シャイルvsハーヴェスト 2
「へえ? 剣撃の中、この距離聞こえるんだ?」
大声ではない、普通の声の大きさだというのに。
「耳掃除はこまめにしてるんでね」
海賊の戦いは騒音の中が当たり前だ。どうやら何十種類の音を聞き分ける能力に長けているようだ。だからこそ戦況を見極め、的確に指示ができる。
「さすが今最強の海賊と言われるドラグーン海賊団だね」
「やめろ、そのアホなネーミング。ドラグ海賊団だ」
ドラグーンは竜騎兵、つまり戦士という意味になってしまう。勝手にそう呼ばれていることが最近の彼らの不満だ。たまたま名前が龍に似ているため、巷ではそんな呼ばれ方がされている。
二人は本当にまったくの互角だ。だが、やはり一撃が重く体力があるハーヴェストが徐々に押し始める。
ガギン! と音を立てて右手のナイフを弾き飛ばした。その飛んだナイフは女王のいる席の近くに突き刺さる。
「貴様あああ!」
とうとうモルドーが走り出した。一歩間違えれば女王に当たっていたかもしれない、もうその事実だけで十分だ。
「おい、お前のことだろ」
シャイルはベルトに仕込んでいたナイフを抜くと、くいっと顎でモルドーをしめす。
「お前の剣だろ! お前のことだよ!」
二人とも無視して戦っている。しかしモルドーが剣を振り下ろしてきたのでいったん距離をとった。
「はあ? 弾いたのお前じゃん。俺は別にババアの命狙ってねえよ」
「僕だって狙うか。あんなところにいる婆さんが悪い」
「女王陛下への侮辱、死罪に値する!」
「命の代償は命だってさっき言ってただろうが。人によって価値が異なるわけないだろ、アホか。さっきくたばったお前の部下は言葉以下の塵屑ってことか?」
は、と鼻で笑うシャイルに今回だけはハーヴェストも同意だ。
「人は皆等しく人でしかない。地位なんてふんぞり返ってる奴らが勝手に言ってるだけだろ。何の意味もないね。僕から見たら婆さんは婆さんだ、バーカ」
「糞餓鬼どもがああああ!」
怒りに吠えるモルドー。その様子に二人は同時にため息をつき。
「うるさい」
そう言うと、二人同時に動いた。ハーヴェストの一撃をモルドーが防ぐが、その脇をすり抜けたシャイルがすれ違いざまに膝の裏を切りつける。
「があ!?」
「ほんと、戦士とか騎士って関節守ろうとしないのな。牛みたいに突っ込んで馬鹿じゃねえの」
そのまま首をかき切ろうとしたが、その一撃を弾いたのはハーヴェストだ。
「あ?」
不愉快そうに眉を寄せるシャイル。ハーヴェストはふん、と息を吐く。
「こいつは俺らの獲物だ。俺らを罠にかけてくれたんだからな」
「それはこっちの話だ。俺らに喧嘩売って来たんだから俺が殺す」
「お貴族サマの事情なんて知ったことか、クッソどうでもいい」
「……それも俺のセリフだ、海賊!」
最後は初めて見る、シャイルの叫び。どうやら本当に心底苛立ったらしい。渾身の一撃がハーヴェストを襲う。真正面からそれを受けてハーヴェストは舌打ちをした。
「馬鹿力じゃん! 手加減してたのかよホント腹立つ!」
手がしびれそうなほどの力。それがハーヴェストの頭に血が上る。自分と戦い方がかぶるのが許せない。しかしシャイルの次の一撃は力技ではない。
目で追うのがやっとの超高速連撃だ。ナイフという小型の武器を最大限に生かした圧倒的な追撃。
「長剣相手にナイフで力技勝負するアホがこの世にいるかよ、馬鹿じゃねえのか!?」
「なんだとテメェ!? たった今力技かました馬鹿のくせに!」
二人の剣撃は続く。会話だけ聞けば、文字通り子供の喧嘩だというのに。行われているのは、一瞬の隙が命を落とす激しい戦いだ。
モルドーが走り出すと同時に部下たちも一気に動いている。ほとんどは海賊に、残り数人はマルセル達のところに。しかし、いつの間にかマルセルとツイードはいなくなっていた。
そうなると海賊との戦いになる。それは切り合っているハーヴェストも例外ではない。それに二人の近くには自分たちの隊長であるモルドーもいる。
雄叫びとともに二人の戦いの間に戦士たちが乱入してきた。勝負を邪魔されたことに二人とも舌打ちする。
「邪魔だ」
「くそ!」
モルドーにトドメを刺したいところだが既に他の戦士が守るように前に立ってしまっている。チラリと見れば既にシャイルもいなくなっていた。
引き際だ、後ろでは仲間たちが既に戦っている。自分もそこに駆けつけなくては。
勝負がつかなかったのは気持ち悪いが、今はやるべきことの優先順位はそれではない。斬りかかってきた戦士の腕を切り落として、ギャーギャーと喚いているうちにドラグたちのところに走り出した。
「興ざめだわ。余計なことをしてくれたわね」
せっかく面白くなってきたというのに、どうして戦士というのは上流階級の楽しみ方を学べないのか。
「このままごちゃごちゃと乱闘になっても、誰が生き残っても面白くないわ。そろそろ帰ろうかしら」
そうつぶやいたが、連れてきた護衛の動く気配がない。いつもは女王の言葉にすぐに立ち上がるために手を差し出すというのに。おかしいと思い振り返ると、そこには自分の護衛ではなくマルセルが立っていた。
「勝手にここに来てしまうなんて、悪い子ね」
「今更でしょう。僕はそういう役割だ」




