Mad Tea Party 3
「よく言うよ。最初から生かしておくつもりなんてないくせに。それにしても」
ふ、っと。笑いながらも目を細める。その姿はまるで獣だ。モルドーはまったく気付いていないようだが。
「たかが人間一匹の命程度で、なんで償いが必要なのかなあ」
ぴくり、とハーヴェストがその言葉に反応する。生きることに強い執着を持っている彼にとっては納得できない考えなのだろう。無論、何も言わないが。
言わないというより言えないのだ。格が違う、と理解している。気が付いたらぎゅっと手を握り締めていて、汗をかいていた。
――なんなんだ、あいつ。人間じゃないみたいだ。
まるで新月の夜に紛れる影。周囲の暗闇と溶け込んで、闇夜全てがあの男の支配下であるかのような。そんな不気味さと恐ろしさ。
ハーヴェストは満月の夜、煌々と明るい中ドラグたちと出会った。ドラグはギラギラした太陽のようで、時折穏やかな月のようで。いつも自分を照らしてくれる存在だ。その真逆の存在に全身の血が凍ってしまいそうだ。
「償いっていうのはそれ相応の価値に見合ったモノを返すことじゃないか。いらないでしょ、人の命だよ?」
「もういい、それ以上しゃべるな! 貴様は悪魔よりも外道であることは明白、害でしかない!」
「悪魔に会った事ないくせに。ま、いいや。これで役者が揃ったんだし。ねえ、女王陛下?」
笑いながら二階のほうに顔を向ける。ほぼ全員が驚いた様子でそちらを見た。シャイルは全く興味がないので見向きもしない。ドラグたちは驚いてはいないがチラリと目線だけ向けた。
そこには立派なドレスを身にまとった一人の老婦人らしき人がいた。豪華な扇で口元を隠しつつ、穏やかに笑っているものの目つきの鋭さがただ者でないとわかる。女王陛下、という言葉が真実ならこの国の頂点に君臨する者だ。
「早々にばらさないでちょうだい坊や」
「いらしてるだろうと思ってましたよ。こういう馬鹿騒ぎ貴女はお好きでしょうから」
何でもない会話をしているように見えるが、これが異様な光景だというのはその場にいる全員が理解した。特に戦士たちは全員目を見開いて慌てて跪く。
「ふふ。私を楽しませてちょうだい。誰がどう転んでも私は楽しいわ。海賊も一緒に踊ってちょうだい? 今ここに国のあり方が問われる天秤が用意されてるのよ。誰に傾くのかしらね」
「天秤って事は皿が二つだろうが。俺たちが入ってねえぞ婆さん」
「言葉を慎め下郎!」
ドラグの言葉にモルドーが勢いよく顔をあげて怒鳴る。
「うるさい」
シャイルと、ハーヴェストの声が重なった。二人はお互いを見て顔を顰めて小さく舌打ちをする。その様子にツイードはくくく、と笑っている。
「気が合いますね。お友達になれそうじゃないですか」
「アンタ冗談言えたんだな。全然面白くないから教師雇って勉強してくれ」
「本当、可愛くないですねえ。あと三回くらい私に皮肉が言えたら可愛く見えるかもしれません」
「やっとシャイルの良さがわかってきたねツイード。さて、じゃあ面白そうだしシャイルと、そっちの子と一騎打ちでもしてみようか」
突然のマルセルの提案に、ドラグは面白そうにひょいと肩をすくめた。
「なあんでお貴族様ってのは茶番が好きかねえ。いいじゃねえか、もう総当たりで」
「ここは僕らの流儀に合わせてよ。玄関ブチ破ってきたんだからそっちが客人だろ。女王陛下の御前なんだからさ」
女王は微笑むだけで何も言わない。しかし、叱りがないのなら了承ということだろう。
モルドーは怒りに顏を染めている。自分を完全無視して勝手に茶番が始まろうとしているからだ。腹心を殺されたというのにお咎めなしというのも納得できない。
が、女王の前では何も言えない。全てが終わったら必ず自分が処刑してやる、と怒りに震える。
「んじゃ、一回だけのってやるかな。ハーヴェスト」
ドラグの言葉にハーヴェストは剣を抜くと前に進む。シャイルもどこからともなくナイフを出した。
(暗器? どこに武器を仕込んでるのかわかりにくいな。貴族の服ってゴテゴテで鎧かよって思ってたけど。アイツの場合は文字通りの鎧みたいなもんか、武器をしまうための)
だが、あまりごちゃごちゃ仕込んでは動きにくい。パーティの夜見た時はかなり動きが速かった。重ければ動きづらくなる、おそらくもう一つか二つくらいしか武器はないはずだ。
ただし金持ちの持つ武器には詳しくない。自分の知らないとんでもない武器を持っているかもしれない。
(チビのくせに長剣か。俺の攻撃も一撃で弾いたし、たぶん力っていうより剣技が長けてるんだな。間合いを開けたら終わりだ)
シャイルも冷静にハーヴェストの見た目から戦い方を推測する。本来は相手を観察する前に急所を突く戦い方が得意だ。だが、一応ツイードから貴族としての決闘の戦い方も教わった。
(あの夜俺の戦いを見られてなきゃ決闘っぽく戦って、油断したところを突くこともできたんだが。こいつにフェイントや様子見は不要か。船で生きてるなら体力は向こうの方が上だ、長引けば俺が不利になる)
お互いを睨みつけるように見つめ、しばらく沈黙がおりる。そして、女王が広げていた扇をたたむ。ぱちん、と音がした。
一気に二人が動いた。




