仮面の科学者
その写真は、まるで時の狭間から投げ込まれた断片のようだった。
鏡花 結月の傍らに立ち、無表情でこちらを見つめている男。
白衣に身を包み、顔の下半分を銀の仮面で覆っていた。
「……この男、どこかで見たような気がする」
祐一が眉をひそめると、紗香は小さく息をのんだ。
「……父の書き残したノートに、似たような人物がいた。“仮面の研究者”。父は彼を“灰の目のNo.1”と記していたわ」
灰の目――その名を聞くたび、胸の奥がざわつく。
謎の組織。表では一切姿を見せず、国家レベルの研究を影で操る者たち。
「“No.1”……つまり、トップに君臨しているってことか」
「ええ。父の日記には“石化の始まりは彼の理論からだった”と書かれていた。でも名前も、正体も、どこにも記録は残っていなかった……」
二人は地下室を後にし、鏡花探偵事務所へと戻った。
あの写真を手がかりに、祐一は警察時代の裏ルートを使って、過去の研究者記録を洗い始める。
数時間後――ある一件の資料がヒットした。
「……この顔。やっぱりだ。十年前、極秘プロジェクトに参加していた科学者、“神原 理一”。」
画面に映し出された写真は、仮面の男と同じ輪郭、同じ目をしていた。
彼はかつて、政府と民間企業が共同で進めた“生体保存実験”の主導者だった。
「記録では、五年前に“研究所の火災で死亡”とされてる。でも、遺体の身元確認は“困難だった”って……」
「つまり……生きていて、今もどこかで結月を……」
紗香の言葉に、祐一が頷く。
「灰の目の“核”が、この男なら――探し出せばすべてが繋がる」
その時、事務所の電話が鳴った。
受話器を取った紗香の顔色が変わる。
「……警察から。“結月らしき少女の目撃情報が出た”って」
「どこだ?」
「都内じゃない……長野の山奥。廃村になった場所。警察は既に現地に向かってるけど、詳細は不明――」
「行くぞ」
祐一の瞳が鋭く光る。
長野。父を亡くした紗香が一時期過ごした、思い出の地でもあった。
仮面の科学者、神原理一。
彼がまだ生きているなら――
「結月を奪還する前に、あの男の正体を暴かなきゃならない」
紗香もまた、決意の目を向けた。
「これは“父の遺志”を継ぐ戦いでもある。……決着をつけましょう、祐一さん」
二人は夜の東京を抜け、長野へ向けて出発した。
やがて、その先で待つのは――
**灰に沈む研究所跡と、もうひとつの“石化の真実”**だった。




