Mad Tea Party 2
女王も一度も会っていないとのことだ、普通は紹介をするというのに。これこそが女王が危惧した内容だ。ヴェンゾン家が権力を持ちすぎたのだ。
もはや一つの貴族という枠には収まらない。王家を脅かす存在となり得る。
「害獣も含めてまとめてきれいにして差し上げます」
「楽しみにしているわ。私を退屈させないでね、ナイト」
そう言うと、女王はチェス盤の上のナイトをルークの前に置いた。
「リター」
「はい」
名前を呼ばれたメイドは要件を言われずとも行動できる。お茶のおかわりを淹れてから、馬車の手配をするために一礼してから部屋を出た。
走っていたドラグたちだったがバァン、という凄まじい音と共に足を止めた。見ればドラグのほんの少し横の地面がえぐれている。
「狙撃!?」
周囲を見渡すハーヴェストだったが、ドラグはそっちじゃねえよと上を見る。
「破片がきれいに扇状に飛んでやがる。上からだ」
走っている自分たちに狙いを定めて地面をえぐるなど高いところからの狙撃に決まっている。それに同じ場所に立っていて地面を狙ったのなら、破片は一方向に、そして遠くまで飛び散るはずだ。見上げたとき何かがひらりと屋根から移動するのが見えた。
「わざと外されたな。ついて来いってか。口で言えよ、まったく」
殺すこともできたのにわざわざ外したのだ、間違いなくヴェンゾンの者だろう。
「この間のあいつか?」
面白くなさそうにハーヴェストが聞くが、ドラグが首を振る。
「この距離撃てるんだったらマスケットだ。あのガキじゃ無理だろ、反動がでかいしそもそも銃身を手で支えられねえさ」
「チビだったもんな」
「お前と同じ位だろ」
「あいつの方がチビだったよ!」
ムキになって言い返す姿に軽く笑いながらも、身をひる返した者を追ってそちらの方向に走り出す。
わざと追えるようにどうやら速度を調整しているらしく、ギリギリ姿を確認できるかできないかの距離を保っている。夕日がちょうど逆光となり姿はうまく確認できないが、それなりに長身の男であろう事はわかる。おそらくヴェンゾンの中でも凄腕、といったところか。
「しゃあねえな。パーティ会場まで行くとするかね」
「俺たちオシャレしてねえけど」
「手に唾つけて髪とかしとけ」
ゲラゲラ笑いながら、海賊は走る。果たして貴族の服を着たあいつらは、獣か悪魔か。
「マスケットの音が聞こえた。うまくご招待できたみたいだ」
優雅にワインを飲みながらホール会場にたった二人きりで席に座っている。するとあっという間に窓からツイードが入ってきた。野良犬の始末が思いの外早く終わったので、海賊を呼びに出てくれたのだ。
「あの様子だと今回の茶番に彼らも気がついたようですね。船の守りも固そうでした。近づいた私に気づいて火炎瓶を投げつけてきましたよ。蹴り返しましたけど」
「大方副船長とかその辺の奴が残ってるんだろう。僕らは船や海の戦いには疎い、深追いはしなくていいさ。さて」
ツイードが戻ってきてからそれほど時間が経たずにバタバタと足音が聞こえてくる。そしてドガァン、と正面の玄関が吹っ飛んだ。
「凄いノックだね。そんなに激しくなくても聞こえるよ」
「そりゃ失礼。上流階級のマナーはよくわからないんでね。屋敷が馬鹿でかいから音もでかくしないと聞こえないのかと思った」
たどり着いた場所は大きな屋敷。入って目の前が広いエントランスとなっているが、あまり生活感がなかった。装飾品もほとんどない。普段使っていないようだ、ヴェンゾン家の持ち物ではあるものの生活しているのはここでは無いのだろう。
待っていたのはたったの三人。ニコニコと笑っている青年と、おそらく先ほどマスケットを撃ってきたであろう執事のような男。そして先日の少年。
「なんだ、招待してくれたからもっとオモチャの兵隊みたいな奴らが待ち構えてんのかと思ったぜ。人数足りるのか?」
「足りるよ」
その一言に海賊たちが殺気だった。お前らなんて三人で充分だと言われたのだから。
「さあてと。面倒くさいからこっちも出てきてもらおうか」
マルセルが手で合図をするとツイードが後ろにある扉に向けてマスケットを撃った。外からは悲鳴が聞こえ、撃たれたと思われる者の名前が叫ばれる。そして勢いよく扉を開けて大勢が入って来た。全員鎧を身にまとっている、先頭にいるのは怒りに顏を染めたモルドーだった。
「貴様ああああ!」
「人の家に勝手に忍び込んでおいて失礼だな」
「おい、テメエの方がノックでけえぞ」
「確かに」
ドラグの軽口にマルセルはあははと笑った。腹心を殺されたモルドーは剣を抜く。
「海賊討伐をしくじった件、審問会にかけようかと思ったがやめだ! 我が部下の命を一方的に奪った罪、貴様の命でもって償え!」




