会談
レオが大山脈のふもとの町に来た時、先に入っていたアークが待っていた。ここはウォーデン領ではなく、国から派遣されている長官が治めていた土地だったが、最近の国政の混乱で長官がおらず「無領主地」になっている町だ。
「お待ちしておりました。陛下」
「こいつは驚いた。突然行ってびっくりさせようと思っていたのに。」
びっくりさせられてたまるか。こっちは領地の命運がかかっているんだ。
「突然のご訪問でしたので何も準備できていませんが。」
「ひゃひゃひゃ。構わん構わん。」
アークが先に来ていたことに少し驚いた顔をしたレオだったが、丁寧に礼儀を尽くしていること対して上機嫌に返事をした。
ここに来る前、カサブランカからレオへの接し方のアドバイスをもらっている。とにかく下から下から対応することだ。子供の頃から王になる人間としてチヤホヤされてきたらしく、相当自尊心が高い人物のようだ。
レオは椅子にふんぞり返って座っていたが、さっそく本題をぶつけてくる。
「ところでよお。おまえんとこにカサブランカが行ったっていう情報があるんだがな。」
「はい。カサブランカ様いま我が領内にいらっしゃいます。」
「おお、そうか。」
誤魔化しようがない事実であるから、内心冷や汗をかきながらも正直に答えたアークだったが、レオは意外にも反応しなかった。
「どうだ?あの我儘な性格だから迷惑しているだろう。」
「そんなことはございません。」
淡々と会話が進み、かえってアークが不安になる。
カサブランカを取り戻しに来たわけではないのか?しかし、逃げた彼女を追ってここまで来たはずだろう。カサブランカを連れ帰るつもりがないなら、いったい何が狙いなんだ。
少しの沈黙があいた後、レオが呟く。別に人に聞かせようとは思っていないくらいの小さな声量だ。
「俺はオモチャを壊れるまで遊び倒すような子供だったんだあ。」
「はあ。」
「だが次第にオモチャを壊すこと、それ自体が楽しくなってきてな。これは3日で壊れた。これは5日で壊れたなんて毎日ワクワクしながら遊んでいたわけだ。」
「、、、」
「そしていつしか俺の興味は物から人間になったんだ。人間は面白いぞ。もちろんオモチャのように乱暴に扱うと壊れる。だがそれだけじゃねえんだ。何かのきっかけ、たった一つの言葉。これだけが頭の中をぐるぐると回り、こちらが何もしなくても壊れてしまうことがある。」
だんだんと理解が追いついてきた。
要するにレオにとって、カサブランカは「オモチャ」に過ぎなかったのだ。これは予想外だった。てっきり、彼女が「王位継承のライバル」だったからこれほど執着していたのだと思っていた。
だが、レオにとってカサブランカはあくまでオモチャに過ぎないのなら、絶対に手元に置いておく、絶対に排除するといったような存在ではないということか。
レオの頭の中を少し覗けた気がしたが、ますますわからない。ではなぜカサブランカを追ってここまで来たのだろう。
「カサブランカが逃げ出したのは仕方がねえ。あいつには籠の鳥は似合わんからな。だが、俺が壊れるまで遊び倒す前にいなくなったのは少し腹立たしい。苛ついている。そう思わねえか。」
「はあ。」
「おおおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいいいい!!!!思わねえかああああ!!!???」
突然、空気を破るような怒声が響く。何も攻撃を受けていないが、アークは椅子ごと後ろに転げそうだった。
何に対してそんなに怒ったのか全く分からない。唐突にヒステリーを起こすことはカサブランカから聞いていたが、それでもびっくりした。
「その通りです。」
「だよな。」
何もわからないままに頷く。レオはいつの間にか全くの平常心に戻っていた。まるで先ほどの一瞬の激怒は幻かと思うくらいに冷静だ。
「だから俺には新しいオモチャが必要なんだよ。」
なるほど。カサブランカの代わりにレオを満足させるような人材を差し出せということか。しかし、カサブランカ自身がなかなか癖が強い人物だ。代わりの人間と言ってもなあ。王相手に対等の口が利けるような人間はまずいないだろう。
話の流れからしてウォーデン領の危機は去ったと思っていたアークは、少し安心しながらどこか他人事のように考えていた。
「お前、面白いやつだそうだな。」
うん?
顔を上げるとレオがその不気味な顔でこっちを見ている。
「商人として貴族の爵位を金で買い、今の領地に移った後は農民の反乱を鎮圧し、大きな学校まで作ってるそうじゃねえか。」
混ざってる。いろいろと混ざっている。
父と兄と妹の業績が混ざっている。しかも、アーク自身の業績はその中に一つもない。
「決めた!お前はとりあえず俺んとここい。今各地で馬鹿貴族どもが五月蠅くてよ。味方が多い方がいいんだ。」
目を付けられた。レオに味方になれと迫られた。
こんな提案は当然断るべきである。
彼の残虐で身勝手な行動は国中の貴族を敵に回し、多くの人々の恨みを買っている。今はレオの圧倒的な強さを前におとなしくなっているが、彼の力に陰りが見えた途端、彼らはすべて敵になる。最も長期的に見たとしても、彼が寿命を迎えたらその時がレオ陣営の最後だ。
しかし、断ったらアークの命がないだろう。断ったその瞬間、レオのその腰につけている剣で殺される。外に待機しているユリアも一緒に殺される。
絶対に拒否しなくては。ここで頷いたらウォーデン領の未来がない。領主たるもの自分の命を捨ててでも領地を守らなけらばならない。
体が震える。ああ、俺は死ぬんだな。
アークは覚悟を決めた、、、、つもりだった。
「しょ承知しました。レオ陛下に従います。」
体が震えていたのは恐れからではない。肉体が理性を拒否していたのだ。
その口からはっきりと発せられた自分の言葉で、アークはレオに降った。




