っかかる」
祐一の声は、低く落ち着いていたが、その目には鋭い光が宿っていた。
紗香は助手席で、持ち帰ったデータ端末を睨みつける。
「この中に、“灰の目”の記録が残ってるかもしれない。でも、普通の方法じゃ開けない。暗号化されてる」
彼女の声もまた、どこか不安げだった。
祐一はふと、バックミラーを見た。
「……尾行されてるな」
小さな黒いバイクが、距離を保ちながらついてくる。
だが祐一はそれを追い払うでもなく、静かにハンドルを切った。
目的地は、都内のある私設研究施設。
そこには、祐一がかつて公安時代に助けた天才クラッカー・志村亮が待っていた。
「また物騒なブツ持ってきたな、祐一兄。……んで、こっちが噂の美人助手か」
「初めまして。柚山紗香です」
「よろしく。じゃ、こいつの“蓋”開けてみるか」
亮は端末をスキャンし、十数分後には防衛レベルのセキュリティを突破していた。
「見ろ……これ、普通じゃないぞ」
画面に現れたのは、人の血液に関する異常なデータだった。
“血液型X”――通常のABO式やRh式に属さない、未知の血液パターン。
「この血液、自己再生力が異常に高い。細胞分裂速度も、免疫活性も……下手すりゃ不老不死に近い」
「結月の血か……?」
祐一が呟くと、紗香はふと顔を曇らせた。
「……祐一さん、少し気になってたんだけど」
「ん?」
「この“血液型X”、私の健康診断結果と……一致してるの」
一瞬、時間が止まったように思えた。
「……どういうことだ?」
「父が亡くなる前に、私にだけ“絶対に外では血を流すな”って言ってた。冗談だと思ってたけど……」
志村がモニターの奥から声をかけた。
「つまり、君の体内にも“鍵”があるってわけだ。……それ、ヤバいぞ。下手すりゃ、今からでも狙われる」
祐一は立ち上がり、拳を握った。
「紗香、君はここにいてくれ。俺が“黒仮面”の正体を突き止める」
だが紗香は、微笑を浮かべて首を横に振った。
「違うわ。これは私の事件でもある。……“選ばれた血”としての、ね」
亮が慌てたように口を挟む。
「ちょっと待てって!お前ら、何に巻き込まれてんだよ!こいつは国家レベルの機密だぞ!」
「だからこそ、俺たちが追わないと、また誰かが消される」
祐一の声は、静かに、でも確かに揺るぎなかった。




