シャイルvsハーヴェスト 1
ギイン、と剣が交わり弾かれる音が響く。お互い体力のなさは理解している。だからこそ、無駄のない動きで相手の力を利用する。てこの原理を使った戦いかたを得意とするのは、お互い様だと戦ってすぐにわかった。
「思い出した」
淡々と、何でもない事のようにシャイルは言う。ハーヴェストの三連撃をすべてかわしながら。
(連撃かわすのかよ、バケモンじゃん!)
(長剣で連撃すんなよ、バケモンかよ)
「なんだよ!」
吠えながら、ハーヴェストは蹴りを放とうとしたが。ふいに背筋がぞくりとして止めた。見ればいつの間にかシャイルは左手にもナイフを持っている。蹴っていたら、切り裂かれていた。
「初対面で気持ち悪いって言ってくれたよな。失礼な奴」
「だってそうだろ。生きてるくせに、死人みたいなツラして!」
ハーヴェストの一撃を体勢を低くしてかわすと、そのまま一気に距離を詰めた。間合いを詰められたら長剣は役に立たない。
膝にナイフを突き刺そうとしたが、目の端にきらりと光るものが見えた気がして横に飛んだ。見ればハーヴェストはすでに剣をふるっている。あの短時間で、あの大きさの剣を切り返すとは。
連撃が得意なだけではない、手首が柔らかいらしく長剣らしからぬ戦い方までできるようだ。手首の負担が大きくなるのであまりやらないだろうが。
(海賊の剣って絵本に出るような馬鹿みたいな反り方してるって思ってたがなるほど。切り返しがしやすい構造だったのか。そりゃそうか、大勢対大勢で戦うんだから)
生きる舞台が違えば戦い方が違う。だがそれは別の舞台に上がっても生かされる。否、生かさなければ生きていけないのだ。
海賊はいつ死んでもおかしくない危機と常に隣りあわせだ。嵐や遭難にあう危険、海賊同士の戦い、討伐される危機。だからこそ様々な場面で戦えるように、生きることに強く執着する。
大嫌いな部類だ。
「息してれば生きてるのに。自分から生きることに縋ってて楽しいか? くだらねえ」
「はあ!? お前……本ッ当に腹立つな!」
ハーヴェスト渾身の一撃が振り下ろされた。かわそうとしたが、体勢が悪い。今かわすとおそらく次の切り返しで左手のナイフか、腕そのものが吹き飛ばされる。咄嗟に、両腕を交差してナイフでバツをつくりそこで剣を受けた。
受けた瞬間、思い切り挟んで横に凪ぐ。剣をからめとられた状態で横に飛ばされて、ハーヴェストの体勢も一瞬崩れた。追撃しようとしたが、ハーヴェストは削がれた勢いを逆に利用して横に一回転すると斬りつけてきた。それをかわす。
「あら、器用な事」
女王が面白そうに言った。
「あんな一撃をまともに受けたら真っ二つになりますからね。防御は剣でやって、受け止めず逸らせって教えました」
マルセルがなんでもないことのように言う。それがいかに常人離れしているか、モルドーにはわかる。それがあんな、声がわりもしていない少年ができてしまうなど。
「それができちゃうのねえ、あの子」
「かわいいでしょう、あげませんよ。せっかく見つけた猫ちゃんですから」
「……あら。まさかアレがチェシャなの?」
「馬鹿な!?」
声を上げたのはモルドーだ。まさか、あんな子供が? ファミリーの一員は誰であれ王家に直接仕える。裏の世界で殺しも情報操作も何もかも手掛ける重要な役割だというのに。
「貴様、大切な役割を一体なんだと思っている!? 子供に与えるなど!」
「人を見た目でしか判断できないの? あの子は優秀だよ、少なくとも君よりは」
はは、と笑われてモルドーの額に青筋が浮かぶ。
「おちびちゃんだから体力ありきの戦いは無理です。筋肉馬鹿ならあの場で剣を受けて力比べってところでしょうが。そんなの自分の体力削るだけで究極の無駄で無意味ですからね」
マルセルの言葉にモルドーはもちろん、その場にいた戦士全員が睨みつける。おそらく剣でせめぎあうのは戦士の戦い方なのだろう。それを侮辱されたのだ。
マルセルの解説に女王はふふふと少女のように笑う。どうやら退屈しのぎにはなっているらしい。女王の御前でなければ、今すぐこの男を殺しているのに! そう顔に書いてあるかのようだ。
「ツイード、どう見る?」
シャイルに体術や剣技を仕込んだのはツイードだ。そのためどう見ているのか気になりマルセルはそう声をかけた。
「一応互角ですね。剣技は相手の方が上ですが、相手の動きを予測して数歩先を見て戦うチェシャにも勝機はあります。しかし海賊だからでしょうかね、彼は咄嗟の判断がずいぶんと適格だ。正反対の戦い方だからこそ、どちらが有利というのはありません」
「一瞬の勝負になるってことか。いいなあ、あの子欲しいな」
「アホ」
最後の一言は離れたところにいるドラグだ。




