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商人貴族~僻地で始める国家改革~  作者: ふぃん
第2章 人材官アーク
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旧ウォーデン領(3)

テルダを出発して数日後、二人はソンミ村に着いた。


道中でいくつかの都市に寄ったが、どの都市も略奪や破壊にはあっておらず一応平和的な支配を受けているようだった。しかし、商人が少なくなったのが影響しているのだろうか、以前に比べて活気は減っており少し暗い雰囲気が漂い始めていた。


「ここがソンミ村ですか。」

「そのはずなんだけど。なぜ人がいない」


ソンミ村には人が誰もいない。いくつかの家に入って確認してみたが、生活の品物はなくなっており、生活した痕跡も見当たらなかった。


「やはりイワン侯爵の弾圧があったのか。」


シービ教団は異教徒である。


そのためこの王国では白い目で見られて生活をしているのだが、ウォーデン家は彼らの信仰を黙認し、その代わり隠密・諜報活動に優れていた彼らを諜報員として使っていたのだ。


イワン侯爵家は他の大多数の貴族と同じく教会とのつながりも強いため、支配を始めると同時に教団の弾圧を開始したといっても不思議ではない。

アークが険しい顔をしていると、ユリアが何かに気づく。


「アーク様」

「?」


ユリアは村の外れにある森を指さした。


「これは私の勘なのですが、あの奥の森の中に潜んでいるような気がします。」

「、、、確かにその可能性はあるかもしれない。」


村は荒らされているようには見えないから、先ほど考えたような侯爵家の弾圧はまだ始まっていないと見るべきだろう。にもかかわらず、いきなり拠点を捨てて次の場所に移動したとは考えにくい。そんな簡単に次の拠点が見つかるはずがないし、なにより彼らの教団は異教徒なのだ。


ということはまだこの付近に残っているけれど、弾圧が始まればいつでも逃げられる場所にいるはずだ。条件に当てはまるのはあそこに見える深い森だ。


「ユリアの勘はよく当たるの?」

「孤児院の頃からかくれんぼの鬼をやっていましたから。」


ユリアは少しはにかんでいった。


「それに、実はさっき森の奥から視線を感じました。」

「よし、行こうか」



馬を森の入り口につなぎとめて先に進んでいくアークを見ながら、ユリアは自分の発言に自信が持てないでいた。

確かに視線を感じたのは事実だが、こんな思い付きのように言ってしまってもし誰もいなかったら、嘘つきになってしまう。きっとアークは笑って許してくれるだろうけど、徒労に終わらせてしまうことになるのは事実だし、もう私の言うことを聞いてくれないかもしれない。

心の中で悪い想像ばかりが膨らむユリアは、むしろ誰かいてくれと願うようにあたりを見渡していた。


しばらく歩いて木々が深くなってきたころ、ユリアの目が違和感を覚える。木々の隙間から何か光が反射している。それが矢だと分かった時、既にユリアの体は動いていた。


「危ない!」


前を行くアークを押し倒して覆いかぶさる。その上をシュッと矢が抜けていった。

ユリアはすぐさま起き上がると、続いて降ってくる矢を剣で一払いする。このような場合、矢には毒が塗っていることが多い。体をかすってしまうだけで致命傷になってしまう恐れもあるのだ。さらに後ろにいるアークを庇いながら逃げなければならない。この森からアークを無事に脱出させるためにユリアは頭をフル回転させていた。


あたりを見渡すと木々の後ろから黒い人影が見える。人数はおよそ20人。完全に囲まれてしまっていた。


「おーい!私だアークだ。」


矢に当たらないように伏せていたアークが大声で叫んだ。アークの声が森に反響すると同時に、囲んでいた人影の中から一人の少女が飛び出してきた。ユリアより少し幼い少女だ。彼女はユリアが身構える暇もなく横を駆け抜けていき、アークの顔を覗き込む。


「アーク、、、?」

「おう!久しぶりだなユナ」


ユナと呼ばれた少女はアークの顔を確認すると同時にアークに覆いかぶさった。


「なっ!なななな何しているんですか!?」


突然アークに抱きついた少女にユリアが驚きの声をあげるが、ユナと呼ばれた少女はチラリとユリアを見ると、ぷいっとアークの方を向いてしまった。


そうこうしているうちに他の人たちも駆け寄ってくる。どうやら30人ほどいたらしい。木にうまく擬態していたためユリアは全く見破ることができなかった。もし、ユリアが彼らの敵だったらあっという間にやられていただろう。再会を喜ぶアークたちを見ながら、ユリアは無事に役目を果たせたことにホッとしていた。


「アーク殿よく来てくださった。本当ならば、こちらからミカンダ地方に行かなければならなかったのに。」

「君たちのことだから正確な情報が入っていると思うので詳しい説明は省くぞ」


森の奥にあるいくつかの洞窟でシービ教団の人々は暮らしているようだった。教団の団長はアークに対して終始気まずそうに応対する。二人の間には少し硬い空気があった。


侯爵家からの奇襲攻撃だったのでウォーデン家は防ぐことができなかったのは無理もない。しかし、敢えて敗戦の戦犯を決めるとしたらこのシービ教団であろう。


商人にとって情報が命である。早く情報を仕入れるために各地に報告官を派遣している商人も多い。王国最大級の商人であったウォーデン家はシービ教団を使って各地の情報を早く正確に仕入れることができていた。これは、商人としてだけでなく貴族としてもとても重要なことであった。


しかし、ウォーデン家にとって運が悪かったことに、侯爵家からの襲撃がある1週間前に教団の指導者が死去した。そのため王国各地で情報収集を行っていた団員たちはソンミ村に帰り、葬儀や次期指導者の選挙などを行っていたのだ。結果として、侯爵家の襲撃の準備や襲撃の情報は入って来ず、ウォーデン男爵家は襲撃によって敗走してしまったのだった。



アークは今回の目的である情報網の復活を明かした。


「私の新しい領地に来て欲しい。確かにここよりも田舎で不便で暮らしにくいとは思うが、今までと同じく君たちの信仰の自由は保障するし、土地や建物の補助も行うつもりだ。」


団長はアークの言葉を聞いて見るからにホッとしたような顔になった。ウォーデン家が現在のような苦しい状況になってしまったことにずっと責任を感じていたのであろう。


「我々の職務放棄によって男爵様を死なせてしまった。アーク殿、いやアーク男爵様、もう一度チャンスをいただけるなんてこんなにうれしいことはありません。是非、新領地へ向かわせてください。」


よし!今回の訪問の2つ目の目的もうまくいくことができた。


アークは心の中で快哉を叫んだ。


「ありがとう。心強い味方が戻ってきてくれた。」



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