封じられた真実
「国家より、密命にて訪問いたしました。」
その言葉を聞いた瞬間、祐一の表情が一変した。
かつて公安にいた頃、何度も目にした「国家の影」が、ついに目の前に現れたのだ。
男は名を秋庭慎一と名乗った。
内閣調査室の特別案件担当。言葉は丁寧だったが、その瞳には冷たい意志が宿っていた。
「我々は、“灰の目”の動向を数年にわたり監視してきました。が、最近になって、かつてない規模の“実験”が再始動した痕跡があります。」
祐一と紗香が黙って聞く中、秋庭は封筒を取り出し、机の上に置いた。
封筒の中には、極秘指定と刻まれた黒いファイルと、一本の古びたカセットテープ。
「これは――?」
「鏡花誠一、つまり――紗香さんの父上が残した最後の“証言録音”です。発見されたのは、某省の地下保管庫。先週、匿名の通報で所在が明らかになりました。」
紗香の瞳が大きく揺れる。
「父が……?」
秋庭が小さくうなずく。「彼は、“灰の目”と接触していた最後の民間人の一人だったと考えられています。
これは、彼の死の直前――数日前に録音されたものと思われます。」
祐一が無言でカセットデッキを取り出す。テープを入れ、再生ボタンを押す。
――“……これを聞いているということは、私はもうこの世にいないのだろう。”
“紗香、祐一くん、そして誰よりも、まだ見ぬ『真実を追う者』へ。”
“私は国家の一部でありながら、それに殺された存在だ。”
声は確かに、紗香が記憶している父のものだった。
静かで、しかし切実な声。
“私が追い続けたのは、『石化現象』のルーツだ。”
“それは太古の進化ではなく、むしろ“退行”に近いものだった。”
“人間は、ある一点までは“進化”と呼ばれる過程を歩んでいた。しかし、そこから先――つまり、“本来の地球の意志”に触れた瞬間、全ての命は拒絶された。”
“だからこそ、石化は起きる。拒絶の象徴として。”
祐一は眉をひそめる。
紗香は、拳を握りしめていた。
“私はある人物に出会った。彼の名は、No.1。”
“『灰の目』のリーダーであり、かつての科学者だった人物。”
“彼は言った――『人間は、生まれながらにして“選別されている”』と。”
“そしてその“鍵”が、娘――お前の中にあると。”
再生が止まる。
沈黙の中、誰もが息を潜めていた。
秋庭が静かに切り出す。
「この内容が真実なら、“灰の目”は紗香さんを標的として確実に動いています。」
「……私の中に、何かがあるってことですか。」
「そうです。石化を制御する“因子”。鏡花誠一が、それを“調和因子”と呼んでいた記録があります。」
祐一が静かに立ち上がる。
「秋庭さん。政府は――どうするつもりですか?このまま黙って見ているんですか?」
秋庭は目を細めて答えた。
「我々も、“灰の目”の内側には手を伸ばせません。
だからこそ、あなたたちのような“外部の目”が必要なんです。」
「使う気ですか、俺たちを?」
「……“託す”のです。すべてを。」
そう言って秋庭は立ち上がった。
「間もなく、“灰の目”が大規模な“実験”を始めます。
その中心にいるのは、あの屋敷から失踪した“娘”です。」
「彼女がまだ、生きている……?」
「おそらく。しかし時間は――もう、あまり残されていません。」
ドアが閉まる。
残された祐一と紗香は、互いの視線をそらせずにいた。
「……祐一さん、どうしますか。」
祐一は一つ息を吐き、短く答えた。
「やるしかない。鏡花探偵事務所は、逃げない。」




