ルイvsレオ
カサブランカがミカンダに入ったころ、王国西部ではルイ、マリーとレオの軍勢が衝突していた。そして、戦闘開始から僅か2日でルイの軍隊は崩れかかっていた。
「盾兵!残った盾兵はルイ様をお守りしろ!」
ルイの側近の貴族たちの緊迫した声が響く。陣形など完全に崩れてしまい、生き残っている兵士たちがバラバラに動く。
ルイの挙兵にあわせて各地で貴族たちが反乱を起こし、総計20万の軍勢がルイに合流する。そんなシナリオはあっという間に崩れ去った。
レオがわずか数日で反乱の鎮圧にやって来た。この機動力の高さは完全に予想外だったのだ。もちろん貴族たちは前回のように油断していたわけではない。性格はともかく武人としては王国トップクラスの能力を持つレオに対して最高級の警戒をしていた。
しかしレオは、そんな警戒さえも上回る速度で進軍してきた。反乱の知らせが入ったその日中に兵士を集めて王都を出発し、ほとんど休憩を取らずにやって来たのだ。その結果、各地で反乱を起こした貴族が合流する前にレオと戦うことになってしまった。
しかしそれでもルイの数的有利は変わらない。ルイ軍は5万に対し、レオ軍は数千だ。だが、戦況は絶えずレオ軍が押していた。その理由は武器である。
「また矢の雨が来るぞ!」
「きた、、きた、、」
兵士たちの泣き叫ぶような声が響く。
ルイが恐る恐る空を見上げると、太陽を遮るように数千の矢がゆっくりとこちらに向かってきた。
「ルイ様早く!盾の中へ。」
部下に言われて小さい盾に数人で身を寄せ合って矢を防ぐ。無数の矢が地面や盾に突き刺さる音が響いた。それと同時に盾に入れなかった一般兵たちが悲鳴をあげながら次々と倒れていく。先ほどからこのような光景の繰り返しだ。
まさかレオの軍がみんな弓矢で攻撃してくるのは想定外だった。このような矢による遠距離攻撃は盾さえあれば簡単に防げるのだが、軍勢の中で盾はとても少ない。
そもそも、一般の兵士は槍を両手で持って戦うのが基本である。騎士であっても右手に剣、左手に馬の手綱を持って戦う。一般的な接近戦の場合は重くてかさばる盾は邪魔でしかなく、したがって基本的に戦場に持ち込まないのだ。
接近戦ばかり経験してきた王国の貴族や騎士たちにとって、遠くから矢を放ってくるだけのレオの軍勢はあまりにも臆病な人間に見えた。
「レオおおおおお!!!この卑怯者!正々堂々と戦え!お前には名誉はないのかあああ!」
我慢できずに立ち上がった騎士がその瞬間顔を貫かれて即死する。
「レオ様はいないよ。」
盾に隠れて震えていたルイたちの耳に場違いなほど幼い声が響いた。恐る恐る盾から顔を出してみると、馬に乗った子供が一人目の前にいた。
「マリー殿下と向こうの丘で戦っている。」
「お前は誰だ。」
「僕はレオポルド。レオ様の一番弟子さ。」
レオポルドと名乗るその少年は大弓を抱えていた。彼の身長くらいはありそうなとても大きな弓だ。
「いつまでこうしているつもり?どうせ君たちは何もできないんだろう?ずっと盾の中に隠れて震えているよりは逃げたほうがいいと思うだけど。」
目の前で挑発されても兵士たちは誰も飛びかかれない。理由は単純。レオポルドが馬に乗っているからだ。徒歩で追いかけてもあっさりと逃げられる。
この戦いが始まってからはずっとこのような感じだ。レオ軍と言えばゼロルド率いる50万の王国軍を力技で破ったという話ばかりなので、てっきりそのような戦いをしてくると思っていた。しかし、ふたを開ければどうだ。遠くから矢を放ち、追っては逃げられ、追うことをやめれば近づいて挑発してくる。
戦いと呼んでいいのだろうか。否。ルイの兵士たちが一方的に矢で射られるだけのつまらない狩りだ。
「そうやって隠れても無駄なんだって!」
完全に戦意を失い、盾の後ろに隠れているルイの軍に苛立ったのか。レオポルドは目にもとまらぬ速さで大弓から巨大な矢を発射する。その矢は物凄い音をたてながら、木製の盾をいとも簡単に貫いた。哀れ、その盾に隠れていた兵士は悲鳴も上げずに即死した。
「君たちは命拾いしたね。今の僕の矢が最後の矢だよ。我が軍は矢を使い果たした。確かに僕の見通しの甘さもあったかもしれない。まさか矢を使い切るなんて。でもさ、ほとんど抵抗らしい抵抗も出来ずに矢を受け続ける君たちもどうかと思うよ。」
苛立ちからか、それとも小さな体で大きな弓を使ったことによる反動か、レオポルドは肩で息をしながら囁くように言った。
「それじゃ。またね~」
好き放題言ったレオポルドはさっさと自陣に引き上げていった。
災難が去り命拾いしたルイたちは重い沈黙のまま戦場から逃げ出した。矢の攻撃により盾で庇えないため馬はすべて射殺されていた。
貴族も騎士もルイだって、一般兵士と同じく徒歩で逃げかえるしかなかった。この戦いでレオの兵士が一人30本用意していた矢を使い果たし、ルイの5万の兵士は2万人になっていた。
「レオ、、この屈辱絶対忘れない。」
目の前に敵の司令官がいるのに手も足も出ず、敵の矢が尽きるまで好き放題されたルイは、あまりの怒りで目に涙を浮かべながらかすれた声で言った。
このルイの敗走により、丘を挟んだ反対側でレオと戦っていたマリーら教会勢力も撤退。
そして、意気揚々と王都に引き上げようとするレオの耳に飛び込んできたのはカサブランカの逃亡だった。




