レオ襲来
「、、、アーク様緊急事態。」
ユナからの報告でミカンダは蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。アークは直ちにウォーデン家の面々とカサブランカを集めて対策会議を開いた。
「レオ殿下がここへ向かっている。」
「なんで、、」
アークは絞り出したように言った。全員が絶句する。
このタイミングでレオがミカンダにやって来る。こんな田舎に来る理由はたった一つ。カサブランカの存在がばれたということだろう。
「私たちがウォーデン家の馬車と行動を共にしていたのは、王都近隣の多くの住民たちに目撃されていた。きっとそこからバレたのでしょう。」
カサブランカが珍しくしおれている。自分のせいでウォーデン家が目を付けられたという自覚があるのだろう。
「申し訳ないわ。すぐにここを出て行きます。」
「お待ちください。カサブランカ様がやって来た時に私は言いました。『歓迎する』と。その思いに偽りはありません。カサブランカ様が出て行く必要はございません。」
言葉通り今すぐにミカンダを出て行きそうなカサブランカをアークは引き止めた。
「それにレオ殿下はルイ殿下とマリー殿下との戦いで消耗しているはず。そう気安く連戦はしないでしょう。戦争になると決まったわけではありません。」
アークはかなり危機感を持ちながらも、一方で楽観視している自分もいた。
レオは傍若無人な振る舞いばかり噂で聞くが、だからと言って一応は人間だろう。反乱を起こしたわけでもない田舎の一貴族を突然滅ぼすなんてことはしないはずだ。
後継者候補のカサブランカに逃げられたことに憤慨しているのか。しかし、それならば王都に軟禁していた時にすでに殺しているはずだろう。
とにかく、一度レオと会ってみる必要があると考えた。
「ユナ!レオ殿下がミカンダに到達するのはいつだ?」
「早くて3日後」
「3日!」
王国の西部でルイと戦っていたと聞いたが、相変わらずものすごい進軍スピードだ。3日でここまで到達できるのか。
アークの一声でミカンダは非常事態に入った。
「アーク!今この領内にあるすべての軍事力を第1都市に集めるぞ。」
「分かった。防衛体制はすべてテュール兄さんに任せるよ。」
「ミネルヴァ。万が一のことがある。第1都市にいる大学の生徒たちを第4都市に疎開させるんだ。そしてお前も第4都市に残っておけ。」
「わかりました。」
万が一レオの軍勢が山脈を越えてミカンダに侵入してきた時のために、やるべきことは最大限やっておく。あとは、アークが山脈の手前でレオを足止めするだけだ。
「僕はレオ殿下との交渉に行くよ。」
「危険です!」
真っ先にミネルヴァが反応した。アークがこのように言い出すと分かりきっていたようだ。
「あの方は気分次第で人を殺めるような狂人だと伺いました!とても話し合いができるような相手だとは思えません。」
ミネルヴァがレオがいかに狂ってるか言い終わった後、カサブランカいることにハッとして気まずそうにしたが、カサブランカは特に気にせず頷いた。
「私もお勧めしないわ。レオに目を付けられたら取るべき行動は2つ。逃げるか戦うかよ。」
他の面々も言葉にこそしないが、アークがレオと交渉に行くことについて反対派が圧倒的多数のような雰囲気だった。確かにどんな目に合うかわからないのにわざわざ出向いてあっさり殺される可能性だって十分に考えられる。
だが、、
「僕たちウォーデン家は一度領民を見捨てた。」
アークのその言葉で会議室は重い静寂に支配された。
忘れもしない。
イワン侯爵からの奇襲を受けたウォーデン家は暗闇の中をひたすら逃げ続け、命からがら王都にたどり着いた。その結果、父のウォーデン男爵は死亡し、旧ウォーデン領はそのままイワン侯爵の支配下に入った。ミカンダに来るきっかけとなった事件である。
奇襲とはいえ、領民たちを見捨ててしまった。これは為政者として失格だった。もう同じ過ちは犯さない。
「だから今度は逃げない。そしてミカンダに一歩も触らせない。」
逃げない。
そして戦いになることを避ける。戦いになればこの広いミカンダすべてを守ることはできない。そして戦いになれば領地が荒廃することは避けられない。
「山脈の前でレオ殿下と会談を行う。この話し合いが決裂したら僕は殺されるだろう。もしカサブランカ様が言っているレオ殿下の人間性が正しければね。」
少しカサブランカをおちょくるような冗談を言ったつもりだったが誰も笑わない。重い空気がずっと場を支配していた。
「だから僕が帰って来なかったら防衛戦に移行してくれ。イアンナ姉さんを領主にして、テュール兄さんを司令官に。みんな団結して戦って欲しい。」
確かにレオは強いがこっちには天然の要塞がある。レオの軍勢を食い止めることは決して不可能なことではない。
「どうしてもお兄様が行かないとだめですか?」
ミネルヴァが目を真っ赤に腫らしてか細い声で言った。疑問というより、駄々をこねるようなそんな声だ。アークはそれには答えずただ彼女の頭を撫でた。
そして、重苦しい場の雰囲気を変えるためパンパンと手を叩く。
「さあ、時間がない!みんなやるべきことをやってくれ!」
その一言で動けない呪文が解けたかのように、それぞれ部屋を飛び出した。静かな昼過ぎの第1都市は一転して大騒ぎになった。
そのままアークは出発しようとする。レオが到着するのは3日後だそうだが、山脈を越える時間を考えれば今出発しないと間に合わない。
「何一人で行こうとしているんですか?」
馬に乗ったアークの背中から声をかけられた。
振り返るとユリアが不満気な顔をして立っていた。
「私も行きます。」
「ユリア。わざわざ死に場所に付いてくることはない。」
「護衛が必要でしょう?私はアーク様の護衛です。」
「ユリアの気持ちだけ受け取っておく。」
アークは一人で行こうとしたが、ユリアは馬の前に仁王立ちをして一歩も引かない。
「アーク様が私を買ったのです。買主と運命を共にするのはそんなに不自然でしょうか。」
「ユリア。俺は最悪殺されるだけで済むが、女の君は死より辛い目に合うかもしれない。だから、、」
「かまいません。私は剣闘士ですから。そのくらいのことで動じません。」
ユリアの目は完全に据わっていた。ひょっとしたらアーク以上に覚悟を決めているのではないか。アークは頷かざるをえなかった。
「、、、分かった。ユリア。護衛を頼む。」




